空上都市
「でも悠長にもしていられないしな。ちゃんと話して、今回は俺達だけで行くって伝えるしかないだろう」
「だな。それでどうするよぉ? 今からみんなに呼びかけに行くかぁ?」
「話は聞かせてもらったぜーッ!!」
デカイ声と共に開かれる俺の部屋の玄関。向けた視線の先には、ノエルとレド、そしてリュウの姿があった。気が付かなかった。
「いつから部屋の前にいたんだ? というよりも、何で俺の部屋の前に居たんだ?」
「まーまーまー。過ぎた事は忘れて、話を戻そうじゃないの」
「過ぎた事どころか、絶賛発生している状態なんだけどなぁ」
はぐらかすノエルに詰め寄る冬馬を尻目に、レドが俺へと近付いてくる。
「ノエルが戻ってきたリンさんの気配を察知してね。手合せした相手だし、ちょっと様子を見に行こうって事になったんだ。……まさかこんな大事になっているとは思わなかったけど……勝手に聞く様な真似してごめん」
そういう事だったか。リンちゃんの心配をしての行動からの事だし、今回の盗み聞きは大目に見るか。
「わかったよレド。因みに話はどのくらい把握してる?」
「えーっと、何ていったかな……」
レドが答えに詰まっていると、リュウもこちらへ近付き言葉を続ける。
「"ケータイデンワ"とやらで何か音声を聞いていた事、"空上都市ナス"へ向かうことになった事、そして……貴方たちお二人で向かおうとしている事。そのくらいですかね」
オーケイ。ほぼ全部って事だな。
「それなら先ずは三人に説明をしたいと思う。このまま時間を貰ってもいいかな?」
首を縦に振り、肯定を示してくれるレドとリュウの二人。リンちゃんも起こして、一緒に説明した方がよさそうだな。あとは、あそこでコブラツイスト決められてるノエルも回収しないと。
◆ ◇ ◆
「――状況としてはこんな感じだ」
ノエル、リュウ、レド、リンちゃんと、今この場に揃ったメンバーには現状を話し終えた。あとは、これからの動き方についてなのだが、
「"空上都市ナス"へは、俺と冬馬の二人で行こうと思っていたけど……リンちゃんも加えた三人で行こうと思う」
そう話し始めた時にノエルの目つきが鋭くなった。
「何でだ? 人数が多い方が有利に事を運べるんじゃねーのか?」
ノエルのいい分も最もだと言葉を返そうとしたが、俺の発言の前にリンちゃんが話し始める。
「……普通なら、そうかもしれない。今回は相手が、悪すぎる」
「それでも――っ」
瞬間、リンちゃんがノエルに接近する。そのままノエルの額にリンちゃんの拳がコツンと当たる。威力は全くないだろうその拳だが、問題なのは、拳が当たるまで全く反応できなかったことだ。
「……今のが視えないなら、アイツの動きは、絶対に追えない。見つかった瞬間、殺される可能性が、高い」
恐らく今のがリンちゃんの全力。しかしアイツ……レイトとかいう奴はそれ以上なのだろう。その動きを見切った上で行動できないと、戦いにすらならない。
「……だいごは優しいから、こんな言い方はしないと思う。……でも今は、命が掛かってる事だから、リンの口からハッキリ言う。……君が、君達が来るには、明らかにレベル不足。……ただの、足手まといにしか、ならない」
そうハッキリと告げたリンちゃんは、少し疲れた様子で自分が座っていた椅子へと戻る。一方のノエルは、言い返すことのできない自分に不甲斐なさを感じているのか、拳を強く握り締めて俯く。
リンちゃんの言い方は少しキツイところもあったかもしれないが、確かにその通りだった。そして、本来は俺からしっかりと言うべき内容だ。リンちゃんには悪い役目を引き受けさせちゃったな。後でお礼をしよう。
「くっ、そおッ!!」
沈黙状態を破り、自分の膝に拳を叩きつけたノエル。そのまま俯かせていた顔を上げる。悔しさはまだ滲み出ているが、先程よりはいくらかすっきりしたような表情だった。おそらく自分の中で整理ができたんだろう。
「絶対強くなって、肩並べて戦えるようになってやる。……だから、今回は諦める」
「あぁ、待ってるよノエル。ありがとう」
ノエルの気持ちも定まったところで、次の話へ進もう。
「"空上都市ナス"について、ですね?」
「そう。"空上都市"ってくらいだから、その名の通り空に浮かんでる都市……って事なのか?」
そんな都市があったら、今までも見つけてそうな気がするけどな。
「そうです。原理は不明ですが、一つの都市が丸ごと空に浮かび上がっています。そして、ダイゴ君の疑問にお答えしますと、空上都市には隠蔽魔法が掛けられています。その為、ただ空を見上げただけでは決して見つける事はできません」
「隠蔽魔法……魔法にも色々あるもんだな。でもどうして都市一つにそんな魔法が掛けられているんだ?」
「それもよく分かっていないのが現状です。更に言えば、隠蔽魔法自体も現代では使えるものが存在しないと言われている魔法です。推測ですが、過去に起こった大きな事象から、逃れるための手段だったのではないかと言われています」
過去の大きな事象? ……それってもしかして――。
「だぁぁあっ! 小難しい話は置いといてだ。結局その都市にはどうすりゃ行けるんだぁ?」
黙って聞いてた冬馬に限界が来たらしい。でも時間がないのも事実だし、考えるのはまた後でにしよう。
冬馬の問いかけに対し、少し考えるそぶりを見せたリュウ。少しの間が空いてから、リュウが口を開く。




