遠足みたいに
連投つづき分
「オレさオレさ!なんか武器とか持っていった方がいいと思う!」
拓斗がバランスーボールの上で弾みながら発言する。
「ああ!そうですよね、せっかくあっちとこっち行き来ができるんですから何を持って行くかとか何があると便利だとかありますよね」
田所はうんうんと頷きながら手帳を取り出して「名刺を会社から忘れずに持ってくる」とか書いている。
「お弁当も作っていった方がいいかしら?生水飲んで平気かしら?」
やす子が首を傾げる。
「汚れてもいい服装でとか歩きやすい靴で…とか?」
七瀬が汚れてしまった制服のクリーニングがなぁとかぶつぶつ呟く。
「なんか遠足みたいだな!おやついくらまでにする?」
拓斗がバランスボールの上で腹這いになって前後に動いている。
「あの…その…でも僕達があちらに行ったところで本当に何か出来るんでしょうか…?ショッカーだってまともに倒せなかったのに救世主とかやっていいんでしょうか…」
いままでミシェルを抱きしめてひたすら黙り込んでいた安藤泉がおどおどとそうきりだす。
ミシェルは間接が動くらしく『困ったわ』みたいなポーズをとっている。
「確かに。私達が『救世主活動』なんてどう考えても無理なのよね…」
アケミが髪をかきあげながら深い溜息を漏らす。
「でもよーあの三つ子達がまた来いって言うぐらいだからなんか出来るんじゃねー?」
バランスを崩したのかバランスボールの下敷きになった拓斗が不満の声をあげる。
「しかし実際問題として私達に何が出来ると思う?自衛隊とかならそれなりの武器を提供できるかもしれないけれど私達はただの民間人だし、あっちの世界には魔法使いなんてファンタジーな生き物がいながらどうすることもできないんでしょう?それをこんな…」
アケミが言葉をつまらせる。
「そうですよね…私なんてただの女子高生だし」
「私はしょぼくれたサラリーマンですし…」
「あらまぁ、私だってただの主婦ですよ」
「俺力はあるけど学はねえぞ。あんまり品のいい仕事もしてねぇしな」
「ぼ…僕は一応大学生で…最近行ってないですけど…:」
「オレは5年3組だぞ!クラブはサッカー」
「そして私は…昼は寝て夜主に活動するどこにでもいるただの女」
――――――――世界を救うなんて
「ゲームでなら何度か救った事あるけど…」
七瀬が小さくため息をつく。
「地球だって戦争やら温暖化やら問題を抱えていて、私達にはそれすらどうにもできないのに…」
アケミが自分の身体を抱くようにして椅子にもたれかかる。
「でももしかしたらあっちの世界は救えるかもしんねーじゃん!」
拓斗がバランスボールの上に立ち上がってどなる。
ごろん
…そして転ぶ、
「あらあら大丈夫?」とか言いながらやす子が覗き込んでいる。
「っつ痛てて…、と とにかくさ!まだ一回しか行ってねーしオレもっと色々冒険したいし!!」
「まぁたしかに俺ももう少し『異世界』ってえのを見てみてえな」
厳蔵がぼそりと言う。
「救える救えないはわかんねーけどよ、一緒に悩んでやりゃいいんじゃねえのか?三人寄ればカシマシイっていうだろ?」
「かしましいだけならあの三つ子だけで十分かしましいから。」
「女三人寄れば姦しい、でなくて三人寄れば文殊の知恵と言いたかったのでは?」
七瀬がつっこみ安藤泉がボソリと呟く。
「な なんでもいいじゃねえか!もんじゃもお好み焼きも材料は同じじゃねえのか?!」
厳蔵がふくれてそっぽを向く、子供みたいに。
「地域によって少しずつ味付けは違うと思いますよ?」
私は少し辛いくらいソーズを入れるのが好きだわ、とかやす子。
「ちなみに文殊というのは智慧をつかさどるとされる文殊菩薩の事ね」
アケミがどうでもいいけどとかいいながら解説する。
「ま、今ここで悩んでいてもしかたのない事ね」
「そう、そうですよ!もしかしたあちらに無くて地球にあるものが解決の鍵になるかもしれませんし!我々は行き来ができるんですから色々試してみてもいいんではないでしょうか?」
田所がいつになく前向きな事を言う。
「オレさオレさ、次は剣持っていくんだ!去年サンタに貰ったやつ!」
拓斗が素振りのマネをする。
「剣って…あの『ぴよよーん』とか鳴るヤツ?あれ効果音やたらデカイでしょ、壁越しに聞こえるんだけど。夜遊ぶのやめてよね」
七瀬が白い目でにらむ。
「ああ、あの『ぴよよーん』ていう音は拓斗の剣から出ていたの?うるせーうるせーと思ってたのよね」
たとえ昼間でも私は寝てんだからとアケミ。
するとやす子も手を叩いて
「あらあら、私も知ってるわ。拓斗くん屋上でも遊んでいたでしょう?その『ぴよよーん』で」
「そうだな、俺は何持ってくかな」
厳蔵がクミとかチャカとかドスとかなんかぶつぶつ口の中で呟いている。
「ミシェルの戦闘服を買いに行かなきゃ…ヤホオクでいいのが出品されているかも…」
「防水形状記憶スーツがたしかタンスに…」
「お弁当は私作りますから大丈夫ですよ、みなさん梅干大丈夫かしら?」
「ゴキンジャーの『変身ヘルメット』も持って行くぞ!」
「………私はとりあえず傷薬と参考書を持って行きます。」
七瀬が現実逃避をおこしながら遠くを見つめる。
アケミは煙草に火をつけながら口の端で笑う。
「いいんじゃない?こんな人間達が世界を救うってのも」