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はじまり
イラスト。マンガは妹が描いています。
最後に聞いたのは蝉の声だったと思う。
「ねーねーねーねー、なんかヤバげじゃない?」
5階に住む小生意気な小学生が呟く。
「知るか」
同じく5階に住む女子高生が気だるげに吐き捨てる。
「まずいな…会社に遅れてしまう…」
そう一人ごちるのは4階に住むしょぼくれたサラリーマン、懸命に携帯を弄っている。
「コンビニ行くだけだからミシェル置いてきちゃったよ…こんなとこで死んだらもうミシェルに会えない…」
ブツブツと怪しげな事を言っているのは6階の引き篭もり気味の大学生。
「壊れてんのかー?まったくちゃんと管理しろよな長谷川―」
壁を蹴りながらマンションの管理人の名を怒鳴る4階のヤクザ。
「あの あ あの…あんまり蹴ると…余計危ないかもしれません…」
ゴミ袋を持ったまま果敢にもヤクザを宥める主婦、家は6階。
「ねぇ、結構あんたら冷静だけれどね、このエレベーター横に動いてるわよね?」
今はノーメイクだが化粧をしたら恐らく別人に見えるであろう、夜のお仕事をしている5階に住む女が低めの声で一同に尋ねた。