飛ばされますね
一通り騒いだ後に冬馬を軽く殴り、一応冷静さを取り戻した俺は、女神様の話の続きを聞いた。
俺たちが向かう“ミリアル”とゆう世界は、先程聞いた通り、魔法が存在してる世界らしい。それにテンプレ通り魔物などもいて、各々が武器の所持もしているとゆうワクワク感。
「それよりも女神さん、なんで俺たち二人が異世界とやらに行かなきゃいけないのさ?」
武器なら刀がいいなぁとか思ってると、隣で冬馬がそう質問した。そこは俺も少し気になっていたところだ。
「……それは貴方たちお二人が、地球人の中で最も優れた魔力質をお持ちだったからです」
「地球にも魔力なんてあるのかよ!?」
「はい。ですが地球人では魔力を使用するのは愚か、感じることさえ出来ません」
「そうなのかぁ。何だか損した気分だぜ。だとしても───」
俺はここまで聞いて一旦思考に更ける。まぁ地球人が魔力を感知できないのは仕方がなかったとして、女神様のさっきの様子を思い出す。
俺たちが選ばれた理由を言うのに、一瞬だけ戸惑わなかったか? なんかほんの少しだけ変な間があったとゆうか……
考えても仕方のないことだし、本人にまた聞いてみればいいのかもしれないけど、まぁあの様子では教えてはくれないだろう。異世界に行けるだけでも夢のような話だし、気にしないでおこう。
……あぁそうだ、夢で思い出した。
「話の途中ですみませんが女神様、ひとつ気になることがあるんですけどいいですか?」
「あっ、はい。何でしょうか?」
「オイオイ大護スリーサイズ聞くのは早いんじゃ……あ、ごめん。何も言わないから拳をといて。信じらんないくらい筋出てるし」
ホントにテメェはそればっかりだな! 女神様スゴく微笑んでるけど!
「んで、えぇっと、俺ここで気絶してるときに、変にリアリティのある夢を見たんですけど、あれは何ですか?」
「ん! そういや俺も見たぞ! なんか俺たちが自殺したとかの話になってたけど……」
冬馬も同じものを見たとなると、あれは俺たち二人に見せたものになるな。
「あれはお二人がここに来た次の日の地球の様子を流しました。やはりあのあとどうなっているのか気になっていると思いましたので」
成る程、そういうことだったのか。
「でもよぉ女神さん、俺たちより先に女の子が一人いたじゃないッスか。あの子の事とかはどうなってんです? それに自殺ってのも……」
「あの少女は、先程の光の少女と同じように私が創りました。自殺となっているのは、現場にいた方々の記憶を書き換えしたからです。……本当にすみません、勝手なことばかりですね」
そう言うと女神様は自嘲気味に笑う。過ぎたことはしょうがない。父さんが心配するかもしれないが、もうどうしようもないだろう。
冬馬を見るに、アイツも同じようなことを考えてたみたいだし。
それよりも冬馬、お前敬語下手過ぎだろ。
「質問はもう大丈夫ですか? それなら今から貴方たちに力を渡したいと思います」
「待ってました女神様! そういうのホントにあってひと安心です!」
「大護流石に煩いぞ?」
何を言うか! こんな ビックイベント普通は経験できないんだからテンション上がったって仕方のないことだろぅ!?
「そ、それじゃあまず力を渡す前に、魔力を解放しますので後ろを向いていてください」
俺は速攻で後ろを向く。今の俺の顔、最高に輝いてるよ絶対。
「んっ……オォ」
「おー。なんか血行がよくなったような感覚だ」
確かに、冬馬の言う通り血の流れが良くなって、身体中に駆け巡っているような感じだな。
「それがお二人の“魔力”です。因みに、冬馬さんは同い年の方の約十倍前後、大護さんは約十五倍前後多いですね」
「マジかよ!? 大護スゲェなお前!」
「これが……魔力……魔力……」
「ダメだ。感動しすぎて何を言っても耳に入らなくなってるわ。女神さん続けましょう」
「ホントに不思議な方ですね……それじゃあ次はお二人に“能力”を渡したいと思います」
「よし来た!」
「あ、お帰り大護」
何言ってるんだ? コイツは。俺はずっとここにいたじゃないか。……でも今はそんなことより!
「女神様! 能力って要するに、魔法以外に人間が持てる力ですよね!?」
「え!? えぇ、そうです。魔力の消費なしに使える力です。ただ、ミリアルには”能力“を使えるものはいません。希望などがありましたら可能な限りは好きなものをお付けしますよ」
何ですと! それなら俺はどうしようか? 絶対防御の空間を創るとかも身を守れて安全だろうし、でもやはり攻撃は最大の防御だから、瞬間移動とかでも! でもどうせ転移とかあるだろうからなぁ。
……となるとやっぱり俺は!
「女神様! 俺はそ「じゃあ"創造"の能力って大丈夫っすかね!?」
何ですとぉおおおおお!?
「はい、使用するのに代償は必要ですが可能です」
「よっし! じゃあ俺はそれでオナシャス!」
「かしこまりました。大護さんはどうです? 決まりましたか?」
ま、マジかコイツ……俺の欲しかった能力持っていきやがった……仕方ない、被るのも何か嫌だし、何か別なやつを。
「あ、じゃあ"時"を操る能力とかできたりしますか?」
「すみません、流石に私達と同じ力を与えることは不可能なんです」
だよなぁ、流石にその規模だとダメだよなぁ。となると他には……
「じゃあ"次元"の能力とかっては……」
「それだと小さな力を使うにも代償が必要になってきますが可能ですよ」
じゃあそれで決まりだな。それよりも気になった言葉があるから聞いておかないとな。冬馬の方にもあったし。
「女神様、先程から言っている代償とは?」
俺がそう聞くと女神様は答えてくれた。何でも大きすぎる能力は、まず持つことが不可能になるらしい。しかし、俺の“次元”や冬馬の“創造”など、大きくても使える能力もある。その能力を使用するのに、それに伴った代償が必要になるらしい。
しかも、代償を大きくすればするほど強い能力を使用できる。俺の場合だと、自分の命を捧げれば、世界の1割弱くらいなら、次元で飲み込めるらしい。
まぁ修行すれば少しずつだが、能力も強まり、代償が小さくても大きな力を発揮できるようになるみたいだから頑張ろう。
「これで私がお二人に出来ることは全て終わりました。あとはミリアルへと転移させるだけですが……心の準備はよろしいですか?」
俺たちはほぼ同時に強く頷く。こちとら地球にいたときから覚悟が決まってたんだ。今更深呼吸やら何やらは必要ない。
「では……」
女神様が一呼吸置くと、俺たちの体がまばゆい光に包まれ始める。ついに異世界に飛ぶ……いや、飛ばされるんだな……
どんな世界なのか、どんな出会いがあるのか、全く予想がつかない。ホントに命を掛けなければいけない戦いがあったりするのか? 俺はその時に戦えるのか? 命を懸けた戦いをすることができるのか?
……いや、よそう。考えたって何も始まらない。やるしかないんだからな。
「それと、向こうに着いてからの言語等の問題は心配しないで下さい。私の力で何とかしておきますので」
決心して、女神様から最後の助言に深く頷くと同時に、俺の意識はなくなった。
◆ ◇ ◆
「ごめんなさい、"運命の子"たち」
女神がそう呟くと、体から光の粒子が溢れだす。
「どうか……どうかその運命に……負けないで下さい」
そう言い残し光の粒子と共に天へと昇った。
女神の最後の呟きを聞いたものは、誰もいない。