夢じゃない
突然、白い光が谷底に満ちる。
ショッカーとの戦闘でドロドロになった7人は驚き小さく悲鳴を上げた。
がしかし、ショッカーの苦痛による大絶叫に掻き消された。
今までどんなに殴っても蹴り上げてもすぐに「キキィー」とか言って起き上がってきたショッカーが苦しみうめいている。
目鼻がないのにそれが苦痛による呻きだとわかる。
「ジョワンズは…、君達のいうところのショッカーは光魔法に弱いんだよ」
「でもこんなに苦しがっているのに死なないんだよねー」
「それに後から後から湧いてくるから魔法有効範囲からはみ出たヤツがまた襲ってくる」
「みなさん大丈夫ですか?手足はちゃんと付いてます?首とれちゃうと回復魔法でも無理ですからね」
三つ子と西洋人形少女が喋りながら頭上から降りてくる。
ショッカーの群れに向けられた三つ子の人差し指からはあの白い閃光が伸びている。
「これは初等魔法だけど長くやってると疲れるからさっさと戻るよ」
「ほら早く固まって!」
なんだかわからないが7人はとにかく三つ子達の近くに集まった。
そして先刻移動する前に聞いた不思議なお経のような呪文を三つ子がまた唱え始めた。
「ちくしょう…いったいどうがなになってるんだよ!!」
そこははじめにいた場所。
今では懐かしいような気持ちすらするエレベーターのすぐ前。
厳蔵の叫びに6人も同意したいところだが
「おっさん、落ち着けよ。混乱してるのはオレらも同じだけどさ、アンタ言葉まで混乱してるから」
拓斗がリコーダーに付いた泥を拭きながら突っ込む。
「とにかく、説明してもらいましょうよ」
アケミがエレベーターに寄りかかりどこから出したのか煙草をふかす。
「お風呂に入りたい…」
七瀬がしゃがみこんで呟く。
「し 死ぬかと思った…」
田所が背広を脱いで仰向けに倒れている。
「ミシェル…どうして来てくれなかったんだい?僕達あんなにも通じ合っていたはずなのに…」
「ねえ泉くん、おばさんとっても気になっているんだけどミシェルちゃんってどなたなの?」
一番激しく戦い一番ドロドロになっているやす子が安藤泉を気遣い話しかける。
他の人間に比べて息があがっていないのは彼女だけだ。
どうやら場慣れしているらしい。
何故慣れているのかは彼女の戦いっぷりを見た今となっては怖くて誰も聞けない。
「ミシェルは…第二冥王星アキバランのプリンセスで…僕の恋人です…」
「あらあらまあ!どこでお知り合いになったの?やっぱり星が違うと色々と苦労もおありでしょうね」
「はい…うううっ、ミシェル…」
やす子は口元に手をあてて同情にみちた瞳で安藤泉を見る。
それはもしかしたら『ああ、可哀相に。頭イカレてるのね』といった同情かもしれないが、手で表情を隠しているので何とも言えない。
「「「んー、どっから説明すればいいのかなぁ?なんか面倒――」」」
三つ子が互いに顔を見合わせ頷き合う。
「とりあえずお前ら一人ずつ話せよ!」
拓斗がイライラと叫び、それをヨロヨロと起き上がった田所が弱々しくいさめる。
「そうね…、まずここはどこ?」
アケミが簡潔に聞く。
「ここはクウィンディア」
三つ子の一人がこれまた簡潔に答える。
「…地球じゃない…のね。地理の授業で若ハゲアゴー先生が現時点の世界全ての国名読みあげやがった時に『クウィンディア』なんてのはなかったハズ」
七瀬がぼそぼそと一人ごちる。
とりあえず地理の先生の容貌はなんとなくわかった。
「じゃあ次に何故『救世主』が必要だったか。そして何故私達が選ばれた…んだかはわからないけれどとにかくココにいるのか。最後にあんた等は何者か」
アケミが煙草をふかしながらズバズバ問う。
他の6人もうんうんと頷き異世界の4人を見る。
すると三つ子のうちの一人が進み出た。
「じゃあ最初は僕が説明するよ。あ、僕はピストニカね。まぁ区別つかないとは思うけど一応。で、えーと『救世主』が必要だった理由は『突然未知の生命体が星の内部に巣くってしまいたまに出てきて人を襲う。防ぐだけで精一杯。だから応援を頼んだ』単純明快でしょ?」
「いや、大雑把すぎるし。」
七瀬が座り込んだまま疲れた表情でツッコム。
「うーんと、だから先刻見たと思うけどあのジョワンズ、えっとショッカー?あれは雑魚でーあれの他にももっとやっかいでどうもうなのがわらわら出てくるわけ。いやあホント困ってるんだよー。あ、なんでヤツラが湧いてくるとかサッパリわかんないから質問されても困るからね☆」
アハハ、と緊張感なく笑う。
「それは大変ですね…。でもどうして突然『救世主』を呼ぼうと思われたんですか?」
なんだかちょっと報道番組のレポーターチックな言い回しで田所が尋ねる。
「解決策が見つからなかったから。湧き出てくる裂け目は増えてくし、魔法で少しは防げるんだけど魔法使いの数にも限りがあるし第一ずっと魔法使ってたら疲れるじゃん?」
「この世界ではやっぱ魔法使いが存在するのか…?」
厳蔵が唸る。
「だってよう、俺はまだ半分夢じゃねえかと疑ってるんだか…」
と、厳蔵が言い切る前に拓斗がリコーダーで殴った。
フイを突かれた厳蔵が前のめりに倒れる。
「痛そうだね夢じゃないな」とか言いながら拓斗、リコーダーを拭く。