イベント開幕
「俺たちの世界で魔法は、架空の物として扱われている。まぁ、使える人間なんて存在しないって事だ。でも、そんな世界にも、実は魔力自体はあったみたいで、俺と冬馬は高い魔力を持ってたから、こっちの世界に呼ばれた。俺たちの故郷"地球"では、こういうのを"異世界召喚"って呼んでる。あくまでも作り話の中で、だけどな。……ここまで大丈夫かな?」
みんなのペースに合わせるため、一度ここで間を置く。こういうのは相手が分かるように説明しないと意味がないしな。
そのままみんなの顔を見てみる。状況を理解しようとしながら、思案顔を浮かべる者。まずは俺の話を聞こうと、ジッと目線を合わせる者。周りの様子を見ながら、困り顔を見せる者。
各々別のリアクションになっていることが伺えた。
「続きなんだけど……と言っても、その後はこっちでの話だけどな……。魔力の使い方を教えて貰ってから飛ばされた俺たちは数日間、"精霊の涙"でお世話になってから、メリト学園に入学したんだ。だからナックさんとも面識があったんだよ」
重要になりそうな部分を掻い摘んで話したような感じになったが、伝え漏れは恐らくない……筈だ。
話し終えてから部屋に静寂が流れる。反応が無い事に少し不安を抱きながら、恐る恐るみんなの顔を見てみる。
そこには、俺が考えていた反応とは随分違った動きを見せるみんながいた。
先ほどよりも深く思考に耽るリュウ。泣きそうな顔でこちらを見るアリア。微笑むノエル。そして目をキラッキラさせながら俺と冬馬を見つめるレイアとレド。この二人の反応はホントに想定してないから。つーか出来ない。
「スッゴイじゃん二人ともーっ! そんな事実があったなんてウチ感激だよーっ!」
「うんうん! もっと色々教えてよ! 二人の故郷のチキュウについてももっと知りたいっ!」
二人の反応に呆然としていると、軽く肩を叩かれる。ノエルが近くまで移動してきていたようだ。
「確かに衝撃は受けたけど、それで引き下がるような奴等じゃ無い事はわかるだろ? それともダイゴ的には、このままオレたちに一線を引いて欲しかったか?」
「――ば、っか。そんな訳ないだろうよ」
「だよなっ。知ってる」
悪戯が成功した悪ガキみたいな笑顔でそう言いながら、元の場所へ戻るノエル。そんなノエルと入れ替わるように俺に接近するのは涙を流すアリア……って、何で泣いている!?
「えーっとアリア? 何でそんなに泣いてるのかな?」
「ぐすっ……だっ、ダイゴくんと、トーマくんっ……。ふたりとも、たいへんだったんだねっ」
そう言いながら俺の胸に頭を押し付けるように再び泣き始める。
何この子、ちょーかわいい。大変だったなんて全く思ってなくて、寧ろ俺としては異世界召喚やっほぃってなってたけど、黙ってこの可愛い生物を愛でる事にする。冬馬とレイアとノエルが「ほほぉーう」とか言いながらこっちを見てたけど愛でるのが先と判断。
数分間愛でた後、ふと視線を変えると、リュウとミーナが何やら真剣な顔つきで話しているのが目に入った。
未だ泣いているアリアをレイアに預け、冬馬と一緒にリュウとミーナのところへ移動する。
「リュウ、ミーナ。二人とも小難しい顔してどうしたんだ? 俺の説明に何か疑問でもあったか?」
「いえ、そこに関しては既に消化済みですので問題有りません。フィアンマさんも既に周知の事実だったとの事ですし」
「そうね、大丈夫よ。……アナタ達の話をふまえて、ちょっと考えさせられる事が出てきたのよ」
「考えさせられる事? 俺の話があって出て来た事ってなると……まさかと思うけど、地球絡みとか言わないよな?」
俺の問い掛けに対して、首を横に振るミーナ。
「いいえ、流石にチキュウという単語は出てこないわ。ただ……"異界の者"という単語が出てくる物語があるのよ」
"異界の者"……。でも物語って言われるくらいだから、おかしい事は何も無さそうだけどな。
「アナタの考えもわかるのだけれど、それだけじゃないわ。……説明するよりも直接見た方が話が早いわね」
そう言いながら立ち上がるミーナ。
「キリュウ君、アカホシ君。それとフリューゲル君もちょっとここで待ってて。お父様に許可を貰ってくるから」
ん? 俺と冬馬はわかるけど、何でリュウまで? そう思いながらリュウの顔を確認すると、微笑みながら人差し指を口に当てて、所謂「シーっ」といったポーズをしながらウィンクをかましてくる。俺を誘惑しようとして何するつもりだコイツ。
「許可って……何の?」
「その物語を読む為の許可よ。現在その物語が書かれた本は、この世界に一冊しか無いの。だからメリト王国の王宮で厳重に保管されてるのよ」
一つの物語を綴った本を国で管理するってどんな状況!? あれか、この世界では本のコピーとは複製は中々出来ないから、本自体が高価になっているみたいなあれか。
「違うと思うぜ大護。それなら教科書もそもそも存在しないだろうしよぉ」
「うっ……。冬馬に正論で返された。もうダメだ、おしまいだ」
「その扱いは酷すぎない!?」
おっと。伝説の超戦闘民族を見た某星の王子様になってる場合じゃないな。
「何でその本はそんなに大切に扱われてるんだ?」
部屋から出る準備を整え終わって、すでに玄関へ向かっていたミーナに再度問いかける。
「正確には、大切に扱われている……と言うより、そうせざるを得ない状態っていうのが本当のところ。本自体に強い魔力が働いているから、王宮内での持ち運びはおろか、特定の部屋の中から出す事すら出来ないわ」
それはホントに本ですか? 最早生き物のような感じに聞こえてくるんだけど。物自体が魔力を持つなんて事有り得るのか?
「物自体に誰かが魔力を込めた直後であれば、その物自体から魔力が出ているかのような状態に見せる事は可能かと思います。まぁそれでも、ほんの数秒程度の現象になると思いますがね。その本のような例は今まで聞いた事がありません」
いつの間にか俺の後ろに立っていたリュウが、俺の考えに対してそう説明する。あれだな、そろそろ俺喋る必要なくなってきたな。
「その本の存在はすでに知れ渡っている事だけど、本の魔力に関しては、王族しか知らない事のはずなんだけどね。アナタはどこでその情報を掴んだのかしら、フリューゲル君?」
「ふふっ。さぁて、どうして知ったのでしょうかね」
少しの間お互い視線を合わせていたが、はぐらかすリュウに対して、これ以上の追求は無意味と悟ったミーナ。小さくため息をつきながら俺に向き直る。
「兎に角。私は今から自宅に戻って、お父様と話をしてくるわ。話が順調に進めば、明日にでも王宮に向かえる筈だから、それまでに準備は済ませておいて」
「分かったよ」
返事を聞いて部屋から出ようとするミーナ。でもそこで俺は大事な事を見落としていた事に気が付いた。
「ってあれ? 待ってミーナ。さっき本は"特定の部屋からも出せない"って言ったよな? その部屋って何処だ?」
俺の問い掛けに対して、振り向きながら妖艶に笑った(ように見えたのは俺だけだったみたい)ミーナ。
「ええ、言ったわ。そしてその部屋は、王国の"最高権力者の自室"。つまりお父様の自室よ。……と言う事でキリュウ君。お父様への挨拶の言葉、確り考えておいてね」
唐突に国王エンカウントイベントが幕を開けた瞬間であった。




