成長の時
「ナックさん、お久し振りですね! "こっちの世界"って事は……俺たちの事は国王様にでも聞いたんですか?」
「その通りだ。信じられないって思いはあったけど、お前らの強さを考えれば有りえるかなと思ってよ。あとはそうだな……御伽噺の内容を知ってたってのも大きいかもな。そうでもなけりゃあ普通信じられねえだろ」
仰る通りで。俺だって自分でこんな経験してなかったら信じない。でもホントに出来たらいいなぁとは思うだろう。そりゃあもう全力で。
「積もる話は後にして、ここへ呼ばれたのは何故ですか? 父は『この世界のトップの強さを教える』と申していましたが」
俺たちの会話を切るようにミーナが話す。そういや国王様そんな事言ってたっけな。
「言葉の通りだミーナ譲。ダイゴとトウマの二人は確かにいい力を持ってる。だが……あくまでも学生や一般人と比べたらの話だ。だからこそお前たち二人に、この世界のトップである"帝"と戦わせる為に呼んだ」
その言葉の後に二人の人物が前へと出る。先程の話から察するに【氷帝】と【地帝】の二人だろう。
「ちなみに聞くけどダイゴ、トウマ。お前たちこっちに来てから何回負けた?」
「……二回、ですが」
結果的に勝ちになったかもしれないが、内容では完全に負けていたゼル・リンちゃんとの戦い。そして昨日のレイトとの戦い。この二回だ。
「どっちも"全力"だったか?」
「……そうっす」
冬馬の言葉を聞いたナックさんは嬉しそうに頷く。
「そうか。だとしたら今はどうにかして力を付けたいところだろうな……なら、コイツら二人から少しでも吸収しろ。間違っても模擬戦とか思うんじゃねえぞ?」
【氷帝】と【地帝】の二人がフードを脱ぐ。【氷帝】は小柄な水色の髪を持つ女性で、【地帝】は筋骨隆々なダンディな男性だ。
俺も冬馬も指輪を外す。外した事により抑えられていた魔力が溢れ出る。その様子に【氷帝】と【地帝】の表情も少し引き締まったように見え、後ろに控えている【嵐帝】からは口笛が聞こえてきた。
「おいおい、想像以上の魔力量だなコイツは。だが……扱い切れてないのが見え見えだ。お前らその魔力殆ど使ってきてないな?」
図星を突かれて言葉が出てこない。
俺たちの様子に何か言葉を言いかけたナックさんだったが、その言葉を飲み込むように――。
「始めろ!」
戦闘開始を告げる。その瞬間に冬馬は身体強化を、俺は雷属性を身体に纏わせ、臨戦体勢を整える。そしてそのまま冬馬は【地帝】へ突っ込み、俺は"ライ・ガン"を【氷帝】へと撃つ。
"ライ・ガン"が命中すると思われたが、【氷帝】に当たる瞬間何かにぶつかったように爆ぜる。その直後に冬馬が【地帝】の元へ辿り付き、右拳を【地帝】の顔面へ打ち込んだ。
魔法が爆ぜる音と拳が顔面に当たったとは思えない程の轟音が響く。
「格上相手に先制攻撃を仕掛ける。悪くない戦法だ。しかし――」
数個の氷の礫が俺を襲う。魔力障壁で防ぐが、たった数個で魔力障壁は砕け散る。
「――圧倒的威力不足よ。あんなに魔力があるのにもったいないわん」
自分の顔面に、冬馬の拳が減り込んでいる状態にも関わらず、右拳を冬馬に突き出す【地帝】。腕を交差して防ぐ冬馬だったが、威力を防ぎきれず、俺の後ろにいたミーナやゼル、リンちゃんを更に越えて吹き飛ぶ。
その様子に二人の帝から目を離しそうになったがどうにか踏みとどまる。すぐに冬馬が俺の横へと戻ってくる。ダメージはあまり大きくないようだ。
たった一度の交戦だったが俺と冬馬は感じていた。
この二人は自分達よりも上だ、と。
正直今まで負けてたのは同じ異世界人だったからだと考えていた節もあった。俺達よりもこの世界に慣れている、もしくは俺達を上回るチート能力を……とか。
でも今回は違う。相手はミリアルの世界の人だ。女神様から貰えるチート的身体能力もなければ、貰った能力もないだろう。
それでも軽々と俺と冬馬の攻撃を受け、それを上回る威力の反撃をしてきた。この人たちを俺たちの違いとは一体――
「今の攻防で気付いた事はいい事だ。どうしてそうなっているのかを次は考えろ、そして分かった瞬間、同じ事を実践してみせろ。早くしねえと身体の限界が先に来ちまうぞ?」
悪戯な笑顔を向けてくるナックさんの言葉を脳内で反芻する。どうしてこうなっているのか、俺達がただ弱いから? そうである事に違いはないだろう。単純に魔力量の差とかでもなさそうだ。
となると問題は使い方か。しかし使い方って簡潔に言ったところでどうすれば――
「考え事をしている暇なんかあるのか?」
その言葉で我に返った俺だったがすでに遅い。【氷帝】が撃ち出した氷の礫が、再度俺に向けて飛んできている。ダメだ! 防げな――
「ほおぉぅぅらァ!」
冬馬が俺の前に出て全ての氷の礫を叩き落とす。
「大護! 無事か!?」
「大丈夫だ。すまん! 助かった!」
「いやん萌えるじゃない。そんな友情見せつけてん。アチシもマ・ゼ・テっ」
背後から聞こえてきた声に、沢山の意味で脳内危険アラートが鳴り響く。
すぐにその場から離れ、いつの間にか背後に回られていた【地帝】と正面にいる【氷帝】に対し、お互い背中を合わせた状態になり、死角が出来ないように向き合う。
「うふっ、咄嗟の行動と判断、それと連携も結構イイカンジね。そうするとあと必要な物はぁ――」
冬馬に向けて【地帝】が走り出し、【氷帝】が俺に向けて氷の礫――数は一つだが、その大きさがさっきより桁違いにデカイ――を放つ。
「――個の力。お前らにはそれが足りん」
――衝突。――衝撃。
「キリュウ君!?」
遠くからミーナの声が聞こえる。そうだ、しっかり聞こえている。……大丈夫、まだ俺たちはやられてなんかいない。
第一……こんな機会滅多にないんだ。そう簡単に終わってたまるか。
「ん?」
「いやん、ホント……惚れ惚れしちゃう」
「そりゃどうも、お褒めいただき光栄ですよ」
冬馬ごと巻き込むように魔力障壁を張り巡らせた――その数十枚。
俺の方は八枚目まで砕かれ、冬馬側に関しては、最後の一枚にひびが入っていた。我ながらよく咄嗟に出来たと関心してる。確実に優しい王様の仲間の回復娘に救われた。
「冬馬」
「おう」
「楽しもう……挑戦だ!」
「ヘッ……よっしゃあッ!」
今ここで――俺たちは一段階強くなる。