冬馬とレイア
「おっ、お帰り二人とも。中々戻ってこなくて心配になったけど、大丈夫だったみたいだな。目当ての食べ物は見つかったか?」
大きな動きが無い冬馬たちに呆れつつ、屋台で売ってたたこ焼きみたいな物を食べてると
、ミーナとアリアが戻ってきた。
「ふぇ? 目当ての食べ物って?」
「あれ? 向こうにある屋台に行って来たんだろ? 勢いよく行ったからてっきり何か食べたい物でも見つかったのかと思ってたけど……」
「えっ!? いや、えっとね……って、何で勢いよく向かったら食べ物だってに限定してるの!? 私そんなに食い意地はってないよー!」
「あの口元を汚してきた事が印象強くてな」
……やっべ自爆した、それ拭いたの俺じゃん。アリアの顔がみるみる赤くなっていくけど、絶対俺もそうじゃん。顔あっつい。人をからかうのは程々にって心に決めよう。
「ご、ごめんなアリア……俺にもダメージが来てるから、あの事はお互い忘れよう」
「えっ、いや……私は別に……」
小さい声で何かを言いながら俯いてしまうアリア。そんなに嫌だったのか……。
「本当にごめんな……嫌な思い出になっちまって」
「ち、違っ……ふえぇ、ミーナちゃ~ん」
「……ねぇアリア。私たち、相当苦しい道を選んだんじゃないかしら」
アリアが泣きながらミーナの胸に飛び込んで行く。羨ま……そうじゃなくて、アリアには後で何かお詫びでもした方がいいかな。……ミーナが言ってた道? がどうとかはよく分からんが。
……にしても、女の子同士がくっ付いている様子を見るのは……中々どうして……うん、いいねっ。
「変な感想を頂いたところでなんだけど、あんまりこちらばかり見ていると、レイアたちを見失う……あら?」
やっぱり俺の心は容易く読まれてた事に内心落ち込みながら、ミーナの視線の先を見て見ると、先程まで居たはずの冬馬たちの姿はなかった。急いで辺りを見回しても近くには見当たらないとなると……
「冬馬の野郎、気付いててわざと付けさせてたな……今ので完全に撒かれた」
一先ず、冬馬たちをまた見つける事を優先して、二手に分かれて探す事にした俺たち。すぐに見つかればいいんだけどなぁ。
◆ ◇ ◆
大護たちの追跡を撒いた冬馬。尾行されている事には気が付いていたが、レイアが気付いていない様子があり、知らせて動揺させるより、機会をみて撒いた方が良いと考えての行動であった。
(にしても……流石大護。魔力操作"は"完璧だったなぁ。それ以外のところが問題しかなかったけど……。ミーナちゃんとアリアちゃんが一緒じゃなかったら気が付けなかったかもしれねえや)
冬馬が感じた気配は最初は二つだった。魔力操作が覚束ない様子で、気配が小さくなったり、大きくなったりを繰り返していたのだ。
大護だったらもっとうまくやるだろうと考えた冬馬は、ミーナとアリアの二人が様子を見るために尾行しているのか、はたまた第三者なのか……結果としては前者ではあったが、二つの気配がなくなった時に肉眼で確認したら、冬馬から丸見えの場所に大護の姿があった時は、驚きを通り越して少し残念に感じたようだ。
今度一緒にミッション(覗き)を受注して、相手に見つからない隠れ方でもレクチャーするかと考えていたが、今はそれを考えるタイミングではなかったようだ。
「トーマ、またぼーっとしてる! 今日は楽しむって言ってたのにっ」
「あぁ、悪ぃなレイア。もう大丈夫だ」
「……何かあったの?」
心配そうに冬馬の顔を見上げるレイア。その目から本当に心配してくれている様子が見て取れる。女の子にこんな顔をさせちまうなんて情けねえ。とでも言わんばかり自分の頭を一度殴った冬馬。
急に自傷し始めた冬馬の様子に焦りをみせるレイア。そんなレイアの頭に冬馬の手が置かれる。
「もう終わったから大丈夫だ、心配かけて悪かったな。思いっきり楽しもうぜ!」
そう言うや否や「おっ、あれ美味そうだな!」とレイアの手を引きながら、食べ物の屋台の元へ歩きだす冬馬。引かれる手を見ながら、空いた手で冬馬に撫でられた頭に手を置くレイア。
「へへっ」
幸せそうに頬を赤らめて破顔する。
「なあに急に笑い出してんだぁレイア」
「何でもないよーぅ! 早く行こっ!」
今日はうんと楽しもう。レイアはそう思いながら、手が引かれるまま……冬馬に身を委ねて人波を進む。
「よっしゃあ! 大儲け!」
「それぐらいでもう勘弁してくれぇぇぇ! うちの商売が成り立たなくなっちまうぅぅぅ!」
「へっ、そんな甘い世の中じゃない事ぐらい……分かってんだろぉ? 親父さんよぉ?」
「ひっ、ひいぃぃぃぃっ!!」
ある程度の食べ物は食べて回った冬馬とレイア。腹は満たされた現在、目に付いた遊び用の屋台を巡り、金魚すくいのような屋台で金魚とは似ても似つかない小魚をすくっていたのだが……。
「トーマ……やりすぎでしょ……屋台の人泣いてたよ?」
「いやあ悪ぃ悪ぃ。久々だったからつい楽しくなっちまってさぁ」
一回の挑戦で殆どの魚をすくいあげた冬馬。あまりの腕に屋台の親父が根を上げたのだ。地球で言うところの二百円で店の金魚を殆ど持ってかれるような状態。屋台の親父が泣き始めるのも頷けるだろう。
とは言っても、すくった小魚は屋台に返し一匹だけ貰って来たので、実際には屋台には被害は出ていない。ちなみに冬馬がすくった小魚は、小袋に入った状態でレイアが大事そうに持っている。
「久々って……ウチはあんな遊び初めて見たよ?」
「あぁ、こっちじゃなくて地球では良く似たヤツがあんだよ。まずこういう屋台が出る行事を"祭"って言ってな。その中で遊べる、"金魚すくい"ってヤツなんだ。金魚って魚を破れやすい紙を使ってひたすらすくっていくだけ何だけど、これがまた嵌るわけよぉ」
「へぇー、ホントにさっきの屋台の遊びと似てるんだねー」
「だろ? まぁ正直、さっきの紙は大分破れ難かったけどな。地球の方がもうちょっとスリリングだぁ」
楽しそうに"祭"の話をする冬馬。無邪気に話を進める彼の横顔を見ると、つい顔が火照り、胸が高鳴る。自分の性格上、異性の友達は何人もいたが、こんな想いをするような人は今までいなかった。
初めての事だから戸惑ってはいたけど……やっぱりこれは――
「そうだ! なぁレイア?」
「ひぅっ!? な、なーにトーマっ」
咄嗟に顔を背けつつ、何とか返答するレイア。しかし赤面した顔は隠せなかった。
「ん? なんか顔が赤いけど……大丈夫か?」
「だっ、だいっじょーぶ! それでどうしたの?」
幸いな事にあまり深くは追求してこなかった冬馬だったが、そんな冬馬にちょっと不満を抱く。乙女心は複雑なのだ。
「そうそう! "祭"といえばの"服"着てみねえか?」




