表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/46

ショッカー

「な なに救世主って…」


七瀬が後ずさる。

拓斗はランドセルに差さっていたソプラノリコーダーを引き抜き前に出る。


「よし!オレ勇者な!!」


「駄目よ拓斗君!怪我したら大変よ勇者なんて!親御さんが心配なさるわ!!」


「というかココはどこなんでしょうか?とりあえず日本ではなさそうですがね…」


「てかなんだこいつら同じ顔で気味が悪ィな」


「ミシェルうぅ」


七人はとりあえずオドオドしながらもエレベーターから出てきた。

けれどそのことをこれから何度も後悔することになるとは現時点では知る由もない。


「うーん、なんか思ってたのとはだいぶ雰囲気が違うけどー」


「でも ま、異世界人には変わりないしー?」


「時間がもったいないからさっさとやってもらおう」


三つ子がなんか勝手に話し合っている。

西洋人形の方がわずかにマトモなのか「ねえいいの?説明とか歓迎とかしなくて」とか言ったが


「「「いいよ、面倒だし」」」と三つ子に押し切られる。


多数決は不利だ、なにやら雲行きが怪しい。

とりあえずもう少し話が通じる人間を探そうと7人のうち懸命な何人かがその場から離れようとした。



…動けない。


「何?」


七瀬が悲鳴に近い声をあげる。


「おいおい動けねえぞ?!」


「み 耳も動かせない!」


拓斗も叫ぶ。


「ええ え――?」


やす子はゴミ袋を持ったまま、田所はどういうわけかマトリックスっぽい格好で固まっている。


「ミ…」


安藤泉(以下略)


「あんた達…何をした?」


アケミが低い声で呟く。

7人がエレベーターから出た足元には不思議な図形、俗に『魔方陣』と呼ばれるものが描かれていた。

それをじかに足で踏んでいるのが運の尽きだったらしい。


三つ子はいつのまにか7人を囲む形で静止していた。

瞳を軽く伏せブツブツとなにやら呟いている。

どこかから生温かい風が吹いてきた。

その風はエレベーター周辺をぐるぐると包囲する。

三人の声はまったく同じなのでその呟きはまるで一人の人間のもののようである。

呟きは気づかぬほどわずかづつではあるが声量を増していく。

やがてそれは経のように7人の周りを包囲する。




『…Ouça o que eu digo. suprima o space ntrust o corpo…』


どこの言葉だかわからない不可思議な呪文が途切れた。


そして




『ワリュエルア聖典58の4、空間移動の術式52.正式に行います。』



三つ子の声ははっきりとそう唱えた。

怪しい風が竜巻のように7人を襲う。「ぎゃー」とか「わー」とか叫ぶがかき消えた。





やっと目を開けられるようになり辺りを見回すとエレベーターがなかった。

元の場所に戻れないのではという不安感がいっきに高まる。

それになんだか薄暗い。



「いてて ちくしょう 馬鹿やろう」


「うあー児童虐待―厚生大臣に訴えてやる!」


「拓斗君訴える人違うんじゃないかな…おじさん役所関係はよくわからないけど…」


「児童福祉相談所とかかしら?」


「いや、今はそういう問題違うから」


「そもそも対処のしようがないと思う」


「あはははははっはははっははははははははひひひふはっふふあはは」


突然違う場所に出現して恐らく混乱しているであろう7人。

セリフも支離滅裂。


「「「今から敵が湧いてきます☆倒してね救世主!」」」


頭上から声が降ってきた。

三つ子とドレスを着た少女が空に浮かんでいる。

正確にはドレスの少女は三つ子の一人が抱えている。



「おい…あいつら空飛んでる…」


「魔法使いなんじゃん?」


「いやいやいや、なにそんな非現実的なことあっさり言っちゃってるの?曲がりなりにも現代日本に生きている私達は魔法の存在をそこまで寛容に受け入れることは難しいと思われるのだけれど」


正しい事を言っているようだがやはり七瀬もパニくっている。


「ねぇ…『敵』って?」


アケミが辺りをすばやく見回す、そこは地震で地面に亀裂が入ったようになっている裂け目の底だった。

両側の岩壁までは約二十メートル、地面からの深さは約十メートル。

もちろんよじ登るなんて不可能だろう。

しかも亀裂は長くて先の方は見えないし足元はなんだかネチャネチャしている。




ゾワリ

背筋におかんが走る。




「う ううぇあ?!な なんか足元おかしいっ」


拓斗がうわずった声をだす。


「まさかカエルか?カエルなのか?おたまじゃくしの親だとか?!だめだ!俺それだけは無理だ!!」


厳蔵は顔面蒼白でぴょんぴょん跳ねている。


「おたまじゃくしが先かカエルが先かそれが問題ですよね」


やす子はぶつぶつ呟く。


「いや、奥さん。卵とニワトリじゃなかったですか?」


田所はスーツの裾が泥で汚れないか気にしつつも律儀にツッコむ。


「おかしい…この土質でこんな形の亀裂がはいるわけない!少なくとも自然にできるはずは無い!」


安藤泉は地面に這いつくばって叫ぶ。


「つまりなんだかわからないけれどゲームみたいに戦闘にもつれ込む展開なのね…」


アケミは油断なく壁に背をつけた。


「悪と戦うのは他の女子高生にまかせるからっ!いくらセーラー服着てるからって女子高生がみんな変身できると思ったら大間違いだからっ!」


七瀬が鞄を抱いて絶叫する。







7人の声も虚しく、ヤツラは出てきた。



ベチャ ベチャベチャ ズリュリュ…



黒い身体が地面から湧き出てくる。

成人男性ほどの体格、頭も手足もあるが顔や耳はない。

まあつまり男が真っ黒な全身タイツをはいたみたいな見た目でそれがもっとドロドロ溶けかかってるやつ。


「出たなショッカー!!」


そう、拓斗じゃないがまさにそれは変身ヒーローものの雑魚キャラとして出てくるショッカーそっくりだった。

だから見慣れているといえば見慣れているがあんまり足元からズルズル這い出てくるのを見る機会はない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ