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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
面会の時
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笑顔の下の般若


 目を覚ますと知らない天井だったとかは無く、さっきの部屋のままだった。どうやら意識を失った後は、そのまま床に倒れてたみたいだ。……何だろう、後頭部の下に何かあるみたいだ……スゲー柔らかい。後頭部の下の物を確認する前に、首だけを横に向ける。冬馬が同じ様に床に倒れていた。冬馬の頭の下にもクッションがあった。



 少しモゾモゾ動いたと思ったら、どうやら冬馬にも意識が戻ったようで、俺とばっちり目が合……ったんだけど、何故か一回上に行ったな。



「おはよーさん冬馬。今回は俺の方が早く目覚めたみたいだな」

「あぁそうみてえだ。ただそんなコトはいいから一発殴らせちゃくれねえか?」

「何でだよ!? 殴りたいのはこっちだぞ! 俺が女神さま口説いてるとか言いやがって!」

「あっ……大護、ちょっとま……ひっ」



 なんだ? 急に冬馬が変な声を出し始めた。やめろよ気持ち悪い……。なんか下の枕?が動き始めた……?



「キリュウ君、女神様を口説いてたのね。心配して部屋にまで入ってきたのに」



 ……急に体感温度が下がる。そのまま俺の下の枕?が抜けて、頭を床へ強打する。痛みはあまり感じない。何故なら後ろからもっとヤバイ雰囲気が漂っているから。そして、ここに来てやっと、俺の頭の下にあったのが、枕は枕でも超特別な枕だった事に気が付く。



「なあ冬馬さん。もしかしてなんだけどさ、後ろに無表情のミーナさんがいたりとか……」

「何言ってんだよ大護。後ろどころか、さっきまで一番近くに居たじゃんかよ。特に頭の辺りが一番近かったし、だからこそ俺は一発殴りたかったけど……ここでさよならみたいだし、どうやら無理っぽいな」



 おっとっとー。そうすると後ろのこの強大な気配と、さっきの澄んでるけど心臓を一突きで貫けそうな声の持ち主は……。



「おっと大護。そう言えば今の質問。一箇所間違いがあった。――今のミーナちゃんの表情は笑顔だ」



 一番ダメなヤツじゃないのかな!?



「お話は済んだ? アカホシ君?」

「ハッ! 終了致しました! お時間頂きありがとうございます! わたくしはこれにて失礼致します!」



 ミーナに敬礼しながら女神様にも上手く使えなかった敬語をばっちり使って報告する冬馬。そのまま駆け足に部屋を出……ないで冬馬さん! 親友のピンチだよ!? カムバァァァック!!



「……さて、邪魔者も消えたわね」



 冬馬さんまさかの邪魔者扱い!!



 無慈悲な一言を言い放ったミーナさん。ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。美しい立ち姿から一歩一歩進むたび、ミーナ特有の綺麗な藍色の長髪が一定のリズムで揺れる。顔の綺麗さも相まって、その姿だけで思わず見とれてしまいそうになる。



 ミーナの顔が赤くなり、結んでいた口元が若干緩み始める。作戦通りだ、どんなもんでい。ただし鏡を見なくても、自分の顔色が分かるくらいに熱いけどな! これでミーナの怒りを少しでも緩和出来るなら安いも「そこまで考えてなかったら、今の作戦は上手く行ったかもしれないわね」やっちまったぜ俺のバカヤローッ!



 若干緩んでた口元が再度引き締まり、顔の赤らみも消えたミーナ。全てを悟った俺は、情けなく座っていた姿勢をただし、ばっちり完璧な正座にてミーナを待つ事に。時には諦めが肝心だ。



 正座する俺の前に、仁王の如き姿で立つミーナ。



「どうして女神様を口説くような……アナタの場合は、口説くように見えてしまう事をしたのかしら? と聞いた方がいいかしら?」



 偽ることなく、事実をミーナへ伝える。



 全てを聞いたミーナは「やっぱりね」と一言だけ呟くと、正座する俺に目線を合わせるようにしゃがみこむ。……あの、ちょっと近くないですか?



「どうせそんな事だと思ったわ。キリュウ君、誰彼構わず優しい言葉を使うから。聞き方がへたっぴなところがあるけどね」

「へたっぴって……」



 冷静に考えて、何でこんな状況になってるんだ? 別にミーナに何かあったわけでも無いだろうし……



 ――ペシッ



「痛っ」

「また色々考えてる。こっちをしっかり見なさい」



 ちょっと余所見をしていたらデコピンをくらった。額を擦りながら再びミーナを視線を合わせる。



「それじゃあ、心配を掛けたお詫びとして何かお願いを聞いて貰おうかしら」

「唐突だし何だよそのお詫び」

「女の子に心配を掛けたんだから当然の報いじゃないかしら?」



 俺の返しにちょっとむくれながら答えるミーナ。可愛い姿を見せたからといって屈する俺ではない。



「まあ……そうかもな」



 ただ今回も屈しないとは言っていない。



 微笑を浮かべたミーナが立ち上がり、俺に手を差し伸べる。



「じゃあキリュウ君。お買い物に行きましょうか」






 賑わうメリト王国商店街。祭りか何かと勘違いしそうになるほどの出店が連なっており、至る所から香しい匂いが飛んでくる。普段だったら歩いているだけで腹が減ってきそうな、そんな誘惑だらけの、学生には危険な道だ。



 料理以外にも様々な洋服やアクセサリーを扱っているようなお洒落な店なんかも並んでいて、同じ学生服を着た女の子達が、綺麗な店員さんとキャッハうふふな光景は見ているだけでお腹一杯になりそうな光景で、こっちはこっちで学生には危険な道だ。



「おっ、そこの若きカップル! 一本どうだい? サービスするぜ?」

「あ、あははー。それじゃあ一本ずつ貰おうかなー」

「毎度あり! ……あれ? お嬢ちゃんどこかで……」

「あ、ありがとうございましたーっ!」



 屋台のおっちゃんの言葉を聞く前に、お嬢ちゃんの手を引いて逃走し、そのまま街の小道に入る。近くに誰もいない事を確認する。



「何でそんなにこそこそするのかしら? もっと楽しんでのんびりと街を回りたいのにっ」

「にっ。じゃありません事よお嬢ちゃん。街の人に正体がバレたら大変な事になるのはわかってるでしょ?」

「私は大丈夫。だから安心しなさい」

「俺の身に危険があるのっ!」



 つばが広めの帽子を被り、伊達眼鏡を掛けているお嬢ちゃん……もといミーナ。街の人にミーナが来ている事が知られると大事になると判断した国王様の意向で、この変装としては赤点レベルであろう変装もどきをしている。……本人は完璧だと息巻いていたけど、これで完璧に変装できたと言えるのはアニメの世界だけである。帽子のつばで顔を隠せているから、ここまでは何とかなってるけどな。



 ちなみにその大事というのは、ミーナに話しかけようとして街の人が押し寄せてくる事ともう一つ。「ミーナちゃんが、護衛とパパ以外の男性と歩いている姿を見たら、親衛隊が抹殺に来るかもしれないから気を付けていってらっしゃ~い」という、俺とミーナ二人での外出を全力で止めようとした国王様の事を、ニコニコしながら足蹴りしていたミーナママからの忠告が原因だ。



 死因:友達と歩いてたから抹殺された。



 こんなんなったらホントに笑えない。死んでも死にきれないよ。冬馬の背後霊としてセカンドライフを送ってやる。


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