飛ばされました
世界の名は”ミリアル“。科学ではなく、魔法が栄えた星。
魔法は地水火風を基本とした四属性があり、誰でも使える属性魔法である。その他にも光、闇、氷など特殊属性と呼ばれる魔法がある。特殊とはあるが、あまり珍しいものでもなく、50人に1人は使えるものが現れる。
この二種類の魔法の他に存在するのが固有魔法。その名の通り本来人間一人一人に備わっている魔法だが、使える者は少ない。
固有魔法を使うには強い願いの力が必要だからだ。それも生半可なものではなく、強く、強く、心の奥底から願ったものにしか使えない。
守りの願いを極限まで強めれば守護魔法なるものが出現。
癒しの願いを極限まで強めれば回復魔法なるものが出現。
そして……その逆もまたしかり。
長い時間眠っている気がする。意識は戻っているのだけれど、体がまだ動いてくれない。俺はそんな状況になっている。目を開けたいのはあるのだがそれすらもできない。
一体今はどんな場所にいるのか、それを今すぐに見たい気持ちもあるけど……。今はこのまま静かにしていたいな。
耳だけに意識を傾けてみる。フワリと風が吹く感じと共に、草が擦れているような心地よい音が聞こえる。
ここは草原なのかな? とか考えていると、上の方から雀のような鳥の鳴き声が聞こえてくる。本当にのどかな場所のようだ。
そうして次に聞こえてきたのは、聞き覚えのある男の声。左上の方からだから、位置的には俺の左側頭部辺りで声を掛けているらしい。
「大護のやつ、気持ち良さそうに寝てるなぁ。今のうちに落書きでもしてやろうかコイツ……」
そんな声のあとにマジックの蓋を開けるような音が聞こえてきた。よし、冬馬もいつも通りだな。とりあえず俺もいつも通りに反撃しよう。
右に転がって場所を移し、ゆっくりと立ち上がる。オイオイ、どうしたんだよ冬馬さん。そんな怯えた目なんてしちゃってさァ。
「だっ、だだだだ大護!? 落ち着けって! 犯罪者の目になってるぞ!?」
「いやぁ、ねェ。なんか素敵なモーニングコールをしてもらえそうだったから、その仕返しをと思って」
「仕返しになってるから!? そこは嘘でもお返しって言えよ!」
冬馬さんが色々とうるさいが、とりあえず俺はいつも通りの感じで、ボディーに一撃!
の筈だったんだ。
「ウギャァアアアアッ!」
その悲鳴と共に冬馬が約30メートルほど"吹き飛んだ"。
……え?
いやいや、ちょっと待って、俺いつも通りやったよな? 何で冬馬があんなに吹き飛んでんだ?
「いってて……ってあれ? 派手に飛んだ割りにはあんま痛くねぇや」
「と、冬馬! 大丈夫か?」
「ん? あぁ、何ともねぇよ。だけど……何だ? 今の大護のパワーは」
そうなるよな。でも冬馬のこの打たれ強さと、俺の力を考えると……
「冬馬、軽く走ってみてもらえないか?」
「おぉわかった。それじゃあちょっくら……ってえぇ!?」
驚くのも無理はないだろう。アイツ今とんでもないスピードで駆け抜けていったしな。本人は軽く走ったつもりだったんだろうけど。でも、これで説明がつくな。
「冬馬、どうやら俺たちの身体能力はかなり上がってるらしい。完全に人間の域を越えてる」
「だなっ、でもっ、いいんじゃね!? ……ふぅ。こんなに自由に動けるんだし!」
まぁ確かにそうだな。でもこのスピード感には慣れておかないとな。って三段跳びやりながら人の話を聞くな。ヤッ、ワッ、フッフゥとか言うな、色々あるから。
……にしても、ここは”ミリアル“どの辺りなんだ? 一面が緑の絨毯が敷いてあるような草原。ちょっと遠くの方には木々が生い茂る森。そしてかなり遠くの方にあるのに目立っているあの城、イッツキャッスル。
見たところ近くに人はいないし、とりあえずここで色々と試しておいた方が良さそうだな。そう思った俺は冬馬を呼び寄せて、色々と実験してみることにした。
「まぁ、大体……こんな感じで、良いだろう……ふぅ」
「おぉ、そうだな。まぁ色々とわかったことだし!」
「つーか、何で……お前は、そんなに……元気なんだ、よ」
「何でだろうな? 地球じゃあ俺と大護の体力はほとんど同じだったのに」
今俺たちがやったのは地球の学校でやるスポーツテストの内容を少しと、あとは魔法と能力の試し打ちだ。
結果で言うなら、身体能力は冬馬の方が大分高い。んで、魔法関係は俺。多分それぞれの潜在能力的な? 感じでこうなったんじゃないかと勝手に整理しておく。
能力は……とりあえず俺は直径3cm程の次元空間を出したところで体が急激に重くなりやめた。そして冬馬はそんな俺を見てやるのをやめた。締め上げようかコイツ。
「まぁ一先ずの戦力はわかったことだし、これからどうする? 俺はあの城を目指すのが一番だと思うんだけど」
「だな。あれだけ目立つ城が建ってるんだし、何かしらの出会いがあるだろ!」
「そうだな、まぁ俺としては、早く学校とかに通えたらいいなとか思うんだけどな」
「お、所謂魔法学校とかだな。それなら俺も入りてぇなぁ」
そんな雑談をしながら、俺たちは城を目指して歩き出した。
本当に楽しみだ。一体どんな生活になるのだろう。あ、ギルドとかそういう鉄板の物はあるのか? あとは帝とか! 見たら笑い堪えられるかな、とか色々考えてたのは俺だけの秘密。
歩き続けて大体一時間くらいたった頃、城の次はデッカイ門が見えてきた。あの門を通れば到着なんだけど、何か門番みたいな人たちがいる。俺たち通れるかな?
「ようこそ、"メリト王国"へ。本日はどのようなご用で?」
「あーっと、旅をしていてちょっと備品を買いに来ました」
「そうですか。じゃあ今から開門しますから少々お待ちを」
あっさり通れたよ、大丈夫か?王国。そんな簡単に信じちゃって。別に騒ぎやら何やら起こすつもりもないけど。
「ど、どうも…」
さすがに冬馬も簡単には入れすぎて困惑気味なようだ。にしても、
「ここが王国……か」
日本とはまるで違う。道行くところに出店があり、そこで威勢のいい声でおっちゃんたちが商売している。道行く人たちの会話なども入り交じって、お祭り騒ぎのようにしか見えない。
「スッゲェなおい、なんか別世界に来たみてぇだよ」
「いや、ここ別世界だからな」
「んなことよりも! どうするよ? やっぱりあの城に行ってみっか?」
「それもいいかもしんないけど、アポなしで行ったところでどうせ門前払いされるのが落ちだろ。今は町の観光でもしておこう」
そう言って二人で歩き出す。門前払いも確かだろうけど、逆にうまくいっちゃったりしたら、ギルド探しとかできないしな! とゆうのがちょっと本音。