国王との対面
門前での一騒動はあったが、その後は滞りなく王宮へ入る事が出来た。カゲツさん曰く、この王宮の半径五キロ以内の場所では、王族の護衛が非常に強くなるらしい。
王族に指一本でも触れようものなら警備隊が飛んで駆けつけ、さっきの俺のように掴みかかるように見られる場合、どこからともなく群集たちが駆けつけるらしい。そしてそのまま群集たちの手によってボコボコにされ、最後には国外へ強制転移となるようだ。
今回はミーナ様がすぐに処理してくれたから何とか収まったけど、万が一ミーナ様の対応があと少しでも遅れてたら、ここは戦場となってたねーとか最高の笑顔で言い始めるカゲツさん。笑い事ではないと声高らかに言いたいよ!!
王宮の中は、アニメとかでよくある『ザ・お城』みたいな状態だった。レッドカーペットは勿論、高いんだろうなと思われる壺だったり銅像だったりが通路の脇に鎮座していて、一面ガラス張り。執事やメイドさんみたいなお手伝いさんも、何度もすれ違った。ただ、メイド服みたいなフリフリの格好ではなく、男性も女性も、全員燕尾服のような格好をしていた。残念。
王宮内を歩く事数分、一つの扉の前でミーナの足が止まる。素通りして来た複数の扉も、見るからに豪華な造りになっていたが、その中でも一際スゴ目の扉だ。明らかに『この先にお偉いさんが待ってるよ』みたいな存在感。
「それじゃあ開けるけど……キリュウ君。準備は出来てるかしら?」
昨日言ってた挨拶の言葉に関しての確認だろう問い掛けに、俺は大きく頷いて答える。
俺に軽く微笑みを返したミーナは、改めて扉へ向き直り、扉をノックする。
「お父様、ミーナです。お約束通り、彼の者たちをお連れしました」
ミーナの言葉の後に開き始める扉。開かれた扉の先には、横一列に並ぶ兵士、その奥には一人の女性が立っていた。
その女性の更に奥、少し段差のある場所に設置された椅子には、口元に髭を生やし、鋭い眼差しで俺たちを見る一人の男性が座っていた。
その姿や、身に纏っている煌びやかな服装から、その男性がミーナのお父さんであり、この国のトップである事が判断できた。
ミーナとカゲツさんの後ろをついて歩く俺と冬馬。ミーナのお父さん……国王様との距離が近付いたタイミングで、カゲツさんとリュウが方膝を地面に付いて頭を垂れる。俺と冬馬も慌てて同じ姿勢をとるが、国王様の隣に立つ女性によって止められた。
「あらあら~そんなに畏まらなくてもいいわよ。ミーナちゃんのお友達でしょ? 気楽にしてね」
かなりフランクに。
「あっ、はい。ありがとう……ございます」
言われた俺たちは姿勢を解く。カゲツさんは立場上の問題なのか、そのままの姿勢を保っている。
というよりあの女性は誰だ? ミーナと顔が似ているし親族の方だとは思うけど……。姉とかかな? まさかお母さんなんて事は無いよな? 若すぎるし。
「やだっ。娘と同い年の子にそんな風に見られるなんて嬉しいっ。考えてる通り、ミーナちゃんのお母さんですよ~」
「大護……お前ってヤツぁ……」
「おやおや」
「……」
「寄ってたかって俺の事を虐めやがってチクショウ! ミーナはせめて何か言ってくれ! 無言の眼差しが一番キツイ!!」
真剣にポーカーフェイスの練習をしようかと思っていたところで、国王様が兵士へ声を掛ける。
「兵士たちよ、下がれ」
反論の声は一切上がらず、兵士が扉から順に出て行く。見事なまでに統率された動きだ。かっちょいい。
兵士全員が出払ったところで、国王様が立ち上がる。
――その瞬間、身体に寒気が走る。
無意識に後ろへ跳び、国王様から距離を取る俺と冬馬。俺たちの様子をみて呆れるミーナと「あらあら」と言いながら微笑むミーナ母。
「国王様、彼等の腕前を拝見されたご感想は?」
「……素晴らしいな。ルルフィルと用心棒を代わってもらいたいくらいだ」
いつの間にか姿勢を解いたカゲツさんの問い掛けに答える国王様。国王様の言葉には答えず、やれやれといった様子で首を横に振るカゲツさん。
身体から寒気が消えたと思ったら、国王様が椅子から降りて、俺と冬馬の前に移動してくる。
「少々君たちの力を確認したく、年甲斐も無く手荒な真似をしてしまった。非礼を詫びよう」
俺たちに向けて頭を下げる国王様。急な事で状況整理が追いつかないけど、国のトップに頭を下げさせている事実に気が付き、慌てて止め――
「"クリスタロス"。『ハイレイン』」
――ようとしたら、ミーナの魔法によって拘束された。
……国王様が。
「お父様……。昨日言いましたよね? 迎えるのは私の友人なので、妙な真似はしないでください。と」
俺たちに言っている訳では無いのに、こっちまで萎縮しそうな怒気がミーナから溢れる。チラッと顔を確認……。あっダメだ。今のミーナの表情は見ちゃいけないやつだ。
「みみみみミーナちゃん!? お父さんはただミーナちゃんの事が心配で心配で……」
「あら? お父様は、私が信頼も向けていない異性を連れてくるとでも思われていたの?」
国王様の表情が歪む。
「お父様に信じていただけないなんて……悲しい」
国王様のお身体がくの字に折れるっ!
「そんなに信頼が無くなってしまうと――嫌いになってしまいそうです」
国王様の口から鮮血が迸るッ!!
「あらあら~相変わらず仲良しね~。さあさあご友人さん、こちらの部屋へどうぞ~。ルルフィル、お茶とお菓子の準備をする様に伝えてね」
「畏まりました。それでは二人とも行きましょう」
「「あっ、はい」」
どうやら日常茶飯事らしいこのやり取りは、俺たちもスルーさせてもらった方が良さそうだ。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだ。
「ミーナちゃん? 肘はそっちには曲がらな――」
扉を閉める時に不穏すぎる言葉が聞こえてきたような気がするけど、俺は何も聞いてないし聞こえなかったンダヨ?




