告白
「ゼルが黙ってた事があるぅ? どういう事だよ大護」
ゼルたちが帰った後、俺と冬馬は小走りで皆の元へ向かっていた。冬馬に聞いたら、皆と分かれてから三十分程の時間が経過しているらしい。そろそろ先生たちも動き出してきそうな予感がした俺たちは、急いで帰ろうとしたが、俺が不意に冬馬に伝えた言葉をきっかけに、少し速度を落として移動していた。
「あぁ、俺の予想ではあるけど、多分間違いないと思う。ゼルは俺たちに、力の使い方を教えに来たって言ってたよな?」
「確かに、んなこと言ってたなぁ。それがどう関係すんだよ?」
「それ自体は別にいいんだが、問題はどうして俺たちに力の使い方を教えようと……強くなってもらう必要があったのか、だ」
「なぁるほどな。言われりゃ確かにその通りだぜ。そしてその理由に関しては話していかなかったとなれば、わざと話さなかった、つまりは黙っていた事って訳かぁ。色々あって頭がぐちゃぐちゃだったから全く考え付かなかったぜ」
「え? 冬馬いつも通りじゃん?」
「うっわ、地味に傷つくヤツだこれ」
いつも通りのやり取りに若干の安心感を覚えていたら「まぁでも」と冬馬が続ける。
「あの場面で話さなかったってこたぁ、俺たちに何か動きがあればまた来るんじゃねェかアイツ等? もっと強くなるとかよ!」
「……はっ。そうかもな!」
この時はまだ忘れていたんだ。もう一つ重要な問題がある事を。
走ること約五分。皆の元に帰って来れた俺と冬馬。まだリュウは眠っているようで、その場にはいなかった。けど、他の皆の目を見て思い出す。
俺たちが"ミリアル"の人間じゃないって事を伝えなきゃいけないって事に。
「キリュウ君! アカホシ君!」
俺たちの姿を見て駆け寄ってきてくれたミーナ。いつものクールな表情は崩れて、俺たちへの安堵と不満が混ざり、なんとも表現し難い表情になっている。
「心配かけたなぁミーナちゃん。二人ともピンピンしてるぜ」
「そう、本当に良かった……。でも――」
言いかけた言葉を飲み込むように黙るミーナ。そのタイミングでアリアとレイアが前に出てくる。
アリアは俺の前におずおずとした様子で、レイアは冬馬の前にズカズカとそれぞれ歩み寄る。
「ダイゴくん……お、おかえりなさい。それで早速でごめんなさいなんだけど……」
「ああ、ちゃんと話す。でも一旦学園に戻ってからでもいいか? リュウも起きてからじゃないと二度手間にもなっちゃうしさ」
「あ……う、うん。そうだね」
「トーマ! "チキュージン"とかいう事について、ちゃーんとウチ達に話してよねっ!」
「あ、あぁ。わかってるよ。でもほら大護もああ言ってるしな? 一旦学園に戻って、リュウの回復を待とうぜぇ?」
「そんな事言って、逃げるつもりじゃないよね?」
「何で俺への信頼はそんなに薄いんだよぉ」
「日頃の行いの差だねっ、ふんだ」
「ま、待てよぉレイアぁ」
……あっちはあっちで大変そうだな。でもまぁ冬馬だし仕方ないか。俺の言った事は信頼してくれてるみたいだしまあいいか。
「話は済んだかァ!? それじゃぁ学園へ帰るぞォ!」
うおっ! 達磨さんまだいたのか! 急に喋るもんだからびっくりしたわ。
……いや、よく考えろ。あの人教師だから居て当然だよ。寧ろ救助はいらないとかいう生徒の言葉を大切にしてくれてたスゲーいい人……スゲー良い筋肉だよ。言い直した理由は俺にもわからない。
それよりも……みんなにはどうやって伝えれば一番分かりやすく伝わるか……。今から考えておかないとな。
オニごっこが終わり、そのまま学園へ戻った俺たち。保健室へ運ばれたリュウは、ミーナの予想通り、倒れてから三時間程度で意識を取り戻した。
その場で話し始めても問題なかった様子だったけど、放課後に落ち着いて話すことになった。
放課後まで時間は結構あるし、どう話していくかはじっくり考えようなんて思ってた俺だったけど、ああでもない、こうでもない。これは話した方が分かりやすいとか考えてるうちに気がついたら放課後を迎えていた。
楽しい時と、考え事をしている時って、あっという間に時間は過ぎ去っていくんだなぁ……。
教室で話すわけにもいかなかったから、俺の部屋に皆を呼んで話すことになった。
「さて、どこから話していけばいいかな」
「はい! じゃああの男の人が言ってた"チキュージン"ってのが分かる様にお願い」
俺の問いかけに対して、レイアがそう答える。
「そう、だな」
一息入れて、再度話しだす。
「そのためには、まず俺たちの正体から教える必要がある。それと……今から話す事は全部本当の事だから、そこは疑わないで聞いてほしい」
"正体"なんて言葉を使ったからか、それとも俺の言い方に何か感じるものがあったのか、部屋の雰囲気がガラリと変わる。
「まず、俺と冬馬は、この世界――"ミリアル"の人間じゃない。別の世界にある"地球"ってところから来たんだ」
この入り方が、間違いじゃない事を内心で強く祈りながら、そのまま話し続ける。