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白い月

そこは堂々とした風格と堅牢さで有名なクウィンディア城の一室。

一室といっても王家の姫君の私室なのでそれはもうだだっ広い。

グランドピアノが部屋の中央に据えられ、天蓋の付いた5人は眠れそうなベッドが置かれ、繊細な細工が施された大小の家具類が壁際にあってなおマット運動ができそうな程広い。

そしてその豪華な内装すら霞んで見えるほど美しい西洋人形風美少女が呟いた。



「本当にまた来てくれるかしら?」


「さあ、どうでしょう?」


黒いケープに黒いローブ。

肩あたりで切られた不揃いな髪をした三つ子の一人が軽く微笑みながら答える。

いつも三人一緒に行動しているようだが今は一人だ。

なので声がダブることもない。


「心臓云々の魔法が嘘だとバレていなければ来るんじゃないでしょうか」


クスクス意地悪そうに笑いながら魔法使いは首を傾げる。


豪華な部屋の机には使い込まれた地図が広げてある。

無数の書き込みと赤く斜線が引かれた箇所。

例の魔物達が出現する穴を示している。


「まるで脈絡もなく増えていくわ。もし街の真ん中に穴が出現したら…」


形の良い眉をしかめ、姫君が言葉を濁す。

事態は実のところ本当に深刻だ。

今のところ幸い、というべきか魔物が湧き出る穴は町外れや森の中が多い。

穴の周りには近寄らぬよう警告しロープで囲う、そして交代で有志の魔法使い達が見張りをする。


決定的な対処方がないまま一年が過ぎた。

もう 民衆の不安も魔法使い達の疲労も限界だ。



「アタシはどしてこんなにも無力なのかしら。代々魔力が強く伝わるはずの王家に生まれながら魔力は無い、かといって素手で敵を倒せるような力も無い」


そう言ってグミ色の唇を白くなるまで強く噛む。

魔法使いが止める前にそれは朱く染まることになる。

軽く溜息をつき、魔法使いは姫君にハンカチを渡す。


「姫様、自身を責めても解決はしません。絶望的な状況で絶望するのは簡単です。」


少しキツメの黒い瞳が姫君を見据える。

姫君はそれをまっすぐ受け入れるとまだ少し朱が残る唇で微笑んだ。


「そうね 救世主…になってくれるかはわからないけれど、せっかく異世界のみなさんも巻き込んだんですものね。足掻いてみましょう。見苦しいくらい死に物狂いで最後まで ね」



姫君が窓辺に歩み寄る。

窓下に広がる城下街、裾野を広げる山々。


「アタシが生きるこの世界を壊すなんて絶対させないわ」



クウィンディアに白い月が昇る。


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