空から魔女っこが降ってきた
「おい ヲタク」
「ミシェル…幻聴が聞こえるねぇ」
「おいっ ヲタlク」
「ミシェル…耳鳴りがするよ」
「おいいいいいいっ ウォータァークゥー!!」
「ミシェルゥ――――――僕の隣で目つきと柄と頭の悪い中年男性が叫んでるよおぉっ」
ゼエゼエゼエゼエゼエゼエゼェ…×2
昼間なのに妙に薄暗い路地を全力疾走して地面に這いつくばっていた厳蔵と安藤泉。
やっと会話が出来るくらいに回復した体力を今のやりとりだけで失ってしまう。
しかしそれにしてもツッコミ役がいないこのペアはとっても書きにくい…。
「で、どうすんだよ。こんなとこで道に迷ったりしたら元の世界に戻れねー」
厳蔵が荒い息のまま被っていた白いローブを脱ぎ
乱暴に汗を拭う。
「え…ええと、それに関しては…大丈夫だと思います…えっと恐らく…」
瀕死のカマドウマ(足が長い蚊の一種)の囁きのような声で安藤泉がそう呟くと
「なにぃ?」とかいいながら厳蔵が詰め寄る。
「ヲタク!お前もしかして今走ってきた道覚えてるのか?それともその怪しげな人形にBCG機能…だっけか?なんか心配性の親がガキにつける発信機みてえなのがついてるのか?」
力任せにガクガク揺すられ脳ミソがシェイクされたのか焦点の合わない死んだ魚のような瞳で安藤泉が否と答える。
「ち 違います…」
「何がどう違うんだあぁ?」
「え そそそれは…、まず…僕は道順を覚えてません。そしてBCG機能ではなくGPS機能の間違いではないかと…」
三文字のアルファベットということ以外まったくあっていない。
「なんだっていいんだよ!そんなもんっ!!」
ちなみにBCGとはツベルクリン反応が陰性だった者がする注射。
昔は針の痕(クリリンのおでこみたいな点々)が肩にクッキリ残ってしまったが最近は残らないようになってきた様子。
「ぼ 僕が言いたいのはですね、その…外堀を出ていない限りここは城下町なワケですから一番目立つ建物であるお城を見つけさえすればいいんですから。ええと、この場所は周りの家が密集していてよくわからないですが…もうちょっと大きな通りに出さえすればお城が見えるでしょうし街の人に「お城に行くにはどうすればいいか」と聞きさえすれば絶対確実に城に着きます」
おどおどとまどろっこしい説明をする安藤泉。
それでも他人との会話として成立したセリフの中では一番長い(笑)。
「…つまり、城を見つけりゃいいんだな?」
よしっ! と厳蔵が顔をあげる。
「は はい、城に着きさえすれば他のメンバーの帰りを門の近くで待っててもいいしお姫様と残っている三つ子の一人を呼び出してもらってもいいし…」
「そうだな!そうすりゃ帰れる!!…ふん、その頭は帽子をのっけるだけの為じゃねえようだな。見直したぜヲタク!」
誰でも考え付く案だと思うのだが厳蔵は照れくさそうに安藤泉を褒める。
「は ハァ…。厳蔵さんの頭は頭突き攻撃の為にあるようですね」
何気に酷い事を言いながら弱弱しく微笑む安藤泉。
「ん?なんだよよせよ、照れるじゃねぇか!ヘヘヘっ」
鼻をこすりながらニヤニヤ笑う厳蔵。
なんか色々間違って解釈したようだがどうでもいい。
で
さてじゃあもう少し広い通りに出ようと二人が歩き始めたとたん…
「うわわわわわわわわわっっっ!!!!!」
二人の頭上から微かな悲鳴(?)が聞こえた。
厳蔵と安藤泉は驚いて上を見上げる。
狭い路地なので建物の隙間から見える空も狭い。
逆光でよく見えないが二人の真上に何かが落ちてくる。
その何かはだんだん近付いてきて形がはっきりしてくる。
「人間…ですかね」
「あー、そうみたいだな」
ポカンと口をあけて落ちてくるものを見ている二人。
どうやら人間らしいそれは何か必死で叫んでいる。
しかしまだ何を言っているのかよく聞きとれない。
近付いてくるうちにだんだん落ちてくる人間(?)の形がはっきり見えてきた。
短めの白いローブを纏っているようだ。
そこまで見てとれた時、その落ちてくる人物が叫んでいる言葉が聞きとれてきた。
「そ…い…っつ た……って!! ぁ…な…からっ!!」
厳蔵と安藤泉は顔を見合わせる。
ミシェルも両肘をそろえてを顔の前で拳を握るポーズをとる。
「なんか言ってねぇか?」
「はい、なんか言っているようですね…」
でも良く聞きとれない。
「っつ……らっ!!……ぃい…かっっ…ど…てば…からっ!!!」
それにしても落下スピードはそんなに早くは無いようだ。
その人間はどうやら落ちる事に抵抗しているらしい。
重力がある限り翼のない人間は普通抵抗などしいえない。
「魔法使いでしょうか…?」
「そーなんじゃねーかぁ?なんかマントっぽいの羽織ってるしな」
すっかり魔法使いの存在を受け入れた地球人2人。
郷に入っては郷に従え。
そんな風にぼんやり落下人物を眺めていると表情も目視できる距離まで近付いてきた。
「おおおっ!ツーテール!!魔女っ子?!」
「なんか背負ってやがるな…ん?刀?!」
「っつ!ああああああ――――――――もおおおおおおっ!!さっきからずっと叫んでるのに――――っ!ぶつかるって!危ないって!!そこどけっ!!!!」
落下人物の声がやっときちんと聞きとれた。
しかしそれはあまり意味がなかったようだ。
ドズザザザザザザアァっ――――――――
「ぐはァっ」
「ぐおおっ」
「っつ…いたたた」
落ちてきた人物の魔法によりかなり衝撃は緩和されたようだが厳蔵と安藤泉は打ち所が悪かったらしく白目を剥いている。
落ちてきた当人は2人をクッションにしたお蔭か無傷。
「あー…大丈夫?って大丈夫じゃないよねー。あーどうしよっかな…」
困ったなァ といった感じで首を傾げると高い位置で結ったツーテールが揺れる。
薄い金茶の髪とそれを少し深くした色の瞳。
安藤泉が「魔女っ子」と評したがまさにアニメに出てくるような童顔で萌え系。
纏っている短めの白いローブは7人が羽織っていたようなペラペラした物ではなくしっかりした生地で手触りが良さそうだ。
ローブは首元のリボンで留められるようになっていて裾にはレースがほどこされている。
中にきているのは水着のようなコスチューム…
ではなく、浅黄色で裾の長い僧服のようなもの。
牧師さんの制服とか少林寺の袈裟に似た感じ。
でもって背中には身長よりも長い巨剣。
魔女っ子はぱっと見小さい雰囲気だが実際は七瀬や三つ子達より高そうだ。
それなのに背中の剣は斜めに背負って尚身体からはみ出している
「どうしよっかな…。でもこんなとこで足止め食ってるわけにもいかねぇし」
魔女っ子の大きな瞳がすっと細められる。
その表情にはあきらかな焦燥が浮かんでいた。




