模擬戦 大護対レド
悔しそうな様子で叫びながらその場に寝転がるノエル。そんなノエルに近づいて左拳の様子を見てみたところ、ぱっと見、骨に異常はない様子で、表面の皮膚だけ破れているような感じだった。
すぐに治療をしようとしたが、その位はほっときゃ治るとノエル本人に言われてしまい治療できず。練習したかったんだけどなぁ。
一方のリンちゃんは疲れた様子も全く見せず、冬馬の方へ移動し、よじよじと背中を登って再度肩車の状態へ。そのまま冬馬の頭を枕代わりにして寝始めた。
「……あの子ホントにオレと同い年かよ。いろんな意味で」
「俺も同じ感想を漏らそうとしてたところだよノエル。自分で言ってて信じられなくなってきた」
いくら身長差があるとはいえ、普通肩車の状態で寝れるもんか? あと同い年の異性の背中によじ登るってなんだ。
「よかったのノエル? 勝ち逃げされるような状態になっちゃったけど?」
「仕方ねえさレド。今だって手加減された状態で完敗したしな。今のオレじゃあこれ以上の戦いはできねえよ。……もっと強くなって必ずリベンジしてやる!」
手加減されていたというノエルの言葉に驚きを見せるレド。やっぱり戦った本人は気が付いてたみたいだな。確かに、リンちゃんはノエルに対して手加減をしていた。初めて会った時に比べて、スピードも破壊力もかなり抑えて戦っていた。
本人が気付いてなかったら黙っておこうと思ったけど、わかっているなら話してしまうか。
「ノエルの言う通り、リンちゃんはかなり手加減してたと思うよ。俺と冬馬で戦ったときより、動きも遅かったし、パンチの威力も随分低かったしな。あの子が本気で殴ったとき、身体強化を施してる状態の冬馬ですら一発で落ちそうになったからな」
冬馬の丈夫さと、アイツが使う身体強化のレベルの高さを知っている二人は、俺の言葉を聞いて、驚きと共に苦笑をその顔に浮かべる。
「前に授業でトウマとやった時、模擬戦用の棍で身体強化中のアイツの事攻撃したら棍が折れたんだけどな……そんなアイツが一撃で……どんな破壊力だよ。つーか手加減されてなかったら、オレ死んでたんじゃねえか?」
「……大丈夫……だっただろう……多分……恐らく多分……」
「うん、まずそれを考えるのをやめた方がいいんじゃないかとボクは思うんだ。だからダイゴ、ノエルの反応を面白がって、不安にさせる様な事言わないで」
あまりにも多分と言いすぎたせいか、ノエルの震えが止まらなくなったからここいらで自重。
さて、急にノエルたちの戦いが始まったから手をつけられなかったけど、俺も自分の訓練に行くかと思ったところで、レドに呼び止められる。
「あのさダイゴ、今日……ボクと模擬戦をしてくれないかな? 今の自分の実力を確かめる為にも、ボクも格上と戦いたい」
そう話すレドの表情を見たら、とてもじゃないけど断る事はできないと判断し、急遽レドとの模擬戦をする事に。
レドと距離を取り"雷刀"を出す。初めに作った"ライトニングセイバー"と比べると魔力の密度が非常に高いこの武器。ゼルとリンちゃんと戦った時に怒りで突発的に出来ただけだったけど、魔力操作の練習の賜物か、今では自在に操れるようになった。やったね。
「似たようなのは前に見たことあったけど、その魔法は初めて見るね。前のやつより小さくなったんじゃない?」
「サイズはな。でもこっちの方が威力は上だからさ、安心してくれ」
「全然安心できないんだけどなー……いくよっ!」
レドが俺の目の前に迫る。これがレドの全力か! 冬馬も前に言ってたけど、確かにかなり速い。
「でも――見えてるぜッ!」
下段で構えた"雷刀"をレドに向けて振り上げる。動きが速い相手には下段がいいってゲームと漫画で習ったんだ。刀素人舐めるなよ。
しかし俺の攻撃が当たる事はなく、迫ってきていたレドは刀がギリギリ届かない位置で踵を返し、バック転の要領で下がりながら投げナイフを投合してくる、その数五本。
迫るナイフを"雷刀"で全て弾き飛ばし、再度下段で構えなおす。レドは元の場所に戻っていて、最初と同じ状態となった。
「今のがボクの全力の速度。大抵の人はこれで懐に潜り込んだり、投げナイフを当てたり出来るはずなんだけど……やっぱりダイゴにも見切られるんだね。なんだか分からないけどちょっと安心した」
「俺に"も"って事は、冬馬にも同じ方法を使ったのか。……ちなみにアイツはどうやって防いだんだ?」
「ボクより速い速度で同じ動きをして来て、そのまま頭を鷲づかみにされて動きを封じられた」
「悪質だな」
「だよね」
「おいこら聞こえてんぞそこの二人ぃ」
悪質な男の声がするが、俺とレドは耳を貸さない。まあでも、正直相手と同じ動きを狙ってできれば隙はできるだろうし、そのまま動きを封じ込めるって事を考えると妥当な手段だよな、うん。悪質とか言ってごめんな冬馬と心の中で謝罪をしてたら、再びレドが走りこんで来た。
勢いそのままにまたもやナイフを投合してきた。今回は三本。いや、正確には"傍から見ると"三本のナイフだ。
三本のナイフを刀で弾き、それぞれのナイフのぴったり後ろに付くように飛んでいたナイフを、返す刀で再度弾く。合計六本のナイフを防いだところでまたも始まりと同じ状態へと戻る。
「これも見切られるんだね。トウマには多少不意をつけたんだけど」
「ちなみにアイツはどうやって防いだんだ?」
「あっぶねぇとか言いながら指で挟んで止めてたよ。六本とも全部」
「悪質だな」
「だよね」
「お前ら最早それがやりてえだけになってねえか?」
冬馬は悪質と勝手に心に留めて、聞こえてくる言葉は華麗に受け流す。"雷刀"を下段に構え直し、少し沈み込む。
「今度は……こっちから行くぜッ!」
そのままレドに向けて走り出す。勢いそのままに"雷刀"を切り上げるが、間一髪のところで上空に避けられる。
「"ガイアランス"ッ!」
避けた上空から地属性中級魔法を放つレド。俺の視界を埋め尽くすが、"雷刀"を横に一閃。レドの魔法を打ち消す。
「うそ――っ」
不安定な姿勢で地面へと着地したレドへ再び距離を詰める。
「"ウィンドランス"ッ!」
「"ファイアボール"ッ!」
風属性中級魔法と火属性初級魔法がぶつかる。普通に考えれば、中級魔法が初級魔法に負けることはないが……そこはこのチートスペックをフル活用だ。
火属性初級魔法が風属性中級魔法を打ち砕く。
「くそっ!」
再度ナイフを投げようとしたのかわからないがちょっと遅い。下がろうとしたレドの懐に入り込み、
「俺の勝ちだな」
レドの喉元に"雷刀"を突きつけながら言う。ちょっとやってみたかっただけだ。後悔はない。突きつけた"雷刀"を消しつつ一歩距離を置いたところで、レドが地面に倒れこむ。




