仮宿"精霊の涙"
歩いて五分ほど、あったよギルド。超あっさり発見だよギルド。"精霊の涙"だってギルド。ヤバイ、笑いが込み上げてくる。
「ギルド精霊の涙ぁ? なんだここ? 何か酒場みたいだけど……入ってみるか?」
「勿論だろ!? 入るさ! さぁ入ろうぜ我が友よ!」
「え? やだ、こんなテンションの大護と一緒に入りたくない」
何言ってんだバカちんがぁ! テンション上げてかないとギルドの奴らに負けちまうだろうよ!
テンションそのままで冬馬を引っ張って中に入る。さてさて、どんなことになってるのかな?
扉を開けて中に入ると、幾つか木製のテーブルと椅子が置いてあり、その一つに昼間だというのに酒を豪快に飲みながら、ばか騒ぎしているオッサンたちがいた。
キタキタキタァアアアアッ!
俺の表情を見た冬馬が、あっ期待通りだったんだね、本当によかった。お父さんは安心したとか言い出しそうな顔をしてたけどそんなことは知らない。
俺は次の展開を予想しつつ、期待しながらカウンター席に向かう。
「オイオイ! なんだなんだぁ? 坊主たちよぉ! 入るとこ間違えてんじゃねぇのかぁ!?」
「ガキんちょはお家に帰った方がいいぜぇ? ハッハッハッハッ!」
……もうね、予想通りの期待通り過ぎて感無量です俺は。
「なんだぁあのオッサンたち。あんなの無視してさっさと「昼間ッから酒何か飲んで仕事もしてない奴に言われることなんてないんですけどねぇ?」
冬馬の台詞を遮って、オッサンたちに挑発をいれる。心配すんな、全部予定通りに来てるんだから任せとけって。
「あ? 随分と威勢のいいガキだなテメェ。ちょっとお仕置きしてやらにゃあいかんなこれは」
オッサンたちの中で最も体格がいい、金の短髪オヤジがそう言いながら近寄ってくる。後ろの奴はそれを見ながらゲラゲラと笑っている。
「さぁて、おい坊主! 痛い目みたくなけりゃ謝っときな」
「お生憎だけど、単細胞バカと話すような話題を持ってないんでな」
「……ブッ殺す!」
そう言って金のオッサンが突っ込んできた。……と思ったんだけど……
うわ、やっぱりか。オッサンの動きがすげぇ遅く見える。本当に全ての能力が桁違いに上がってるなこれは。
多分本人は本気で俺目掛けて殴りかかろうとしてるんだけど、それが俺の目にはかなり遅く見える。まぁゆっくり歩いてきてるくらいのスピードかな。
俺は半歩分だけ右に体をずらして避ける。それと同時に左腕をオッサンの顔が来る場所に置いておく。
「ジャストミィイイイトッ!!」
俺のカウンターをモロに喰らったオッサンは、そのまま出入口まで吹っ飛んだ。って、俺力入れたつもりないんだけど。
「んなっ……っ!? アイツ何しやがったんだ!?」
「し、知らねぇよ、見えなかったんだから……」
後ろでゲラゲラと笑っていたオッサンズも狼狽え始めた。それより、俺の動き見えなかったって……ホントになんでもありになっちまったな俺の体。
「すげぇなぁ! 大護! 鮮やかな左ストレートだったぞ!」
「お前には見えてたんだな、やっぱり」
俺の言葉に冬馬は親指を立てて、勿論だろっとアピール。まぁ今はコイツの方が身体能力は上なんだし、余裕だっただろうに。
それよりも、これだけ騒いだのだから当然次の展開が──
「んぁあ? 何事だよ全く。人が気持ち良く寝てっときにって、うーわ、何か色々壊れてるし」
声の方を見てみると、茶色の髪をした、やる気の無さそうな男が降りてくる。さっきまで寝てたようで酷い寝癖がついてるけど、多分あの男の人が、
「ギッ、ギルドマスター!」
で、合ってたみたい。
「成る程、な。そいつはウチのギルド員が迷惑かけたな。すまねぇ」
「いえ、こちらこそ挑発紛いのことなんてしてしまってすみませんでした」
「すんませんッス」
今は事情を話すために、ギルドマスターの自室にお邪魔している。とりあえず、俺たちに罰やら何やらが与えられることは特になく、壊れた物などの修理費はギルド員に払わせるそうだ。いや、ほとんど俺が壊したも同然なんだけどね。
「ところで……えーっと、名前なんだっけ?」
「ダイゴです。ダイゴ=キリュウ」
「俺はトウマ=アカホシって言います」
俺たちのこの名前はミリアルに合わせるためにさっき付けた。まぁ名字と名前ひっくり返しただけでなんの捻りもないけどな。
「ダイゴにトウマな、今更だが俺の名はナック=リジャーナ。ギルド”精霊の涙“のギルドマスターをしている」
そういうとナックさんは軽く頭を下げる。一見するとちゃらんぽらんな感じに見えなくもないのに、やっぱりギルドのトップなんだなと感じさせるような風格の持ち主だ。
「それで本題なんだが、ウチのギルドにはどんなご用かな?」
…………うん。用なんてなかったよね。ただギルドが本当にあるかどうか確かめに来ただけだしさ。
「どうした? 大護、急に黙っちゃって」
そりゃ黙っちゃうよ、だってギルドに来た理由ないもん。いや、あることはあるけど、絶対にダメだろ、あるかどうか確認して笑いに来たとか言ったら。流石にナックさんもぶちギレるよ、打ち首ものだよ。帝とかホントにいたらとか言ってたんだぞ俺。
……いや、一か八かこれでいくか。
「いや、実は、その……本物の、帝……とか? いたら会いたいなぁなんて思って」
「成る程な、確かにウチのギルドには【冷酷─水帝】が在籍してはいるが、ギルドにいることはほとんどないからなぁ」
やっぱりいたよ! 帝いたよ!
「【冷酷─水帝】?」
「あぁ、戦いの時、敵に対しての一切の容赦、情けはかけずに徹底して仕事を全うする。その姿から付いたのが“冷酷─水帝”の名だ」
ふぅん、俺が思ってたよりも凝ってるんだな。まぁ厨二臭いけど。
「アイツがギルドに顔を出さないのは結構有名なんだがな、それを知らないで会いに来る奴は始めてだぞ」
ナックさんはそう言って笑いだす。笑いだしてくれてよかったよ、ここで異世界から来たんですーなんて言ったりしたら、確実にイタイ奴に思われてたし。てゆうか女神さん。何で知識はくれなかったんだよ。
「そうだ、お前たちこれからどうするとか決めてるのか?」
「まぁ一応は……ってとこッスかねぇ」
冬馬はそう返したが、実際のところホントにわずかにしか決まってない。魔法学校に行く。ただそれだけしか。
「そうだ、ナックさん、学校に通うにはどうしたらいいですかね?」
「学校? あぁ、メリト魔法学園のことか。簡単だよ、試験に合格すりゃいいんだ。んで、その試験ってのが実技試験か筆記試験」
それならよかった。無駄に色々あったりしたら面倒だったしな。大方筆記試験は地球の受験と大差ないやり方だろうし、実技試験は実力を認めさせれば大丈夫だろう。
「筆記は自信ねぇし、俺は実技で行こうかな。あ、合格条件って何スかね?」
「筆記なら点数六割以上、実技なら自分の戦いが出来ればほとんど大丈夫だ」
筆記は六割以上か、こっちの世界のテストがどんなもんか全くわからないし、俺も冬馬と同じく実技試験でいこう。
女神様に貰った力でごり押しすれば特に問題ないだろうけど、一応今日の夜に魔法の知識とかは頭に入れて、ちょっと練習でもしておこう。
「んーで、今月の編入試験当日が明日の朝十時からだな」
「早ッ!」
あったよ、問題あったよ一つだけ! とゆうか編入っていつでもできる訳じゃないのかよ!
「明日の試験を逃したら次は何時になるンスか?」
「次は来月だな」
ちょっとヤバイかもな。俺も冬馬もこっちに来てから戦闘らしい戦闘なんてしてないしってか、こっち来てまだ数時間しかたってないし。流石に焦るな。
「まぁお前たちなら大丈夫だろう! あんなバカでもウチのギルド員を打ち負かしてんだからよ」
「いや、それすらも俺は見てただけ何スけど」
「謙遜すんなって。今日一日はウチのギルド使っていいから、練習なり休憩なり好きにしてくれ。隣の部屋が空いてるからそこを使っていいからな」
「すみません、ありがとうございます」
ここは厚意を受け取ることにして、明日の試験に備えとく方が良さそうだな。とりあえず魔法のことが書いてある本とかあれば借りてみよう。
そう考えながら俺と冬馬はナックさんの部屋を出た。
「ったく、成り立てとはいえSランカーを魔法なしで倒してる奴が、謙遜なんかしてんじゃねーよ」