涙の訳
俺の部屋にリンちゃんのすすり泣く声が響く中、リンちゃんの様子を見かねた俺は、すぐにリンちゃんの話を聞いた。
簡潔に結果を述べると、ゼルが姿を消したらしい。いや……正確には連れ去られたようだ。
リンちゃん達は元々、とある組織に所属をしていたらしい。その組織は"邪神復活"の為に動いていたという。女神様が言っていた者たちってのが、その組織だとみて間違いないだろう。
そして女神様が言ってた、女神様が召喚していない地球人は、リンちゃんとゼル……そしてもう一人の男の事だろうと判明した。今回ゼルが連れ去られたのは、そのもう一人の地球人が大きく関わっているようだ。
冬馬にも状況を伝え、俺の部屋に来てもらう。そして、その地球人の男が残した"とある物"を操作していた。それが、
「まさか"携帯電話"の録音機能で伝言を残していくなんてなぁ。明らかに地球人ですって認めるようなもんじゃねえか。こっちの人達じゃあ、携帯電話の使い方なんてわからねえだろうしよぉ。ご丁寧にこんなメモ用紙まで残して」
残されていたのは"携帯電話"。勿論ミリアルに存在する筈の無い代物だ。そして冬馬が言ったメモってのは、『録音を聞くよーに』とだけ書かれた紙の事だ。
「あぁ。そして俺達……というより、ゼルとリンちゃんが、自分達とは別の地球人に関わってるという事も知っているって事になる」
「確かになぁ。録音は聞いたのか?」
冬馬の問い掛けに、首を横に振る。
「内容はまだ聞いてない。リンちゃんも聞く前に飛び出してきたみたいだしな」
「そういやそのリンちゃんはどうしたんだ?」
「急いで来て疲れが出たのか、今は寝てるよ」
目を腫らして、涙の跡まで付けたままでな。そして時々ゼルの名前を呼んでいる。
「先に聞くのは気が引ける部分もあるが、悠長にもしていられない。俺達だけで録音を聞いてみようと思ってな」
「同感だ。そうこうしてる内にゼルの身に何かあったら、リンちゃんが戻ってきた意味がなくなっちまう」
お互いの心情を確認したところで、改めて携帯電話を操作する。そしてそのまま録音アプリを開く。保存されているデータは一件だけだったが、ご丁寧に『これを聞いてねー』というタイトルまで付けられていた。
そして、そのまま録音データの再生を開始する。
『えーっと、これで録音出来てる……ね、よし。改めてやっほーまだ見ぬ地球人二人組み。俺っちは玲斗。伊岬玲斗ってんだ。こっちに来てからは苗字と名前が逆になってるからレイト=イサキって名乗ってるけど、好きに呼んじゃってよベイビー』
レイト……身構えてたこっちが阿呆に見えるくらいお気楽な雰囲気で話すやつだな。
『んー、回りくどいの嫌いだから簡単に話すと、君達と話がしたいんだよねぇ。内容は……君達の"クラスメイトのお姫様の家にある本"について、とでも言っておけば、ちょぉっとは警戒してくれるかなー? な、何で知ってるんだーデデドン。みたいな』
……ちょっとどころじゃない。警戒どころか、今の発言で限りなく敵意に近いものが生まれた。何で知っているのかもそうだけど、それを知っているという事は……いつでもミーナに手を出せる状況にある可能性が高い。
『分かってると思うけど拒否権はないよ。とか言いつつ拒否してもらっても別に良いんだけどねー。そしたらゼルもお姫様も殺すだけだし、その方が君達も強くなるんじゃない? 怒りで金髪にでもなってさ?』
――"殺す"。口で言うのは簡単なそんな言葉だが、コイツは恐らく本当に実行するだろう。それも何のためらいも無く。音声の言葉だけでも、そんな雰囲気を感じさせる。
俺の大切な人たちを守るために、コイツの事だけは早急にこ――
「大護ッ!!」
「――っ!?」
一度録音の再生を止めた冬馬が、俺の肩を掴みながら呼びかけてくれる。
「落ち着け」
続いて掛けられる言葉はたったの四文字。しかしその言葉に、"殺意"のみで動こうとしてた俺の気持ちは救われる。
「わ……りぃ。もう、大丈夫だ。ありがとな」
「いやいいさ。ただ……俺も相当頭に来てるからよ、俺が暴走しそうな時は止めてくれ」
「分かってる」
掌から滴り落ちる血が、冬馬がどれほどまでに堪えているのかを教えてくれる。一度気持ちを整えて、再度録音を再生する。コイツがどこにいるのかを聞くためにも。
『冗談冗談。怒りで金髪になるなんて現実じゃあありえないモンねー……って異世界召喚も現実味がないかー。おっと、話が逸れちゃったね。二人に来てもらいたいのは、"空上都市ナス"。今から三日以内に来るように。よろしくー』
録音はそこで終わっていた。三日以内に"空上都市ナス"へ……三日以内ってのは録音を聞いてから三日以内でいいのか? いや、そうだったとしてもなるべく早く向かった方がいいだろう。その為にまずは――
「"空上都市ナス"、ねえ……大護、知ってるか?」
「いや、知らない。というよりも、こっちの世界での俺達の知識なんて高が知れてるし、一度都市の存在そのものを調べた方が良さそうだな」
そうなると一先ず明日学園の図書室にでも行ってみて……そうすると時間がもったいないか? 今からやれる事はあるにはあるが、
「みんなに聞いてみるのが一番じゃねえか? 正直あんまし巻き込みたくないって思いがあるんだけどよぉ」
そうだ、分からないなら聞けばいい。けど懸念点としても冬馬と同意見なんだ。行ってみないとどうなるかは分からないけど……万が一戦闘になった時を考えると、なるべく俺と冬馬だけの状態の方が良い。
戦闘を避けるのが一番良い方法である事は間違いないが、避けられない可能性も十分にある。もしそうなった時……正直、みんなには荷が重すぎる戦いになるだろう。ノエルがリンちゃん相手に歯が立たなかった事が良い例だ。
そして、そのリンちゃんと共に戦っていたゼルが容易く連れ去られた……相手はかなり強いと考えていた方がいいだろう。




