抜け穴
そこが裏口だからかもしれないが、城の中は以外とあっさりしていた。
照明用の明かりが等間隔に灯り、長い廊下が左右に伸びている。
「う…うう、どうして私だけいつも見咎められてしまうのでしょう。ちゃんとチャージしてあるのに改札を通ろうとするとピコーンとか鳴って閉まるし、スーパーで買い物して出ようとすると扉の横にある万引き防止用の機械が鳴るし、飛行機の金属探知機は必ず引っかかるし…」
田所が虚ろな瞳でぶつぶつ呟いている。
「うんうん、大変だね」
ポレントがテキトーに相槌をうちながら進む。
少し進むと他のメンバーと合流した。
「こっちこっち」
ピストニカが手招きして先導する。
「ふーん、なんか思ってたより狭い廊下―」
「シャンデリアとか口から水吐くガチョウとかいませんね」
「ションベン小僧もいねぇのかよ、しけてんな」
口々に勝手なことを言う。
「ここは主に警備兵士の出入りや食材運搬口専用なんだよ。普通各国の客人を迎えるのは表門だから」
上階に続く螺旋階段には照明が灯っていなかったのでポレントが小さく言葉を紡ぐ。
すると頭上にバレーボール程の光球が出現し辺りを照らす。
「いいな、オレもやっぱ勇者辞めて魔法使いに転職しようかな…」
「恐らく君の現在の職業は『小学生』だと思うけど…ねぇ ミシェル?」
拓斗に睨まれた安藤泉はまたしても目をそらしミシェルに語りかける。
「はいここでストップ!」
螺旋階段を三分の二ほどのぼったところでピストニカが足を止めた。
「え、どうしたんですか?」
「何で止まるの?一番上まで行かなきゃ扉ないじゃない」
螺旋階段は途中の階に繋がっておらず、最上階と先刻入ってきた一階を結んでいる形だ。
「こんな中途半端な場所で止まってどうすんだよ?もしかして魔法で壁ぶち破って途中の階に侵入するのか?」
「それでお宝をいただくって寸法なのかしら?」
やす子が目をきらきらさせている。
なんだか目的を見失っている様子。
「ここに秘密の抜け穴があるんだよ。えっとね、このお城って建物全体に弱い防御魔法がかかってるんだ。侵入者が移動魔法で城の中にはいれないようにね。でもさ、そうすると僕達がお姫様にこっそり会いに行く時不便じゃん?ほら樋熊メイドに見つかると面倒だし」
喋りながらピストニカがコンコンと何も無い壁を叩く。
するとまるで溶けるように壁に縦長の穴が開き内側の光がこぼれる。
薄暗い螺旋階段とは一変、花柄の壁紙や豪華な家具が見える。
「あらピストニカ!みなさんを連れてきてくれたのね」
その穴から金髪の美少女が顔を覗かせ花のように微笑んだ。