強くなってくれ
さっきまでとは違った妙な空気が流れる。
舐めてた飴のサイズが半分くらいになり、そろそろ気まずさに押しつぶされそうになったところで、冬馬が起きたから行こうとリンちゃんが迎えに来た。ゼルは動く気がなかったようだったからその場に残し、俺とリンちゃんで冬馬の元へ移動する。
既に立ち上がって自身の身体を確かめつつ、ミーナと話をしていた冬馬だったが、俺とリンちゃんの接近に気が付き、俺達に向けて軽く手を挙げてきた。
「冬馬、身体の具合は大丈夫か?」
「多少のだるさは残ってっけど、特に問題はなさそうだ。……それより悪ぃな。負けちまったよ」
「仕方ないさ。何か掴んだ事はあるんだろ?」
「ああ!」と言いながらいつも通りの笑顔を向けてくる冬馬。何にせよ無事で良かった。精神的にも辛い戦いだっただろうに。
「それより大護、これからどうする? そのまま学園にでも戻るかぁ?」
「あぁそうだな。今日の戦いの感覚を忘れないうちに訓練場にでも行きたいし」
「いやアナタたち。最初の目的を忘れてるのかしら?」
ミーナから言われた言葉に俺と冬馬の目が点になる。最初の目的? なんかここに来た瞬間戦う事になったって事は鮮明に覚えてるけど。
「ミーナ嬢の言う通りだ男共。まだ大事な話が残ってる」
突然会話に割り込んできたのはナックさんだ。急に俺の後ろから声が聞こえたから驚いたが、それより……。
「大事な話……ですか? 一体……」
「ここに来る事になった理由、忘れたのか? それとも"剣"の話をするって炎帝から聞いてなかったのか?」
「あー」という声が俺と冬馬の口から漏れる。同時にミーナからは「はぁー」という声が口から漏れる。仕方ないだろ、戦うことで必死だったんだと言い訳させてくれ。
「……まあいいだろう。必死こいて戦った後遺症だと思っておいてやるよ」
なんだその名誉は。嬉しいのか嬉しくないのか恥ずかしいのか良く分からない気持ちになってきたぞ。
「じゃあ早速話を進めたいが。先ずは……アイツ、ゼルって言ったか? アイツの話を聞きたい」
"剣"を探り当てた男の話を――そう続けたナックさんの表情は、酷く険しいものになっていた。
◆ ◇ ◆
場所が変わった今はナックさんの……"精霊の涙"のギルドマスターの部屋に集まった俺、冬馬、ミーナ、ゼル、リンちゃんと四人の帝にナックさん。
先ず語られたのは、監禁されてたゼルが見つけ出した"剣"の場所に関しての情報だ。
在り処は"ダゴル平原"。その平原を限りなく真っ直ぐ進んだ先に"剣"が眠っているという事。
そこまではわかったが、詮索魔法で探せるのはそこまでが限界だったようだ。ゼル曰く、距離の問題もあるようだったけど、それとは別に、何かに阻まれるような感覚にも陥ったらしい。
ゼルの話を聞いたナックさんは考えるように目を瞑り、数秒の間だけそうしてから再び目を開けた。
「大まかにしか位置を探れてねえんだったら、見つけ出すには時間が掛かる筈だ……ゼル、"剣"のおおまかな位置を俺にも教えてくれ」
「ダゴル平原に入ってから南西に約五キロ辺りってところだなァ。それ以降は俺様にも分からん」
「分かった、ありがとう。炎帝以外の三人は、準備を整えて俺に付いて来い」
指示が出た瞬間に部屋から転移し、どこかへ向かった国王様以外の三人。ナックさんは座っていた椅子から立ち上がり、国王様へと近付く。
「予定通りに頼む」
「心得た」
そう短いやり取りだけが行われたかと思ったら、次は俺たちの方へとやってくる。俺と冬馬へと視線を合わせたナックさんは、
「今よりも更に、強くなってくれ……必ず」
そう一言だけ俺たちに話し、転移でどこかへ消えていった。
「ナックさん……」
「よし、それでは皆行くとしよう」
感慨深くなるのも束の間、国王様からそう声が上がり、俺たちの足元には転移の魔方陣が出現する。
「お父様、一体どこへ?」
「ナックも言っていたであろう、『強くなってくれ』と。あれは何もキリュウ君とトウマ君にだけ伝えた言葉ではない。他の皆……ミーナちゃんのクラスメイトも含めての意味だ」
国王様の言葉を聞いたリンちゃんが小首を傾げる。
「……リンも?」
「勿論だとも。その為に今から共に学園へと向かい、私が君たちを鍛え上げる」
まさかの発言に驚く俺と冬馬とミーナを差し置いて「……おぉー」とか言いながら小さく拍手をするリンちゃん。いやいや、国王様直々の特訓て……。
「……マジで?」
「マジだよキリュウ君。ナックからの指令という事もあるけど、ゼル君との約束でもあるからね」
予想外すぎる追加の一言に思わずゼルを見ようとした瞬間に転移が発動し、ゼルの表情を見る事は出来なかった。何でゼルの奴そんな約束を取り付けたりしたんだろう。
深く考える間もなく、俺達は国王様の転移によってギルド"精霊の涙"を後にするのだった。




