無慈悲な一撃
「……黒髪は、対した事無い。……ちょっと強い、一般人程度」
「あぁ、魔力特化だろうからな。肉体特化のお前とじゃァ相性が悪ィんだろうよ。……さて、と。どっちから先に――」
――急激な悪寒。噴出す冷や汗。今すぐにこの場を離れないと殺されるような強烈なものだった。ゼルもリンも発信源は瞬時に理解した。
「よぉ、テメェら」
それは、ふらりと立ち上がった一人の男からのモノだった。
ゼルは思考する。
――この力は本物だと。
ゼルは思考する。
――やはり"コイツ等"に託すべきであると。
ゼルは思考する。
「お前さん、名前は? "本名"の方を教えてくれや」
「……赤星、冬馬」
ゼルの顔色が変わる。
「ひょっとして、黒髪の方は"桐生大護"か?」
力無く頷く冬馬。――なる程道理で。そう考えるがそれ以上の思考は止める。
「赤星冬馬、テメェには――」
◆ ◇ ◆
不意に目が覚める。……というよりも、俺は一体どのぐらい気絶してたんだ? 奴等は? 冬馬はどうなった?
気絶したお陰……と言って良いのか複雑だけど、少しは身体が言う事を聞く位には回復している。相当な時間気絶してしまっていたのかもしれない。なんて、考えながら顔をあげた。
――血溜まりにうつ伏せで倒れる冬馬の姿が目の前にあった。
「――ぇ、っ?」
――理解できない。――理解したくない。――あの血の量だと。――んなわけあるかよ。――普通の人間なら。――やめろやめろやめろっ!――もう既に。――こんな事考えるな。――冬馬は。――嘘だと言ってくれ。
――死……?
「……だ……そだ……嘘だァッ!!」
気がついたら冬馬の直ぐ近くに移動していた。さっきまで虫の息で、這いずってやっと動けるくらいだったくせに、何でこんなに動けているのか。そんな事は考えなかったし、考えられもしなかった。
「やァっと起きやがったかァ、待ちくたびれたぜ……。お前さんがあんまりにも眠ってやがるからよォ――お仲間、死んじまったぜ?」
作り出した雷刀がリンの腕とぶつかる。
「おいおいマジかよ……。今のは魔法特化の奴の動きじゃァなかったぞ。リンがいなかったら、オレ様はくたばってたな」
「――っ。……たろ兄ちゃん、離れて。……リンでも、もう、もたな――」
俺の力が勝り、リンを吹き飛ばす。その勢いに押されたゼルの奴も、巻き込まれる形で後方へ。
そのまま追撃を加えて、ゼルを殺してやるのもよかったけど、距離を詰めて戦うのは俺の形じゃないから、その場で魔法を生成する。
イメージは弓。それもかなり大型の。
奴の存在を間違いなく消し飛ばせるように。
「"バリスタ"」
身体に雷を纏わせつつ、弓が落ちないように自分の身体と密着する形で弓を生成。本来のバリスタは確か据え置き型の物だったな。なんて事を思いながら構える。そのまま雷の矢を作り上げ、まだ体勢の整っていない二人に向けて放つ。
「消し飛べ」
自分でも恐ろしいと思うような、腹の底から出てきた無慈悲な一言と共に。
響き渡る爆音。莫大な量の雷属性を含んだ"バリスタ"が着弾した事による影響か。そこまで想定してなかった。威力重視のぶっつけ本番の魔法はやっぱりダメだな。その後の事がまったく想定できない。現に今、雷の影響を受けて、視界が土煙で閉ざされてしまった。
これじゃあゼルの奴が死んだかを確認出来ない。
「今のは……かなり、やばかったぜ」
ほらみろ。やっぱり生きてやがった。リンもゼルの腕の中でぐったりとしているが、生きてるだろう。恐らく自分の全魔力を防御に回したのか、それとも何らかの"能力"を使ったのか。まぁ、すでに肩で息をしているような、虫の息状態だけどな。
「よく防げたな、とか言ってやろうか?」
「ケッ。いらねェよ、ンな心のねェ賛辞なんざ」
「だろうな」
もう一度"バリスタ"を撃つため、雷を身体に纏わせる。あれだけの魔法を使ったのに、魔力にはまだまだ余裕がある。潜在能力でも開放されたのか? 冬馬が殺さ――いや、考えるのはヤメだ。
――次の一撃で、確実に殺す。
「お……い、まだ"それ"を撃てんのかよ」
「あぁ。少なくともあと数十発は撃てると思うけどな」
驚愕と絶望で表情を歪めるゼル。
「映画とかだと『こんな事をしてもー』とか言ってくる役の人とかも居ると思う。実際俺もそう思いながら見てたもんだ……。でもやっぱり、ダチがやられて黙ってるなんて無理だ。こうでもしないと……俺自身が、もたない」
冷静にこんな事を話しながらゼルへの殺意をむき出しにしている自分に恐怖を覚える。俺ってこんな風になれるんだな。寧ろ映画とかの犯人も、こんな感じになった人間を題材にしてたりして。そうだとしたら俺はこの後逮捕か、そのまま別の奴に殺されるか、そんな役に落ち着くのかな。
なんて事を思いながら弓を引く。生成される雷の矢。間違いなく当てるためにゼルの腹部に狙いを定める。
「まっ、待ちやが――」
そんな声を聞く余裕は、すでにない。
「あばよ」
ゼルの声を聞くことなく、俺は矢を放つ。
――奴の存在を、確実に葬り去る為に。




