鬼との遭遇
それは空中だ。二人同時に上空へ飛び上がる。そのまま木の枝に掴まり、最初と同じ様にターザン宜しくな感じで逃走を図ろうとしたが、流石にそう上手くはいかない。
「逃がしません! "ファイアランス"!」
「いっくよー! "アクアランス"!」
「"ウィンドランス"! えいっ!」
リュウとレイアとアリアの攻撃魔法が俺と冬馬目掛けて飛んでくる。とっさに冬馬を盾に「えっ、ちょっ大護サン!?」して身を守る。冬馬に当たった魔法は音を立てながら消えていく。だが冬馬には怪我らしい怪我は一切無い。
魔法を回避し、何とか木の枝を掴もうとした俺たちだったが、今の衝撃を受けて木の枝が折れてしまっていた。くそぅ、ターザン逃走は図れないようだ。
しかし、魔法を受けた勢いを使って、オニたちからは多少離れた位置に着地する。着地とほぼ同時のタイミングで、俺にはノエルが、冬馬にはレドがそれぞれ接近している。
オニごっこだから触られるのも避けたほうが良いと判断した俺は、バック転の要領で後方へ跳び、ノエルの攻撃を避けることに成功する。
そのまま冬馬の方へ少し視線を向けると……。アイツあえてレドに張り付いて攻撃をよけ続けてやがった。うわー、やなやつー。
「やっ! てやっ! はぁっ!」
「ほい、ほい、ほいっとぉ! どうしたどうしたぁ!? 一撃も当たってねぇぞレドォ!」
「く──っそぉ!!」
冬馬の態度に嫌気が差したような様子のレド。その途端、フェイントを織り混ぜながらだった攻撃が単調になる。
単調になった攻撃が幾度か続き、ついにレドの攻撃が大振りとなったその時。
「そらきた! 大振りッ!」
冬馬のカウンターの右拳がレドの顔目前まで迫り、当たる寸前で止まる。しかしその勢いは消しきれず、レドの髪を一撫でした後、風となって後方へ流れた。
体重の軽いレドもその勢いに負けて吹っ飛ぶが、それよりも早くレドに追い付いた冬馬が、レドを受け止める。
「にっしし、今回は俺の勝ちだなぁ! またやろうぜレドォ!」
冬馬の言葉を、まさに"ポカン"といった表情で受けとるレド。小さく「ぷっ」と吹き出したと思ったら、そのまま大きく笑い始めた。
一通り笑った後、冬馬に満面の笑顔を向けるレド。
「あーもう! トーマには敵わないなー! うん、またやろうねっ!」
……レドが女の子だったら、俺はノックアウトされていたかもしれない。見てみろ、正面でくらった冬馬なんて可愛さのあまりたじたじしてやがる。
「そこまでェェェッ!! オニごっこ終了だァァァッ!!」
レドの可愛さが溢れたところでオニごっこ終了の合図が鳴り響く。
「おっ! 今終了って言ったよなぁ? よっしゃあ! 俺と大護は無事に逃げ切り成功だなぁ!」
「ふふっ、おめでとうございます。しかし……トウマ君は果たして成功と言えるのですかね? レド君の顔をご覧ください」
「レドの顔ぉ? そんなん確認しても何も変わらな……いっ!?」
俺も釣られてレドの顔を見てみると、いつの間にか鼻血が出ていた。
「冬馬お前っ、嫁入り前の体になんて事をしてやがるんでい!」
「ちょっとダイゴ、僕は男だよ! 僕の顔に何が付いてるって……。あっ、鼻血か」
自分の顔を拭ってようやく鼻血に気が付いた様子のレド。
「その通り。恐らくトウマ君のカウンターの風圧によるものかと思われます。確かに実際にトウマ君の攻撃は当たってなかったかもしれませんが……。ふふっ、どうなりますかね」
リュウが黒い笑みを浮かべて冬馬にそう囁く。冬馬の顔がみるみる内に青ざめていくのが分かる。
「いいよリュウ。鼻血に関してはボクが転んだって事にしておくから。こんな形でトウマを負かしても意味ないしさ」
青ざめていた冬馬の顔に一気に生気が戻る。
「レド……お前ってほんっとにいいやつだなぁ!!」
「うわわっ! は、離してよぉ~!」
感極まった冬馬がレドに抱きつき、頭を撫で繰り回す。こう、ワシャワシャーって感じ。そんな冬馬を振り払おうとするレドだが、体格差故か一向に振りほどけ……心なしかレドが嬉しそうにしているような気がするのは……。いや、考えるな俺。仮にそうだとしても温かく見守るんだ。
「なぁダイゴさんや、心なしかレドが嬉しそうにしてるのは気のせいだろうか」
「やめろ、俺は温かく見守ると決めたんだよノエルさんや。恋愛は自由なんだぜ?」
「と、止めなくていいのかなぁ……」
「良いんだよアリア。二人の幸せを俺たちに止める権利は無いんだから。好きなだけ抱き合ってればいいんだ」
「す、好きなだけって……。はわわわわっ」
「ちょ、ダイゴー! ウチのアリアに変な事教えないでよねーっ!」
「誰か止めてよー! ボク一人じゃ抜けられないぃーっ!」
レドの悲痛な声が響き渡るが、俺たちは見守る事に徹する。大丈夫だぜレド。どんなお前になっても、俺たちは味方だからなっ。
「……やれやれ、この騒ぎはどうやって収束させればいいんでしょうかねぇ」
「オレ様が止めてやろうか?」
「是非お願いしま……えっ?」
珍しくリュウの戸惑う声が聞こえたから目を向ける。
口から血を吐き、地面に倒れ込んでいくリュウの姿が目に入った。
「よぉ、会いたかったぜぇ! "地球人"ッ!」