ヒグマ
「お待ちくださいフェオリア様!!」
ドタドタドタドタっ
「すぐ戻ってくるわリリー、お願い見逃して!」
パタパタパタパタっ
「いいえ!見逃しません許しません!!あの不気味なドロドロがいつ襲って来るともしれない城下に姫君がひょこひょこ気軽に行ってはいけません!」
「大丈夫よ、魔法使いのピンポンパンが一緒ですもの!」
西洋人形風美少女がドレスの裾をからげながら城の廊下を疾走中。
その後ろをメイド服を着た女性が追走中。
パタパタパタパタっ
ドタドタドタドタっ
分厚い絨毯がひかれ、ところどころに高価そうな壺やら彫刻やらが置かれた城の廊下は追いかけっこには不向きだ。
それでも姫君は懸命に逃げる。
姫君はその愛らしい容姿からはあまり想像できないが、実は俊敏だ。
しかしその後ろから追いかけてくるメイド、彼女は姫の世話係り兼ボディーガード兼教育係兼付き人で名をリリーというのだが…。
「フェーオーリーアーさーまー!!まだあの三つ子と馴れ合っていらっしゃるのですかあぁぁ?!
あんな同じ顔のどれが誰だかわかんないようなアヤシゲな生物と仲良くなさってはいけません!姫君まで三つに分裂したらどうするんですかぁ!!」
くわぁっ
と目を見開き口を耳の横までひろげリリーは叫ぶ。
リリーは20代後半で目付きが鋭く、割れた腹筋鍛え上げた胸筋盛り上がった上腕二頭筋。
その立派な肉体を包むのは清楚で可憐な白いエプロンのメイド服。
「…とりあえず私は分裂しないと思うわ」
姫君が冷静につっこむ。
「そうだよーヒトを病原菌みたいに言わないでほしいなぁ」
と
その声は窓の外からかけられた。
ちなみにココは城の4階。
肩あたりで無造作に切られた黒髪と黒いローブが風になびく。
三つ子魔法使いの一人がきつい瞳を細めにっこり笑っている。
「姫様、そろそろあの箱がつく頃だよ。ピンとポンはさきに準備しに行ったから」
「まあ!じゃあいそいで行かなきゃね!っと そんなワケだからリリー、夕食までには戻るわ」
姫君が魔法使いのいる窓の前で立ち止まりやわらかく微笑む。
「な なにが「そんなワケ」なんですかあぁ?!許しませんっ許しませんよおぉ!っつか三つ子の三分の一――!!勝手に姫君を外に誘うとは何事じゃボケがぁっ!三日前にもあれほど言ったのにまだ懲りないたぁいい度胸じゃあ!いてまうぞオリャっ」
リリーは手近にあったやたらデカイ壺(おそらく骨董品、とても高いと思われる)を片手で掴み魔法使いめがけて投げつけた。
しかしそれは窓に達する前に空中でピタリと止まる。
「うっわ、リリーさん怪力―!壺を捨てるのは勝手だけどこっちに投げたら姫様にあたっちゃうかもじゃん。気をつけてよねー」
そう言って指先を軽く下に向けると壺はゆっくり床に下りた。
「くっ、このクソ生意気な魔法使いめ…」
リリーが目から光線が出そうなイキオイで魔法使いを睨む。
「リ リリー…、なんだか悪役っぽい顔つきになっているわよ?」
「フェオリア様をお守りする為なら、リリーは悪魔にでも樋熊にでもなってみせます!!」
リリーが鍛え上げられた右腕を曲げるとはちきれんばかりの力コブがもりあがる。
「まあ頼もしいわ!流石『メイド服を着た樋熊』と恐れられるだけあるわv」
姫君がパチパチを拍手して微笑むと
リリーが「ま、フェオリア様ったら、お恥ずかしいですわ」とか言って照れる。
「いや、そこ怒るとかじゃん?樋熊って褒め言葉じゃないよね…」
窓の外で魔法使いが小声でつっこむが二人には聞こえなかったようだ。
ここまで読めたなら気にする人はいないとは思いますが、異世界だけど日本のことわざとか固有名詞とかガンガン使います。私はそういうの気にしません(゜∀゜)