Let's party
「これからその話をする為に、皆には待ってもらっていたんだ。皆、そのままソファーへ座ってくれ」
言われるがままにソファーへ座る。野郎三兄弟が全員着席したところで、国王様とミーナママとミーナが揃って頭を下げる。
「今回は、ミーナを助けてくれて本当にありがとう。感謝してもしきれない」
「本当ね。みんなどうもありがとう」
「わわ! 頭を上げてください二人とも! もう十分過ぎるほどお礼は頂きましたので!」
「そうだぜパパさんママさん。俺に至っては到着した時にはすでに解決してたしなぁ」
「私なんて話を聞いたら終わってましたね」
「二人はちょっと頭下げてろ」
やっとの事で頭を上げてくれる三人。お礼でお腹が一杯になるわ。
「この後、娘が無事に帰ってきた祝として、ささやかながらパーティーを開こうと思っていてね。その為に娘にも服を着替えてもらったのさ」
本当にお腹一杯になるやつか……パーティー……楽しそうだな。
「でね、ミーナちゃんのクラスのお友達をもっと誘っちゃおうと思っててね」
皆でか、うん。楽しそうだ!
「すでにママから招待状が行っているのだ。いつもの皆といったクラスメイト諸君へ」
……早くないか? まあ善は急げって言うしいいのか。……いいのか?
「そして~さっきみんな到着したって連絡があってね~」
早すぎるだろうが! なんだよその展開! 行動力といい、みんなの返信といい早すぎるだろうが!!
「と言う訳で~……はい、三人も着替えて来てね~っ」
「「「はい?」」」
「ミーナのクラスメイト諸君、本日は娘のために来てくれてありがとう。今日は楽しんでいってくれたまえ! 乾杯!」
あちこちからガラスがぶつかる音が鳴る。 斯く言う俺も流れに身を任せて、みんなとグラスをカチャンコカチャンコ。
「つーか、みんなよく急な招待に対応できたな」
「んー、確かに急な王宮からの手紙にはどひゃーって感じだったけど、考えれば友達からのお呼ばれじゃん? もうびびゅって準備してきたよー! でも、何で急に来たんだろ?」
あー……と、返答に困ってると、食べ物にがっついていたノエルが反応する。
「ばんかぼぶおぶばばぼ、ぼぼいぶびびばびび……ぷはっ。ぞ? ほら、レドも食わないと大きくなれないぞー?」
「大きなお世話だよ。それにしても、国王様の思い付きだけでパーティーが開くなんて……やっぱりスゴいなぁ」
「えっと……レドくんが、今ノエルくんが言ったことを理解できた方が、すごいと思うんだけど……」
「人は順応しないといけない時があるんだよアリアさん」
「「「苦労してるね(な)」」」
「お前ら……揃いも揃って、オレを何だと思ってやがる」
……まあ、みんなが楽しめてるならよかった。
ミーナママ曰く、ミーナが無事に帰ってきた事を祝うパーティーという事は、みんなには伝えていないらしい。理由は聞いてないけど、たぶんミーナの事を想って、敢えて伝えなかったんじゃないかと思う。辛かった事をわざわざ思い出させる事はしなくていい……てな感じで。
ミーナの方を見る。今はレイアとアリア、そしてミーナママに囲まれて女子会と言われてもおかしくないような空気の中で、笑顔を浮かべながら談笑している。……やべ、今更疲れがドっと出てきた。今日は濃すぎる一日だったからなぁ。
初めて来た王宮で国王様と対峙して、本を読もうとしたのに、結果的に女神様から色々話を聞いて、そのままミーナと買い物に出かけて……あの騒動が起きて。
こんな内容、普通のラノベとか漫画だと数日から数週間に分けてもおかしくないだろ。何なんだよ俺の異世界召喚。テンプレだったり大きく外れてきたり、忙しい事この上ないぞ。
……考えてたら頭が痛くなってきたから、一度バルコニーに出て外の空気を浴びる事にしよう。
飲み物を片手にバルコニーに出て、手すりに寄りかかる様に空を見上げると、満点の星空が見える。地球にいた頃も星が綺麗に見える事は何回かあったけど、排気ガスとかそういうのが全くないミリアルだとより綺麗に見えるな。父さんの田舎に連れてってもらった時もこんな感じだったかな。
異世界に来れたって事で舞い上がってたけど……地球では俺と冬馬は、自殺した事になってるんだよな。……父さん、元気でやってるかな。どうにかして家族だけには俺たちが生きてるって事を伝えられたりしないかな。
――あー、色々考えすぎたから外の空気を浴びに来たのに、結局こっちでも色々考えちまってる……。家族の事を考えたからか、無性に父さんの作った料理が食いたくなってきた。ちなみに俺のお勧めはハンバーグ。これが旨いのなんのって。
「なぁにセンチメンタルになってんだよ大護ぉ」
「うぉ、っと。冬馬か。ちょっと地球と……家族の事を考えててな」
俺の言葉に「なるほどな」とだけ返して、俺の横に立つ冬馬。
「冬馬は考えたりしないのか? 地球の事とか、家族の事とか」
悩むような仕草を見せる冬馬。しかし数秒もしない内に仕草を解いて「別に考えなかったなぁ」と俺に言葉を返したが、「ただよ……」と続ける。
「今の状況を俺の親父とお袋が見たら『男なら成し遂げて来い』って言いそうな気がするんだよなぁ」
「……ふっ、確かに。お前の親父さんとお袋さんはそういう人たちだったな」
「だろ? だから俺ぁ、色々考えんのは後からでいいんじゃねえかなって思ってんだ。今は俺たちの出来る事をやってくだけだろ」
冬馬なりに吹っ切ってたんだな。親友の心強さに、若干気が楽になった俺は、そのまま自分の頬を強めに叩く。……もう少し弱くすれば良かった。
「よし、俺も吹っ切るか! 先ずはもっと力を旨く扱えるようにならないとな!」
「そうだなぁ、またいつ何があるかわからねえし――」
そこで間を取り、俺にニヤついた視線を向ける冬馬。
「しっかりミーナちゃんを守らないといけないしな?」
なんだ、そんな事か。いや、そんな事って言い方もなんかあれだけどさ。
「当たり前だろ? 今後ミーナを危険な目に合わせる訳にはいかない。――あの子は俺が守る」
言い切った後に冬馬を見る。……なんだね、その予想外の言葉が出てきたみたいなリアクション。
「予想外の言葉が出てきた」
そのまま言うんかい。俺も心が読めるようになって来たのかな? やったぜ。
「勿論他のみんなもばっちり守るぜ? 何なら冬馬、お前の事もな!」
「あぁ、そういう事か。……ホンット大護はこれだから……」
「なんだよ。どういう事だってばよ」
「いつか自分で分かるようになれよーぅ」とか言いながらバルコニーから部屋に戻っていく冬馬。
……ホントに何なんだよもう――
◆ ◇ ◆
「さってと、また飯を食い始めよう……ん?」
バルコニーから部屋に戻った冬馬だったが、バルコニーに行くための窓に設置されたカーテンの裏に、人影がある事に気が付く。何も考えることなくその人影の所へ移動して、カーテンの裏を覗き込む。
「そんなとこいねえで楽しもう……あちゃー、これはやっちまったやつだな……。もう少しそのままでいるか?」
その場にいたのは勿論見知った人物。その人物は頭を縦に振り肯定を示す。
「さっきの大護の発言を"途中まで"聞いてたっぽいな。……真実は黙っておくか」
相手に聞こえぬよう、小さく呟く冬馬。
――顔を真っ赤にして口元を隠すミーナから離れながら。
「ホント……ばかっ」
そう呟いた際に見えた口元は、小さく孤を描いていた。




