"魔力を出す剣"
俺が皆を急かしている理由は、冬馬にも言った通り、特訓に行きたいが為だ。
指輪を外し、冬馬と二人で戦って尚、レイト相手には数分も持たずに完全に負けた。それもかなり手加減をされた状態で。
ゼルとリンちゃんと戦って、魔力の使い方、指輪を外した状態の戦い方を実践で知れた。
――友達を失った時の絶望感も。
その経験を糧にして特訓して、こっちに来た時よりもずっと強くなれたつもりでいた。結局、そんな"つもり"でやってただけで、まだまだ俺は弱かった。
ミーナを守るどころか、自分の身すら守れない程に。
ミーナは俺たちに「みんなで強くなろう」と言ってくれた。それも大切だ。でもそれだけじゃ絶対に足りない。もっと俺自身が強くならないと――
「……だいごぉ、顔いたぁい」
「っと、ごめんごめん。……よし、綺麗に取れた」
スープ塗れだったリンちゃんの顔を綺麗に拭き、食器を戻す。他のみんなの準備も整ったようだ。
「よーし、それじゃあ帰るとする――」
「おや? みんなまだ帰ってなかったのかい?」
不意に後ろから声を掛けられる。目を向けるとそこには国王様がいた。
「国王様もまだこっちにいたんですね。先に戻ったのかと思っていました」
「本当は昨日中に帰りたかったんだが、予定が長引いてしまってね。この国から出るための扉も施錠されてしまっていたから、一泊する事になったんだよ」
「扉の施錠? 転移で帰れば大丈夫じゃないですか?」
俺の質問に答えたのは国王様ではなくゼルだった。両手を挙げて首を横に振り、溜息をつくというオプション付きで。なんだその反応は。
「桐生大護。この都市にドデカイ隠蔽魔法が掛けられてる事は知ってるよな?」
「来る前に仲間から聞いたからな。それがどうした?」
「その隠蔽魔法には、外部からの魔力を全てシャットアウトする性能も付いてる。つまりこの都市に出入りするにゃ扉を使わねェとならねェ。そうでもなけりゃ俺様がいつまでもここに捕まってる訳ねェだろうよ。俺様にだって転移は使えるんだからよォ。事前情報くらい揃えてから来い。……何かあってからじゃ遅ェんだ」
悪態をつく様に多少不満を持ちそうになったが、ゼルなりに俺を気に掛けてくれての言葉なんだろう。最後の一言が無かったら分からなかったけど。
「忠告ありがとな、太郎」
「……ケッ。そっちで呼ぶんじゃねェよ」
「キリュウ君、そちらの彼は?」
そうだった。国王様はゼルの事は名前も何も知らないもんな。
「ゼルっていいます。今回俺達がここに来る理由は、攫われたこいつを助けるのが目的だったんですよ」
「そうだったのか、友達が無事で何よりだ。……ほう。それなりの実力者と言う事は一目見てわかるが……彼も君達と同じ異界――異世界と言った方がいいかな。そこから来ているようだね」
「その通りです。お気付きだと思いますがリンちゃんも同様です」
「あぁ、扉を探している最中にトウマ君に確認したよ。もう一人居るとは驚きだったけどね」
「すみません、黙っているような状態になってしまって……」
「何、気にする事はないさ。さっきも言った通り、無事だった事が何よりなのだからね」
そう言う国王様の姿は大人の品格が滲み出ていて、俺も将来こんな男を目指したいと思えるほどだった。娘と奥さんに弱いのはギャップって事にしておこう。
俺から視線を外した国王様はゼルの方を向く。
「時にゼル君。質問なのだが、どうして君ほどの実力者が攫われるような目に? 攫った奴等は何が目的だったんだい?」
聞かれたゼルは大層面倒臭そうな顔を見せる。ゼルてめこの野郎。俺の目標の男性に向けてなんて表情をしてやがんでい。
「俺様やこいつらよりも強ェ奴が相手だった、それだけだ。目的に関しては俺様も詳しくはシラネ。ただ"魔力を出す剣"の場所を特定しろ、出来なきゃコロスってだけ言われたなァ。あのクソハゲとクソ細目野郎に」
"こいつら"の時に俺を指差す。強ェ奴=クソ細目=レイトで間違いないだろう。ただもう一人のクソハゲって誰だ? リンちゃんから聞いた、以前ゼルとリンちゃんが所属してた組織の奴の一人か?
「つーかそれってこの世界全体で見つけろって事だよな? よく見つけられたなゼル」
「ハンッ。俺様の詮索魔法をナメんじゃねェ。まあ流石に広すぎたから三日も掛かっちまったけどな。お陰で見つけた後、そのままブッ倒れた」
「そりゃ倒れるだろうよ」
それにしても"魔力を出す剣"って……。以前本を確認しに行った時に、物質が魔力を放出する事象は、王宮の本以外には無いって聞いてた筈なんだけどなあ……その剣とやらも女神様との関わりがあるのか?
「国王様は魔力を放出する剣ってご存知でしたか? ……国王様?」
あの紳士な国王様が、質問に対して何も反応しない事を不審に思い、視線を国王様へ向ける。あの優しく、品格のある表情でも、公務の時の真剣な表情でもない、俺に【龍操―炎帝】の姿を見せてくれた時と同じ表情をした国王様の姿があった。
「大護ー、パパさーん。そろそろ帰ろう……って大護。一体パパさんはどうしたんだぁ? なんか様子が……」
待ちくたびれたのか、それとも様子がおかしい事に気が付いたのか、ミーナとリンちゃんもこちらに近付いて来る。
「いや、俺にもさっぱりで……国王様? どうしたんですか?」
俺の質問には答えてもらえず、国王様の目にはゼルの姿しか映っていないように見える。敵意がない事は分かるが、あまりの真剣さに、流石のゼルもたじろいでいる。
「ゼル君……今君は"魔力を放出する剣"を自分が探したと、そう言ったかい?」
「あ、あぁそうだ。この三日間を掛けてな」
「場所は、今でも覚えているかな?」
「テメェで調べた情報だ。忘れる事なんてねェよ」
ゼルのその返事を聞いた国王様の表情が少しだけ明るいものになる。かと思えば、再度真剣な顔つきへと戻り、「ちょっとすまない」と言って俺達と距離を取る。そうして数分もしないうちに戻ってきた。
「ゼル君、いきなりで悪いのだが、私と一緒に来てくれないか? "剣"の場所を教えて欲しい」
「それは別に良いけどよォ、別にここで伝えりゃいいんじゃねェのか?」
「ちょっとそれはな……」
ゼルに対しそう話し始める国王様。
一度情報を整理しよう。敵は"魔力を放つ剣"の場所を特定するためにゼルを誘拐した。コレは間違いないだろう。敵の目的としては、女神様も言っていた"邪神復活"。
そして国王様も"魔力を放つ剣"の場所を知りたいと言っている。今回は待ち合わせのために空上都市へと来たと言っていた。
"魔力を放つ剣"は"魔力を放つ本"と関係がある事は間違いないだろうとすると、考えられる事は一つ。
「"邪神復活"のために"剣"が必要で、それを阻止するために動いているのが国王様たちって事か……」
俺の独り言に対して大きく反応を見せた国王様。当たったみたいだな。
「子供達を巻き込みたくないという大人の考えを打ち砕くのは感心しないなキリュウ君。それに……"邪神復活"まで知っているとなると、やはりあの日に……」
国王様の言うあの日と言うのは、十中八九王宮で本を読んだ――女神様と話をした時の事だろう。
「そうです。話そうとは思っていたのですが、その後色々ありすぎてすっかり忘れてました」
ミーナの誘拐もそうだけど、その後のパーティとかも含めてな。あの日は色々忙しすぎたんだ。敢えて言葉には出さないけど。
「そうだったね。君の配慮は嬉しいけど、顔に出るからあまり意味を成さないかな」
「配慮と分かっていただけたのであれば、自身の胸に留めていただきたかったっ」
「私なりの先程の仕返し……とでも捉えてくれ」
何だよこの国王様実は茶目っ気までばっちりだったのかよ。もう決めた。俺の目標はこんなお父さんになる事だ。もうこの人の背中を追い続けてやるんだ。
「話が逸れたな」と一言間を置いた国王様。ゼルに向き直り話の続きを始める。
その間を狙ったのか、冬馬が俺の腕を引っ張り、ミーナとリンちゃんの元へと連行される。要するに何が起きているのか説明求ムって事だった。
女神様との話の事を交えて、国王様との話の一連を三人に説明した俺だったが、リンちゃんは途中で冬馬の肩で寝始め、冬馬もリンちゃんを肩車したまま寝始め、最後まで聞いてくれていたミーナには「何でその日の内に言わなかったのか」と問い詰められることに。あれ? 俺が責められるの?
ミーナから問い詰められてる内に、国王様とゼルの話も終わったようで、俺達四人(二人熟睡)の近くへと移動して来た。
ゼルは何故か満足そうな表情を見せる一方、国王様の表情はどこか優れない。一体何のやり取りがされていたのかと聞こうとしたが、それよりも先に国王様からの説明が始まった。
「端的に言おう。これからゼル君と共に私の"帝"の仲間たちの元へ向かう事になったが、それと共に一つ条件を渡されてな……キリュウ君、トウマ君。そしてリンちゃん。今から一緒に来てもらえないだろうか?」
「あ、了解です」
「……随分とあっさり了承してくれるもんだな。身構えた私が滑稽に見えてくるよ」
言いながら微笑んだ国王様は、どこか安心したような表情を浮かべていた。
それでは……いざ、帝たちの元へ。




