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アリスのお家

道幅が狭く、夜間のみの営業を主とした怪しげな店が密集する裏通りを抜けやや街はずれに建っているこじんまりとした家。

裏通りの建物が灰褐色で妙に胡散臭かったのにくらべその家はクリーム色の壁に赤い屋根。

本当にささやかだが裏手には庭がありイチゴや花が植わっている。


部屋も寝室以外はキッチン付きのダイニングがあるのみ。

ダイニングの真ん中に置かれた木のテーブルは6人くらい一緒に食事ができそうな大きさがあるのだが実際にある椅子は二脚。


その一つに座って拓斗が足をぶらぶらさせている。




「すごいね、拓斗くん本当に異世界から来た救世主サマなんだー」


拓斗が座っている椅子からほんの一歩か二歩くらいの場所にあるキッチンで良い香りのお茶を淹れている少女が嘆息の声をだす。


「うん!前々からオレって只者じゃねーとは自分でも思ってたんだけどさ!まさか異世界からもお呼びがかかるとはな」


ふんぞり返る拓斗。

実際はお呼びがかかったワケではなくたまたま運悪く召喚空間に居ただけなのだが。


ちなみに少女の家にお邪魔する道々、自分が異世界から来た事やこれから公爵令嬢を救出しに行く事など自分に都合よく脚色しあらかた喋ってしまった。



「しかもお城のお姫様やあの有名な三つ子の魔法使いさん達から直々にお願いされてるなんて!いいなー私もお会いしてみたいなー」


お姫様の部屋に行ったことや三つ子達と街捜索をしているんだと話したところ少女は羨望の眼差しで拓斗をみた。

どうやらこの国ではお姫様や城付きの魔法使いなどはちょっとした芸能人扱いの様子。



砂時計で時間を計り、きちんと茶葉を蒸らしてからお茶をティーカップではなく大きめのマグカップにたっぷりと入れる。

先刻から甘い匂いが漂って来ていたキッチンの右横に作り付けになっている妙に大きなオーブンをひらくと、その瞬間芳ばしく甘い匂いがいっきに家中へひろがる。


拓斗は嗅覚に全神経を集中させ恍惚とした表情で涎を拭う。


少女は慣れた手付きでオーブンから鉄板を取り出しあらかじめテーブルに置いておいた網の上にあつあつの焼き菓子を並べていく。


「すっげぇ!!めちゃくちゃ美味そう!!オレの姉貴もたまにクッキーとか焼いてるけど半分以上炭っていうか灰?さっきは「うわートロそー姉貴みたいだー」って思ったけど取り消す!!アリス天才!お菓子万歳!」


さらりと暴言を吐きつつ、けれど本当に感動しているらしく拓斗は目の前に並べられていく焼き菓子に熱い視線をそそぐ。


「えへへ、お菓子作りにはちょっと自信があるんだ。実は街ではそれなりに有名なお店に卸してるんだよ。『ゴッディーバ菓子店』ていうところなんだけど知ってる?」


「うーん…、つうかオレこの世界にきてまだ二度目だし。でもなんかその店名聞いた事あるな。チョコレートも有名だったりしない?」


「うん!そうそう、高級チョコが有名…ってそうだよね拓斗くんこ国のことあんまり知らないんだよね。…じゃあなんで知ってるの??」


不思議そうに少女が拓斗を見つめる。


「うーん…、まあ、ほらあれだいずこも同じ秋の夕暮れ…みたいな?」


意味不明。


「そんなことよりさ!これもう食ってもいい?うひょおっすげえいっぱいある!!全部食えるかなー?!」


テーブルに置かれた5つの金網に広げられた焼き菓子。

大きさは拓斗の拳よりやや小さいくらいで厚みのあるクッキー生地の上にナッツやアーモンドが細かく砕かれのっており、その上には黄金色の飴状のシロップがとろりとかけられている。


5つの網にどっさりあるのでだいたい50個はあるだろう。

2人で食べるにはあきらかに多い。


「あ、もうちょっと待ってね。生地が冷めてからの方がサクサクして美味しいの。それにこれ全部食べたら胃にもたれるよ!ほら、一緒に来た他の救世主さんたちにもお土産に、ね」


そう言って少女はお茶の入ったカップを拓斗にさしだす。


「えーまだダメなのかー…。でも一番美味い時に食った方がいいよな。じゃあさじゃあさ!待ってる間にアリスがさっき犬を追い払った炎出すの教えてくれよ!!オレも救世主っぽくドオオーンってなんか派手な魔法つかってみてぇっ!!」


わくわく

瞳を輝かせながらせがむ拓斗。

少女は「うーん」と困ったよう唸る。



お菓子作りが上手くて魔法が使えるこの少女の名前はアリス、年は三つ子と同じ15歳らしい。

なんとなくそれくらいだろうとは思っていたがお姫様が14歳で三つ子が15歳だというのを拓斗は初めて知った。


アリスの両親は一年前にそろって病で亡くなったそうで、唯一の肉親である4つ上の兄は雇われ魔法使いなのだが出張が多く家にはほとんど帰ってこないらしい。




「えーっとね…。魔法はすべての人間が使えるわけではないしたとえ使える人でも生まれつき持っている魔力の差が激しいの。運動や勉強とかは頑張って練習したり人よりも多く勉強すればどんなに苦手な人でも上手くなれるけれど、魔法はどれだけの魔力を持って生まれてきたかだけで決まってしまうから魔力が無い人がどんなに練習しても魔法は使えないの。」


アリスが悪いわけではないのにすまなそうにそう答える。

拓斗ががっかりした様子だからだろう。


「ええーそんなァ…練習しても使えないのかよーそれってなんか不公平じゃん!最初から凄い魔法使えるヤツもいるのにどんなに頑張ってもまったく使えないヤツがいるなんて!」


平等にしろよーと口を尖らる。


「そうだね…。でも結構そんなもんなんだよ。生まれた時から人間なんて全然平等じゃないでしょ?」


冷ましている焼き菓子にツヤを出す為刷毛でシロップを塗りながらアリスは笑っている。


お金持ちの家に生まれたり

生まれてすぐに道に捨てられたり

みんなが羨ましがるくらい綺麗な顔だったり

目を背けられて笑われるような容姿だったり




アリスの言葉を拓斗は少し考える。

学校で習った「天は人の上に人を造らず~」とか試験勉強中の姉が呟いてた「一夜一夜に人見頃~」とか…。


しかしフト気になってまた質問を再開する。


「アリスは魔法使えるんだよな?オレが使えるかどうか調べたりできんの?つうかどれくらいの人間が魔法って使えるの??」


「うん、でも私はそんなに魔力は強くないんだけどね。えーっと、魔力があるかどうかは血液でわかるの。この国では生まれてすぐに血液検査をするんだけどその時に魔力値が高い赤ん坊は有名な魔術師が弟子にスカウトしたりするの。あ あとね、無性体の子は魔力値が高かったり魔法を覚えるのが早かったりする事が多いよ。」


拓斗くんは男の子だよね?赤ちゃんの時もそうだったの?

と今まで聞かれた事のない質問をされて焦る。


「あーあーあーいやいや、オレが生まれた世界では生まれた後に性別が変わったりしないんだ。」


まあ自分で変える人間はいるけど。


そう言うとアリスは目をまるくする。


「え?そうなの?!わあ…なんかやっぱ『異世界』だね!!そっかー拓斗くん見た目が普通だからあんまり『異世界の人』ってカンジがしなかったけど「実はエラ呼吸」とかでも不思議じゃないんだよねー」


なんだか興奮して拓斗の全身を眺める。


「いやいやいや、エラ呼吸はないだろ」


オレは魚か?!半魚人?か! とか。


「そっかぁ、水掻きもないんだねぇ」


なにやら残念そうな声。

しかし目線は心なしか拓斗の頭頂部に注がれている気がする。


「言っとくけど頭に皿とかないからな。河童じゃないぞ」


拓斗がボソリと呟くとアリスは慌てて視線をそらし網の上の菓子をつっつきながら「さあてそろそろ冷めてきたカナぁ?あーまだちょっと熱いみたーい」などとすっとぼける。


「じゃあさ、血液検査ってどこでできんの?」


「ん?そうだねー、だいたい生まれてすぐに検査しちゃうから礼拝所とか病院とか…お城にも検査できる専属医師がいると思うけどほら、王家の方々って魔力が強いから。」


「ふうん、じゃあオレにも魔力あるか今度調べてもらおーっと」


そう言いながらそういえば王家の人間でもお姫サマは魔法使えないんだよなーとか考える。

でもそんな事は拓斗にとっては重要ではない。


「魔法使えたら空飛びたいんだ!空飛べたらアクション映画のスタントマンとかになれるよな!ワイヤー使わなくてもいいし!」


なぜあえてスタントマンなのだかは不明。

空飛べたらそれだけでテレビに出られると思うのだが。


するとアリスは微妙な表情で唸る。


「うーあー…そうだねぇ、スタントマンがなんだかよくわからないんだけど空を飛べるのはそうとう魔力が強い人だけなんだよね。」


だからあんまり期待すると…


「えー!でも三つ子はひょいひょい飛んでたけどな~」


あいつらに出来てオレに出来ないわけが無いとばかりにふんぞりかえる拓斗。

自信過剰も甚だしい。



「え…、えっとね…お城の三つ子さん達はホントすっっごいんだよ?」


微妙に加え苦悶すら窺える表情でアリスが説いて聞かせる。


拓斗は「ん?」とか言いながらさっきまでは熱くて飲めなかったお茶に口をつけはじめる。

ミント系のサッパリとした味がして美味しい。


「ほら、魔法はすべての人間が使えるわけじゃないって言ったでしょ?だいたい魔力が一定平均値の…って言ってもわからないよね…んーどうやって説明しようかな。拓斗くん割合とかパーセントとかわかる?」


難しい顔をしてアリスが腕組みをする。


「オレは算数と相性が良くないんだ」


恐らく前世では親の敵だったに違いねぇ とかわけわかんない事をブツブツ言う。


「え―――――…、うーん私説明不得意なんだよね…」


「オレも理解するのは不得意だ!」


威張って言える事では無い。


「あ、じゃあさ『もしも世界が100人の村だったら』なカンジで説明してくれよ!」


「へ?ああ「100人中何人がこんなことを出来る~」みたいにって事ね。うんそうだね、その方が数字わかりやすいね」


「うんうん」


ところでそろそろお菓子食ってもいい?などと説明が始まってもいないのに集中力が続かない。

アリスは苦笑しながら網の上から大きめのお菓子を選んで紙ナプキンを添えた皿にのせてやる。

拓斗は「いただきます」と凄い早口で言ったとたんに齧り付く。


「うはああああぁ~、このなんとも言えない絶妙な甘味!サクサクとしたクッキー生地に対して飴を絡めたナッツやアーモンドがパリパリと歯応えを与えつつジワリジワリと舌の上で溶けていく!最後に塗ったシロップは見た目的にツヤを出すだけかと思いきや焼きあがったクッキーの表面に薄く膜をはり最初の一口をカリカリとさせるという意味があったとはっ!!まるで『あやとりの達人★前人未到の超絶技巧!ただし達人は千手観音』みたいなっ!!」


一口齧ったとたんに椅子から立ち上がりいっきに味の感想を喋りつくす。

なんか色々他所様のキャラクターが被っているがキャラの確立していない小学生のすることなので大目に見てやってほしい。



「え…拓斗くん、な なんか人格変わってるよ??」


アリスは今だ余韻に浸って「くうゥ~うはァ~」とか言ってる拓斗をヒキ気味に見つつ紙袋を出し焼き菓子をお土産用に包みはじめた。




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