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城外の倉庫にて

「あー、絶対このメンバー失敗だよ。オレもアケミ姐さん達と一緒がよかったよマジ。」


拓斗がぼやく。


「なんだと?!俺が不満だっていうのかガキ!」


「うわーん!ミシェルー!よりにもよってこんな組み合わせで異世界をうろつくなんてーっ!不安だ不安だよおおおっ」


厳蔵が怒鳴り安藤泉が叫ぶ。


憂鬱そうな子供とガラの悪いおっさんと人形抱えた男が連れ立って歩いていると、誰も近くに寄ってこないので往来の激しい城下町を歩くのには非常に楽だ。


「あはは…この3人を案内しなくちゃいけない僕が一番大変だと思うんだけどな」


ぎゃいぎゃい騒ぐ異世界人3人の後ろからひきつった笑い顔のピストニカがそっと溜息をついた。








…今から数十分前、とりあえず『公爵令嬢を助け出す』という事を決めた7人はあまり使われていない城の倉庫で作戦会議を開いた。


「じゃあまず効率を良くする為に分かれましょ」


アケミが埃をかぶった西洋甲冑の兜をボールのように手で転がしながらきりだす。


今居る倉庫は綺麗に手入れをされた中庭の奥の奥、普通はそこまで人がこないらしく草木も好き勝手に生い茂っている場所に忘れられたようにポツンと建っていた。

大きさは学校の教室くらい、いらない荷物を置いておく為だけに建てられたらしく作りはカナリ雑でところどころ雨漏りの跡があった。

埃っぽさとカビ臭さが気にはなるが、大きめの扉を全開にしてただくりぬいて蓋をつくっただけみたいな窓を開けて空気を入れ替えるといくらかマシになった。


倉庫には本当に色々な物があって7人は珍しそうにつっつきまわす。

十字架に似た形の杖や招き猫みたいな石像。

プロペラみたいなものが付いた籠、どうみても夢と魔法と著作権で有名な鼠にしか見えない置物。


どういうメンバーで行動するかとか話し合っている横で、拓斗がガラクタの中から薄桃色に塗られた扉を見つけパタパタ開けたり閉めたりしている。


「なーなーこれ何これ何?」


その扉は台座が付いていて、壁に取り付けていないのにちゃんと立っている。


「それは『どこでも置けるドア』だよ」


ポレントが話し合いながらも首だけ振り向いて律儀に答える。


「ふーん」


なんかそれってダミ声の猫(最近声違うけど)が腹から出しそうなだよな とか思いつつメンバー決めの様子を見に行く。




「ぼ…僕はミシェルと一緒じゃないと…その…ミシェルと離れるのは」


「黙れヲタク」


「大丈夫よ、その人形は頭数に入ってないから。アンタとワンセット」


「ひっうふひょおっそ そんな僕とミシェルは一心同体だなんて!こっこそばゆいっ」


安藤泉がなぜか頬を染めている。

一心同体とは言ってないけどね とどうでもよさげにアケミ。

身体に移植しちまえよ とかボソリと呟く七瀬。


「分かれるなら僕達が各組に一人付けるように三組くらいにしてね」


七瀬にスマホのカメラ機能を説明してもらいあちこちカシャカシャ撮りながらピストニカが口を挟む。


「あ 待って、僕は姫様と残ってるよ。」


こんな事があってすぐだしね とパリラが肩をすくめる。


「そうですね、悪い事は続けてあるかもしれませんし…。そう…例えば取引先でミスをして会社に帰ってきたら何も無いところでコケて偶然前にいた専務にぶつかってしかも専務のカツラを掴んでしまってそのまま階段を転がり落ちて足を捻挫してしまったので会社を早退して家に帰ったら妻に絶対買って来いと言われていた大安売りの牛乳(お一人様一点限り100円)を買い忘れ「アンタって人は本当なんて使えない亭主なんだろう!」と頭をハタかれてよろけて机の角に頭をぶつけて流血したあげく4針縫うとか…」


虚ろな目をした田所がこの長ゼリフを一息で喋りきる。

例えば とは言ったがどう考えても実話なのだろう。



「じゃあピンちゃんポンちゃんに案内してもらうわけだから二組に分かれればいいのかしら?」


やす子がその辺に落ちていたデカイ斧を振り回している。

同じものを厳蔵が手に取るが持ち上げることができずにウンウン唸る。


「3人と4人じゃ綺麗に割れないわね…、私は一人でいいわ。異世界でなく他の国から来たって事にして誰か町を案内してくれる人間いない?」


アケミが三つ子に尋ねる。


「ああ、そうだね。旅行者ってことにしとけば国の事しらなくても奇妙しくないもんね。うん暇そうな人間つかまえてみるよ」


でもこんな事件があった後だから誰か暇な奴いるかなぁ とポレント。


「そんなっ!私アケミさんと一緒がいいです!」


珍しく七瀬が身を乗り出して主張する。

『アケミがいないのにこんなハチャメチャな人間達と異世界をうろつくなんて何が起こるかわかったもんじゃない、自殺行為も甚だしい。ツッコミ役の人間がいないなんて不条理漫才じゃないんだから!!』と口には出さないが顔に書いてある。


「オレもアケミ姐さんと一緒がいいー!なんかよくわかんねぇけど野生のカンがそう告げてる!!」


誰と一緒にいた方が生存率が高いのか、子供の方がよくわかっている。


「大丈夫よ、ちゃんとピストニカとポレントがついてくんだから。よくわかんないけど城付きの魔法使いってぐらいなんだからそれなりに強いんでしょ?」


「「「あたりまえだよっ!!!」」」


三つ子が久しぶりに声を揃える。

その様子を横目で見て苦笑しつつアケミが続ける。


「それにお姫様や三つ子以外の一般人が『裂け目』についてどういう感想をもっているのかとか知りたいし、町を案内してもらいながら聞き出す方が自然でしょ?…異邦人である私達があんまり大勢で町を歩くのは目立つしね」


「でも!それならアケミさんと私は一緒で他の5人で2つに分かれれば…」


「七瀬、後で私がいかなかった場所の報告も聞きたいからアンタは違う場所をしっかり見てきて」


七瀬が必死ですがりつくがアケミがきっぱりと言い切る。


「…わかりました。」


悲壮な表情で何か言いたそうにするが最終的には肩を落とし受け入れる。


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