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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
学園の日常
61/148

事件は会議室で起きてるんじゃない

「……なぁ、大護さんよぉ。こないだまで春の陽気じゃなかったっけ? 何で今日はこんなに暑いんだ?」

「知らん。お前の"能力"でどこにでも着ていけるクーラーマント的なやつでも作ったらどうだ?」

「もう試したぁ。ダメだったぁ。そして余計に暑くなったぁ」

「おつ」



 遠足から始まった怒涛の忙しさから早一ヶ月とちょっと。地球の時期で言うなれば6月末ってところか、これから夏真っ盛りになるところだ……と思っていた矢先、何故か今日だけ異常に暑い。溶ける。いや溶けないけど。



 夏を迎えてからの暑さはわりと大丈夫なんだけどさ、急に来ると心の準備が出来てないからキツイのよさ。身体的にもキツイのよさ。単純に風邪引くわ。



「二人ともおっはよーっ!」



 まさしくドーンッ! といった効果音が当てはまるだろう勢いで、登校中の冬馬の背中にダイレクトアタックが決まる。……俺? 足音聞いて即効逃げた。



「んあ? レイアか。たいよーさんさんおはよーさんっと。相変わらず元気いっぱいかよぉ」



 そんなレイアのどーんに対して全く怯まないし、体勢も崩さない冬馬。ちなみに俺が受けてたら間違いなくふらつくし、下手すると地面とキッスする事になってただろう。経験者は語るのだ。



「んーっ! トーマも相変わらず丈夫だねー。何であの勢いでぶつかってびくともしないかなー?」

「へっ、女子に倒されるほど柔な鍛え方してねぇよ」



 と、ニヒルに笑ってみせてるつもりであろう冬馬君。実際の表情は屍の如く目が死んでおるがな。小学生女子相手なら防犯ブザーが鳴り響くレベルの表情だ。



「ウチも結構鍛えてるんだけどなー。ほらダイゴ。女子にしては結構良い筋肉付いてない?」



 言いながら自らのシャツを捲くり上げて腹筋を見せてくるレイア。



「あー、確かに。俺が知ってる女子の筋肉の付き方とは違うな」

「ダイゴが知ってる女子の筋肉は?」 

「地球にいた時、体育のバスケでちらっと見えた、バスケ部エースゆみちゃんの腹筋」

「その子は何の武器を使ってたの?」

「言っただろレイア、地球では武器は使わないって。だからレイアのこの筋肉は戦う女の子の……って何しとるかうら若き乙女がぁぁぁ!!」



 暑すぎて盛大に脳内処理が遅れてたけど、おかしい事にやっと気が付いた。



「健全な男子高校生たちになんてもの見せてるのですか!? ホンットにありがとうございますじゃなくてダメでしょそんなことしたら!」

「えーっ? トーマとダイゴなら大丈夫でしょー? ノエルとかリュウだとちょっと気が引けるけど……」



 ノエルで気が引けるなら、俺も冬馬も同じじゃないのかよ。とか思ってたら、冬馬がずいっと前に出て、レイアの腹筋を凝視し始める。それもかなり近めの距離で。



「大護の言う通り……確かに、かなり締まった良い筋肉してるなぁ。こういう筋肉は俺ぁ大好きだなぁ」



 レイアの腹筋から全く目を逸らさずに感想を述べる冬馬。だが良く考えて欲しい。ここは今通学路だ。……従って。



「おい……アカホシのやつ、白昼堂々女の子に服を捲らせてるぞ!」

「キャー変態よーっ!」

「あのやろう、なんてうらやまし……けしからん事を!」

「本当だ! ひっ捕らえて弟子に……先生に突き出してやろうぜ!」

「いいから早く行きなさいよ男子!!」

「「「「「サーイエッサーッ!!」」」」」

「おっ、遊ぶかお前らぁ! 学校までに俺を捕まえてご覧なさい!」



 言うや否や俺に自分の鞄を投げ渡し、男子生徒たちに追われて……寧ろ連れて、学校へと走って行く冬馬。相当手加減してるようで、男子生徒達がギリギリ追いつけない速度のバック走で走って行った。



 ちなみにこの光景自体は、リル先生に覗きが見つかった次の日位からたまに見かけるようになった。俺は勝手に『日曜日のエンディング』と呼んでいる。理由は察して欲しい。



 さらにちなみに、『日曜日のエンディング』の後は、冬馬に頭を下げる生徒(先輩を含む)や、師匠と呼んでくる生徒(先輩を含む)が増殖する。そろそろ親玉を捕らえないといけないのかもしれない。



 そんな事を考えつつ、今日も平和だと思っていたが、意外と登校時間が迫っていることに気が付いた。



「やばっ。急ごうぜレイア。達磨さんにしょっ引かれちまう」



 後ろにいるレイアへと声を掛けるが返事がない。おかしいなと思いながら振り向く。



「す、好きって……トーマが、ウチに……好きって……」



 小声でぼそぼそ言いながら顔を真っ赤にして、しおらしくなってるレイアがいた。



 平和な今日、最高に面白そうな事件が、現場で発生した。






 ◆  ◇  ◆






「なあレイア」

「んー? どしたのダイゴ?」

「冬馬の何処に惚れたんだ?」

「……へあっ!? ちょっ――ダイゴこっちっ!」



 昼時の食堂にて飯を食べ終わったタイミングでレイアに直球で聞いてみたら、とある特撮ヒーローみたいな声を出したレイアに腕を引っ張られて食堂の外へと連行された。



 食堂を外に出てそのまま学園の外へまで連行される俺。このまま体育館裏に連れ込まれて鉄拳制裁でもくらうのかと思っていたところで、校門前で止まる。



「よし、やっと気持ちが落ち着いてきた……で、何だっけダイゴ?」

「……いやだから、冬馬の何処に惚れ――」

「あっ! 授業が始まっちゃうや! お先に戻るねっ!」



 次は俺を置いてどこかへ移動しようとするレイア。そんなレイアの肩をワシッと掴んで止める。午後の授業が始まるまで、まだ二十分もあるじゃないかー。はっはっは、何処へ行こうというのかね?



「な、ナニカナーダイゴクン?」

「休み時間終了までこれではぐらかすつもりか知らんがそうは行かんぞ」



 レイアの体勢を変えて、俺と目が合うように向きを変える。今まで俺の事を何度も詰めてきた仕返しだ。一回ぐらいバチは当たらないだろう。



「さてレイア? 俺の質問に――」

「だだだダイゴくん!? レイアちゃんに何してるの!?」



 後ろから慌てふためく声が聞こえる。というよりこの声は……。



「アリアか、どうしてここに?」

「二人が、その……て、手を繋いで、食堂から出て行くのが見えて……その……」



 手を繋いで? あぁ。レイアに手を引かれる形だったから、遠目からみるとそう見えたのか。



「それで口元も拭かずに飛び出してきたのか」

「う、うん……口元? ……はわぁぁぁっ!」



 自分の口元を指で触って、ミートソースのようなものが取れたのを見てはわはわし始めるアリア。



「落ち着けアリア。ハンカチとか持ってるか?」

「あっ……。教室に置いてきちゃった……」



 またはわはわしそうだったから、はわはわタイムが始まる前にハンカチを渡す。



「一先ずこれで拭いたらどうだ? 男物で気になるんだったらごめんなんだけど」

「えっ!? う、ううん! 気になるなんてそんな事無いよっ。ありがとうダイゴくん」



 俺からハンカチを受取ったアリア。早速使うのかと思ってたけどなかなか使おうとしない。やっぱり気になるのかな。



 そのまま俺とハンカチを交互にチラチラと見始めた。……なんだか久しぶりに小動物に見えてきたな……。



「俺が拭いてあげようか?」

「ふえ――っ!?」



 ……ちょっと仰け反った状態で固まってしまった。ちょっとからかっただけなんだけど……なんかスゲー申し分けなくなってきたな……。



「えー、ハンカチはそのままあげるからさ、教室戻ろうぜ?」



 バツが悪くなり教室へ戻ろうとすると、制服の袖が引っ張られる。引っ張ったのは間違いなくアリアだったが、最初の時よりも顔を真っ赤にさせている。



「……い……ます……」

「ごめん、聞こえなかった。なんて?」

「お……おねがい……します……」



 えーっと「お願いします」ってもしかして……?



「く、口元……」



 ――自分が放った冗談に、足元を掬われる日が来るとは思いもしてなかったっ!



 ちゃんとアリアの要望にも応えて、拭いてるときの雰囲気にも堪えた。いつの間にか先に戻ってたレイアには、放課後に強めのデコピンを三発ほどくらわした。八つ当たり? うるへっ。



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