それぞれの成長
冬馬は【地帝】へ走り、俺は魔法を構築する。使う魔法は"火属性"。
「"ファイアボール"ッ!」
慣れていない時に世話になりまくってた火属性初級魔法を【氷帝】に向ける。
「"氷"相手に"火"であれば有効と考えたか。確かに魔力量の賜物か、通常の物と比べれば桁違いだが……」
俺の出した火属性初級魔法は【氷帝】の氷の前に、あっけなく消滅させられる。
「浅はか過ぎる。そんな小細工でどうにかしようとなど――」
「"ファイアボール"ッ!」
「――ッ! くどいっ!」
また消される火属性初級魔法。しかし【氷帝】は氷の礫の威力を上げたようで、消滅だけで終わらずそのまま俺の元へと到達する。
「"ファイアウォール"ッ!」
到達した氷の礫を炎の壁で受け止める。礫は俺には届かず、そのまま蒸発していった。
「貴様……何が目的だ?」
【氷帝】の質問には答えない。そうして俺は次に"水属性魔法"を構築する。
◆ ◇ ◆
おっさんの拳が俺の顔面を捉える。そのまま後ろへ飛ばされるが、両足を踏ん張って耐える。最初の一発ほど効いちゃいねぇ。くそ……"もう少し"だと思うんだけどよぉ。中々上手くいかねえ。
「何かしようとしてるのかしらん? 若いって素敵ね、いつでも探究心に満ち溢れててっ。アチシの事ももっと探求してみたいと思わない?」
バチュィーンと決まるおっさんの必殺技。――危ねえ、意識が持ってかれっと思ったぜ。下手な拳より威力がありやがる。
「探求はしたいと思ってるぜえ……あんたのその強さの方だけどなぁ」
「んもう連れないわん。黒髪のボウヤにお熱って事かしら……妬けちゃうわね」
「生憎俺ァ女の子が大好きでなぁ。男には友情しか芽生えてねえよ」
「道を外してみるのもいい経験になるわよん」
「そんな道の外し方は――ゴメンだァ!」
さっきおっさんの拳を顔面で受けた感覚を思い出せ。そしてその感覚を"足"に集中――ッ!?
「――ッ。速いわね、ついさっきの動きより数段も」
「やっと出来てきたぜえ……こっからさらに上げてくから、最後まで付き合ってくれや」
「男子のお願いは全部聞いてあげるのがアチシのポリシーなんだけど……今回は骨が折れそうね」
◆ ◇ ◆
「"ガイアランス"ッ!」
"地属性魔法"が【氷帝】へと迫る。そして【氷帝】が氷の礫で叩き落とす。このやり取りを何度行ったか、途中から数えていなかった。
【氷帝】は一向に俺の魔法を避けることはせず、全ての魔法を撃ち落としていた。だからこそここまで細かく"確認"が出来た。
「貴様……このタイミングで色々実験してるみたいだな。良い収穫はあったか?」
「ええ、おかげ様で。さっきよりはちょっと強くなってると思います」
「フン、調子に乗るな」
またも繰り出される氷の礫。まずはこの人に、別の魔法を使わせる事を目標にしよう。
「"トルネード"ッ!」
そう決めた俺が使うのは、風属性中級魔法の"トルネード"。勿論それだけでは終わらない。
「"フレイムロード"ッ!」
続けて火属性中級魔法の"フレイムロード"を使う。本来のこの魔法は、生み出した炎が地面を這うように広がり、敵の逃げ場を無くす……という風に使われる魔法らしい。
だが勿論そのままの使い方なんてしない。――今は挑戦の時。
先に出した"トルネード"を巻き込むように"フレイムロード"の範囲を広げる。……もう少しか?
「何をしているのか知らんが……貴様自身がガラ空きになっていては意味が無いのではないか?」
【氷帝】は再び氷の礫を打ち出す。今日だけで何回この魔法を見た事か……そんな事を考えながら、俺の魔法が完成。氷の礫を粉砕する。
「な、に――ッ!?」
一言で言うなれば、燃え盛る竜巻ってところか。風属性中級魔法と火属性中級魔法の合わせ技、言うなれば"混合魔法"。威力だけなら上級魔法に匹敵するだろう。どうしてさっさとこの考えが浮かばなかったのか、勿体無い。
「これは俺のオリジナルにしてもいいのかな? それなら名前は"火炎旋風"だッ!」
【氷帝】へと襲い掛かる"火炎旋風"。俺の魔法ではあるが、進行方向は変える事が出来ない。地形を変えるとかで物理的に干渉すれば大丈夫だと思うけど、そんなことはしたくない、怖いし。
どうにか逃げようとする【氷帝】だが、風の威力に体勢を崩され、思うように動けないようだ。……やがて、
「ちぃ! "アイシクル・コフィン"!」
"火炎旋風"を打ち消すほどの氷塊。【氷帝】の魔法と俺の魔法がぶつかり、衝撃がこの場を襲う。第一目標達成だな。
「何……今の魔法……」
大護の魔法に驚愕を露にするミーナ。理解はしているが、所謂脳内処理が追いついていない状態だった。
「ここにきて"混合魔法"とはなァ……気に入らねェぜ」
「……だいご、すごすご」
皮肉を飛ばすゼルだが、その顔は明るい。それもその筈だ。自身が目指している魔法をその目で見届けられたのだから。一方のリンは自身の小さな手を叩いて拍手を送っている。
「"混合魔法"……別属性二つの魔法を合わせる事で出来る複合技……」
「言うのは簡単だがァ、その難易度は初級魔法同士でも桁違い。それをあのヤロウ……いきなり中級魔法で決めやがった」
「……だいごすごすご。……すごいの?」
「……言いたかねェが、な」
本当に、本当に嫌そうな表情を浮かべ、渋々といった様子でそう答えるゼル。そんなゼルを見ながら、素直じゃない男だと思うミーナ。
視線を再び、大護と冬馬の戦いへと戻す。
(頑張って……二人とも)
祈りを胸に込めながら。




