逃走中
おっす、俺冬馬。絶賛大護と共に逃走中。逃げ切っても賞金は出ねぇのが悔やまれるところだぜ。
なんでこんな事になってるかってーと……。おっと! 今回は覗き関連の事ではないんだなこれが。そうだった場合はノエルもこっち側になる筈だが、今は奴もハンター側になっている。見誤った諸君、残念だったなぁ!
まぁそんな事はさておいてだ。こんな事になってる理由を説明するとだなぁ――
◆ ◇ ◆
「よォォォし! 今日の授業は"オニごっこ"を行う!」
そう切り出したのは戦闘授業担当の達磨さんである。相変わらずムッキムキな人だ。というかオニごっこ……。こっちにもあったんだな。あ、大護です。……って俺は誰に自己紹介をしたんだ。
「ルールは簡単! 制限時間内に特定の人物を捕まえる、ただそれだけだァ! 武器の使用は禁止だが、相手が死なない程度の魔法はいくらでも使ってよし! ただし、魔力切れになった者はその時点で脱落とみなす! オニは捕まえたら俺が指定したエリアまで逃走者を連れてくる! 以上だァァァ! 何か質問が有る奴は挙手!」
「センセー声がうるさいです」
「すまない! だが、これが俺のスタイルだァ! 他に何か有る奴はいるかァァ!」
俺のスタイルで済まされちゃった生徒に謝れ。いや最初に謝ってたわ。
ルールを聞く限り、"オニごっこ"というより、荒っぽいドロケイって思った方がよさそうだな。そう言えば小学生の時に"ドロケイ"なのか"ケイドロ"なのかって会議が行われたっけ。結果的には"通じればオッケィ"ってなったけど。
「オニは誰がやるのでしょうか」
手を上げてそう言ったのはミーナだった。確かに"オニごっこ"なんだからオニが決まってないと駄目だわな。
「良い質問だァ! オニは戦闘授業成績優秀者が選ばれ、本人たちに確認した後に決定する! 誰も首を縦に振らない場合には俺を含めた教員に協力してもらう!」
他の先生まで引っ張ってくるのかよ。いいのか、オニごっこにそんな時間掛けてて。
「そんな訳でェ! オニ候補生は……。お前たちだァァァ!!」
指を空に向けながら叫ぶ達磨さん。釣られて上を見ると、空に名前が出ている。待って。オニを知る前にこの演出の意味を知りたいのは俺だけかな。
空にはこんな名前が浮かんでいた。
『ダイゴ=キリュウ、トウマ=アカホシ、ミーナ=フィアンマ、ノエル=カリエンテ、レイア=メティオール、レド=アルフォート、アリア=エクリアル、リュウ=フリューゲル』
……ってまんま対抗戦のメンバーかよ! いや確かに戦闘授業の成績ってところで判断すると妥当なのかもしれないけどさ。
でもオニごっこかぁ。中学時代に、昼休みに男八人で全力でやってたのが最後だなぁ。……割と最近だわぁ。追う方も結構面白そうだけど、なんだかんだ逃げ回ってた方が楽しかったからな。
「名前が挙がってた奴は自分がどっちになるかを相談なしで決めろォ! 五秒やるごぉォォッ!」
猶予短くない!? でもまぁ俺は決まってるから良いや。
「――そこまでェ! ではオニとなる者は挙手!」
挙がった手は六本。冬馬を見ると挙げてない。どうやら俺ら以外は全員オニになるみたいだ。
「六人か! 例年より少ないが大丈夫かァ!?」
ホントに心配してんだかよく分からないトーンで達磨さんが三人に尋ねる。問いかけを聞いて「ふっ」と鼻で笑いながら前に出てきたリュウ。いや態度。
「問題ありません。ちなみに制限時間と場所はどうなるのでしょう?」
「時間は一時間! 場所は学園の裏山で行う! 先程も言った通り武器の使用は一切禁止だ! 魔法はバンバンぶっ放せ!」
手加減してっ。
「逃げる側も武器の使用は一切禁止! さらに攻撃魔法も禁止だ! 身体強化と詮索目的での魔法しか認めんッ! ルールを破った者は、その時点で評価無しだァァァ!」
逃げる側結構不利じゃないかそのルール。まぁでももしもの時は冬馬を盾にして生き残ればオールオッケイだな。うん。
「なぁにがオールオッケイだこのヤロウ。何処もかしこもアウトだよ」
「ねぇねぇ、俺ってそんなに表情に出す子だったっけ? 最近不安すぎるんだけど」
「何言ってんだ? 今回は喋ってたじゃんかよ」
「口縫おうかな」
「それは止めとけ」
確かに痛いだろうしそれは止めとこう。一先ず達磨さんが裏山へダッシュして行ったって事は、そのままゲームスタートの可能性もあるし、俺も着いて行くとしよう。
――そして始まった"オニごっこ"だったがぁ……。現在半分の三十分が経過したところで、残りの逃走者は二人。そう、俺と大護だけってこった! 更には現在レイア、ノエル、アリアちゃんに追い掛け回されている場面なんだぜ! 皆捕まるの早すぎるだろぉよ!
因みに逃走者の八割を捕まえたのがミーナちゃん。"クリスタロス"って言ったっけ? あの魔法を網にしてそこら中に罠を張って待ち構えていたんだ。可愛いふりしてアノ子わりとやるもんだねと思ったぜ。
まぁ魔力は結構使っちまったみたいで、今は檻の近くで休んでるっぽいけどなぁ。あ、檻ってのは逃走者が捕まった後に連れて行かれる所だ。
残りの連中はレドとレイアの特攻部隊がえっちらおっちら捕まえてったみてぇだわ。そして残りは俺ら二人だけっと。
ちなみに俺は、如何にして大護を生贄に捧げてやろうかと考えてるところでぃ。へへっいつものお返しってやつだぜバー「ブスッ」ギャー!!
「何すんだよ大護ぉ!? ゼッテー指めり込んだって! 俺の目にお前の指五ミリくらいめり込んだって!!」
「……何だか黒い思惑みたいなモノが出てる気がしたから早めに潰してみた? のかな?」
「のかな? じゃねぇよ!? あとお前が潰したのは俺の目玉だからなっ!?」
「ははっ。ドンマイドンマイ!」
「やかましいわっ!」
さてと。冬馬から一人称を取り返したところで、周りを見渡す。今俺たちは裏山の中でも高めの木の上に登って、オニの様子を探っている。
確認する限りだと、ミーナは流石にあれだけの魔法を使った事もあってか余裕が無さそうだ。仮に檻の近くに誘導されたとしても、難なく逃げ切れるだろう。レイア、アリア、ノエルは魔力には余裕があるけど、体力的に少しきつそうな感じかな。
問題はレドとリュウの二人だな。レドは対抗戦の予選で見せた速度をまだ出してないところから、体力的にも魔力的にも余裕があるように見える。
リュウに関しては……正直わからん。考えるとリュウの戦いをしっかり見た事がない。対抗戦予選の時はいつの間にか代表になってたし、本選の時はカゲツさんと戦ってて、見てる余裕なかったし。さて、どうしたもんか。
「ノエルッ! "その木"! 思いっきりぶん殴っちゃって!」
「オッケーレイア! う――ッラァ!」
くそッ! "また"か!
身体強化をしたノエルが俺たちが登っている木を問答無用でぶん殴る。殴られた衝撃で木全体が揺らされ、上にいる俺たちに届く衝撃は生半可なものじゃない。今ならカブトムシやクワガタの気持ちが痛いほど分かる。
木の揺れに耐え切れず、俺も冬馬も落下していく。地面に落ちる前に空中で身を捻り、登っていた木を足場にして横に跳ぶ。そのまま別の木の枝に掴まり、ターザンよろしくな感じで、枝を利用して木々の隙間を抜けて行く。
ノエルのパワーも十分脅威だが、それよりも厄介なのが、俺たちがどこに居るのか"分かっているように動いてくる"事だ。高所から見ている訳でもないのに、何故か的確にどこに居るのか当てられてしまう。
一先ずノエル達を振り切った俺たちは、そのまま近くの木の近くへ腰を降ろして休む事に。チートな能力のおかげで体力的にはまだまだ問題無いけど、追い詰められている感じがしてしまい、精神的なダメージが蓄積されてきている感覚だ。
「うっひょー! アイツらも無茶苦茶するなぁ! んで、どうするよ大護?」
「どうするったってなぁ……。こっちからの攻撃は一切禁止だし、このまま逃げ続けるしか無いんじゃないか?」
「かもなぁ。あー攻撃有りなら、ノエルに一撃入れて大人しくさせられるのによぉ」
「……大丈夫だと思うけど、それやった瞬間俺たちの負けが確定するんだからな。絶対やるなよ」
「フリか……」
「"ライ・ガン"」
「あっ、ちょ! やめて! やらないから!!」
ダチョウ的なノリはいらない事を再認識させられた事を確認してから"ライ・ガン"を解除。しっかし、本当にどうしようか。
正直、このままでも逃げ切れる自身はある。ただ、今の精神的疲労を考えると、どこかで大きなミスを犯しそうな気がするから、現状維持はなるべく避けたいところ。
かといってオニ相手に攻撃は一切出来ないルールだし……。あれ?