炎帝
メリト学園寮を出発してから二日。ようやく辿り着いたのは、当たり一面砂の海に囲まれたとある砂漠地帯。その砂漠地帯の中央にある唯一の水辺、所謂オアシスに、俺と冬馬とリンちゃんはいた。
「……どうやらここが、国王様が探し出してくれた場所の中央になるみたいだ。ホンットに何もないし、大分遠かったな」
「何でこんなフラグを回収せにゃならんのじゃぁ。二日前に遠くになりそうとか言った俺、恨むぜぇ」
「……こっちでも、フラグさんは元気」
この場所から直径十キロ以内の中に、"空上都市ナス"に繋がる扉がある……筈。いや、無かったら困るけどね。
「取り合えず二人は休んでてくれ。今からミーナを迎えに行って来る」
オアシスに頭を突っ込んだ状態で冬馬は右手、リンちゃんは左手を挙げて返事のようなリアクションをする。
「……よし、いくか。"転移"」
目を閉じて魔法名を唱えると、浮遊感が身体を包み込む。ナックさんのギルドへ向かうために使った"転移"とは違い、今回は俺一人での移動だから、魔法陣は展開する必要が無い。感じていた浮遊感が終わり目を開くと、そこは既にメリト学園寮の俺の部屋。
国王様からの連絡を受けた当初は、ミーナを連れてどうやって移動するかを考えていたんだけど、不意にリュウが「ダイゴ君の"転移"を使えばいいんじゃないでしょうか」の発言を受け、この方法でミーナを迎えに行く事になったのだ。
考えればすぐに分かった事だと人は言うかもしれないが、あの時は何だかんだで切羽詰ってたから堪忍してほしい。
……って変な脳内メッセージはいいとして。部屋を出てミーナの部屋の前へ行く。
「ミーナー。準備は出来てるかー?」
返事が無い。出掛けているのか? この時間には部屋にいてくれる筈だったんだけど。
「あっ、ダイゴくん!」
不意に呼ばれた方を見ると、アリアの姿があった。訓練場にでも行っていたのか、少し汗ばみ、桃色の髪の毛が頬と首元にくっ付いている。
「ミーナちゃんから伝言があって、部屋じゃなくて王宮に迎えに来て欲しいって言ってたよ」
「王宮……? 良いけど何でまた……」
「ミーナちゃんの事がどうしても心配みたいで、国王様も一緒に行く事になったんだって」
「あの親バカ国王め」
「そ、その言い方……大丈夫なのかなぁ……」
つい漏れてしまった本音を懐にしまい込んで、アリアの伝言通り王宮へと転移。かと言って王宮内へ直接行くのも気が引けるから、王宮の目の前に転移する。
到着した王宮は相変わらずのでかさだった。早速門番の人へ話しかけると、すぐに王宮内へと案内してくれる。そのまま役目を執事の人へ交代し、国王様の部屋の前まで連れてかれた。
執事の人が一声掛けると扉が開き、奥の椅子に座る国王様と、その横に立つミーナママ。そしてミーナママの反対側にはミーナの姿があった。
俺が入って直ぐ、国王様の一声で部屋の外へ出る兵士の皆さん。最後の一人が出ていったところで、国王様が口を開いた。
「久しいな、キリュウ君。元気にしていたかい?」
「お久し振りです国王様。相変わらずでしたよ。国王様も相変わらずミーナへの愛が輝いてますね」
「何を当たり前の事を。娘を愛さぬ父などおらぬ。なんなら公務より娘からのお願いの方が大事だ」
この人ほど『親バカ』という単語がほめ言葉になる人はいないだろう。懐にしまった本心は解放してもいいかもしれない。
「娘の話を始めてしまうと本題を忘れてしまうから、本日はこのくらいで止めておこう。……話はすでに聞いているかもしれぬが、今回は私も同行させてもらおうと思ってな」
「はい、友人から聞いています。その際にはミーナの事が心配で心配でたまらなくなったと聞きましたが、何か別用があるのでしょうか?」
ちらっとミーナママの方を見る国王様。ミーナママが軽く頷いた事を確認し、話を再開する。
「うむ。訳を話す前に一つ確認したいのだが……キリュウ君は私の"二つ名"を知っているかい?」
「――えっ?」
「その様子だと知らないようだね……では先ず、改めて自己紹介が必要だな」
椅子から立ち上がった国王様は、俺の前へと移動する。
「メリト王国第十四代目国王、バドル=メリト=フィアンマ。二つ名を――」
国王様の身体を炎が包み、そのまま渦を巻くように上昇する。上昇した炎は姿を変えて……あれは……ドラゴンか!?
「【龍操―炎帝】と申す。改めてよろしく」
そう右手を差し出す姿は、国王様でも親バカお父さんでもない。
一人の戦士のモノだった。