決着と真実と、
再度訪れる爆音。やっぱり視界は土煙で覆われてしまい、ゼルの姿を確認する事はできないけど、あんな満身創痍の状態だったんだ。……間違いなく――
「ふいー、あっぶねぇあぶねぇ。俺まで大護の魔法でくたばっちまうところだったわぁ」
聞こえてきたのは馴染み過ぎた男の声。驚きながらアイツが倒れてた場所を見る。
何も無い。さっきまであった肉体はおろか、血溜まりすらなくなっていた。となると、土煙の中に見えてきたあの人影は……。
「大丈夫だ大護。俺ぁ死んじゃいねぇからよ」
俺の"バリスタ"を両手で受け止めたのか、掌を真っ黒にしながら笑ってみせる冬馬の姿があった。
「えっ、とっ冬……馬だよ、な? お前、無事だったのか?」
「いーや、大護が起きた時は"間違いなく死んでた"さぁ。ついさっき目を覚ましたところだ。にしても……。俺がもう少し起きるのが遅かったら完全にやられてたなぁ――ゼル。いや、太郎さん」
「本名で呼ぶんじゃねェよ……。流石に死を覚悟したぜェ」
「……たろ兄ちゃん。……やっぱりこのやり方、悪質」
「しゃーねェだろ? このやり方が一番手っ取り早いんだよ。……つーか本名で呼ぶなってーの」
全く意味が分からない。冬馬の復活劇から今のやり取りに至るまで、何もかもが分からん。今の今までゼルの腕の中でダウンしてたリンまで普通に動いてるし。……夢なの? これは夢なの?
「いだだだだだァ! なぁにしてやがんだよ大護!?」
「痛がってるって事は……やっぱり夢じゃないっ!」
「夢じゃねぇし、やるんだとしても自分の身体でやってくれませんかね!? 耳が千切れそうなんですけどっ!!」
分かってたけど夢じゃないと判断した俺は冬馬の耳を開放する。ホントにどういう事? 急に色々起き過ぎてそろそろ頭がパンクしそうだし、ゼルへの怒りも吹き飛んだんだけど。……まあ、冬馬も生きてたしそれはいいか。
「……たろ兄ちゃん、そろそろ、説明」
ゼルの白衣の袖をクイクイ引っ張りながら話すリン……ちゃん。うん、リンちゃんだな。しっくりくる。
「だなァ。さてとだ桐生大護。赤星冬馬にはもうすでに話した事だが……。今回のオレ様たちの襲撃は、お前らの力を見る為のモンだ」
「俺たちの力だと?」
俺の問いかけで、ゼルは話を進めていく。
「まずオレ様たちの事だが、オレ様の名前はゼル。本名は佐藤太郎ってんだが……こっちは忘れろ。んで女の方がリン。本名は諸星りん。所謂幼馴染みたいなもんだ。今回オレ様たちがここに来たのは、さっきも言った通りテメェ等二人の力、まぁアガる言い方だと戦闘力を確認する為だ。因みにテメェ等の事は、試作品のオーガがやられた事で気が付いた。ここまでは良いか?」
「オッケーだ太郎」
「せめて敬称を付けやがれ……まぁいい続けんぞ。実際にやってみた最初の印象だと、テメェ等は魔力も能力も、チートになった自身の身体すらも使いこなせてねェって感じだった」
そんな俺にボロボロに負けたくせに何言ってんだ太郎ちゃん。
「ちゃかすな、"だった"って言ってんだろ。今では最低でも七~八割程度は使いこなせてると言ってもおかしくねェよ」
「七~八割? 十割には届いてないのか?」
「さぁな。もしかすると十割かもしれねェが……。マジな話、オレ様の力じゃ読みきれなかったんだよ」
「読みきれなかったって……なんでだ?」
質問攻めにする俺に疲れたのか、一息間を置いてからゼルは話を続ける。
「ハァ、それほどオレ様とテメェ等の差があるって事だろォが。ンな事言わせてねェで少しは察しろ」
「……たろ兄ちゃん、怒ってないで、続き」
冬馬に抱きかかえられたリンちゃんがゼルを急かす。
「わぁってるよ。……つっても、もうテメェ一人でもわかるだろ? 桐生大護」
俺を試す為にそう言ったのか、それとも説明するのが面倒になったのか……。絶対後者だわ。あくびしながら俺の返答待ちやがって。せめてニヒルに笑みを浮かべるくらいの事はしやがれ。
「要するに俺たちに力の使い方を教えに来たんだろ? 一回爆発させれば、その後は俺らだけでも訓練できると踏んで」
「ピンポーン、大正解。かなり荒治療になるが、その分効果は絶大だっただろ?」
「間違いなく絶大だったよ。ホントにお前をやるところだったしな。……というか冬馬の復活劇はどうやったんだよ?」
ニヤッと笑ったゼルが白衣の懐から小瓶を取り出す。中身は殆ど入ってないけど、危ない色をした液体らしいものが入っていた。
「オレ様が作った回復薬。体力は勿論、枯渇した魔力さえも最大値まで回復する。欠点として、短けりゃ数分、長けりゃ数時間、完全にランダムな時間で、仮死状態になる。そして一回体内の血液が噴出するからグロい」
「なんでそんな意味不明なデメリット!?」
「体力回復はともかく、魔力ってのは、全身に血液を巡らせる事によって徐々に回復していくんだ。それを強制的にやらせるようなモンだからなァ、勢い余って若干飛び出ちまうんだよ。飛び出た血液も、後から体内に吸収されるから貧血にはなんねェし、薬の効果で清潔な状態を保ててるから身体に害もねェ。ンな目くじら立てんな。ここまで抑えるのも一苦労だったんだぞ」
「それが完成するまでのデメリットはなんだった……いやいい。全ッッッ然良い予感がしないから話さなくていい! だから満面の笑みで近寄って来るんじゃねェ!」
ゼルとの会話は危険極まりないと判明した瞬間だった。
「まぁ兎に角だ。テメェ等の力はほぼ安定したようなもんだし、オレ様たちじゃァすでに手に負えない状態になってるからよ、今後はテメェ等でどうにかしていけや」
話は終わりだというように立ち上がり一伸びしたゼルは、そのまま白衣のポケットに手を突っ込んでリンちゃんの元へ移動する。
冬馬に抱きかかえられてたリンちゃんは、ゼルが近づいてくる様子をみて、冬馬の腕の中から飛び降りる。……って待て。自然すぎてスルーしてたけど、何で冬馬がリンちゃんを抱っこしてんだよ。
「……とうま、だいご、ばいばい」
「ああ、ばいばい」
「次は普通に遊びに来いよなぁ」
兄……いや、最早父親の気持ちでリンちゃんの頭を撫でる。ゼルがいなくなったら俺がこの子を引き取ろう。
「そンじゃぁな、テメェ等。因みにリンはお前等と同じ十八だからな桐生大護。父親にはなれねェと思うぞ」
「「もっとマシな嘘付けよたろ兄ちゃん」」
「テメェ等……いつか潰す」
太郎め、テキトーな事言いやがって。とか思ってたらリンちゃんがトテテと戻ってきて、俺と冬馬を見上げる。見ろよこの愛くるしい姿を。どう考えても同級生なわけ――
「……ほんと、だよ? ……りんは、今年で十八歳」
愛おしいブイサインと共に、今日一のどデカイ爆弾をもらった。そんな気持ちにさせられる発言だった。
◆ ◇ ◆
「……ゼル、"あの話"は、しなくて良かったの?」
大護たちと分かれた後、リンは心配するようにゼルに尋ねる。ゼルと、先程仲良くなった二人を頭に思い浮かべて。
「まだ早ェ。まずはテメェ等自身で気が付いてからだ」
ゼルの答えにリンは俯き、表情に陰りを落とす。そんなリンの頭にゼルは手を置き、そのままくしゃくしゃと撫でる。「んむぅ」と潰れた声が聞こえるが、お構い無しに続ける。
リンの栗色のショートカットが乱れに乱れるまで撫で回したゼルは、ポケットから飴を取り出し、自分の口へ放り込む。
「ンな辛気臭ェツラすんな。ちゃんとヒントは残してきた。こっちはこっちで出来る事をやっていきぁいいんだよ」
「……たろ兄ちゃん。……りんにも、飴」
「ほらよ」
――第一の問題は解決した。
――ここからの事に関しては、まずはオレ様たち次第だ。




