大護対冬馬 ②
「効いたぜぇ、大護ぉ」
「おいおい……。お前丈夫過ぎじゃないか?」
ぶっ飛ぶどころか、ほんの少し後退しただけで済ませた冬馬。口では効いたと言っているけど、そんな風には見えないのは、嫌味として受け取ってやるんだからっ。
「それでも結構痛かったんだぜ?……それじゃぁ――お返しだッ!」
そう言いながら地面を殴りつける冬馬。その瞬間地面が大きく陥没し、クレーターが出来上がる。直接当たりはしていないものの、衝撃によって俺もバランスを崩す。 その姿を好機と見たのか、冬馬がまたも距離を詰めてくる。この状況だと避けるのは難しそうだ。
「く……っそ、あのヤロウ。バトル漫画みたいなことしやがって――"ライ・ガン"ッ!」
咄嗟に"ライ・ガン"で応戦するが、体勢を崩している状態での攻撃では高が知れている。案の定、冬馬の動きを止める事は出来ず、今度は俺の懐にもぐりこまれる。――やっべ。この一撃はどうしようもないやつだ。
「あぁぁぁあんパァァァアアアンチッ!!」
「――ぅぐぁ……っ」
子供のヒーローの必殺技とは思えない一撃だー。はひふへほーとか言った方が良いのかなー、なんて考えてる一瞬の内に、俺の身体は訓練場の壁に寄り掛かるような状態になっていた。こっちの世界に来てから、一番ダメージが酷いわ。まだ動けるけどな。……強がってなんかない。
何事もなかったかのように立ち上がり、歩いて訓練場の真ん中に戻る。途中で躓きかけたけど、誰にも悟られないようにポーカーフェイスでやり過ごせた。……筈だ。だから見学側から聞こえる「ダイゴったら強がっちゃってさー! アリア、後で慰めてあげなよ」「えっ!? いいいいや、あの……ふえぇぇ」って言葉は気のせいだ。
「ははっ、さっすが大護だなっ! 今の一撃でもまだ倒れないなんてよぉ!」
「当然だろ? 異世界大好き生徒会長の力を舐めんなよコノ」
「自分で言い始めちゃった!」
そんな話今はしなくていいんだよ。そう思いながら、口元に流れていた血を服の袖で拭き取る。
「やっぱり肉弾戦はお前には勝てそうにないわ」
「にっししっ、だな。俺も全力勝負なら、正直負ける気がしねぇぜ」
認めたとはいえ、冬馬の言い草にちょっとイラッとしたのはさておいて。
俺は静かに青筋を立てながら、身体に纏わせた雷属性を解除していく。我ながらぶっつけ本番でよくできたもんだよまったく。解除してる今の方が時間が掛かってるわ。
解除した雷属性をそのまま上空に集める。他の属性での攻撃が思いつかないっつーか、上級魔法とか練習してなかったんだよなあ。雷属性ばっかり使ってたから、それ以外の攻撃魔法が分からないんだよ……。はあ、勢いで何でもできると思ってた自分が恥ずかしい。
「なーに辛気臭い顔しながら、とんでもねぇモン作り上げてんだよ大護ぉ」
「あぁ、悪い悪い。肉弾戦では勝てないって分かったからさ、今度は俺の全力を見せてやろうと思ってな。……と言っても、ただの雷属性の魔力の塊なんだけどさ。コイツをぶつけるだけでも、中々の威力を出してくれると思うぜ?」
今の俺の全魔力……。全快状態から見ると、大体六割程度はつぎ込んだ筈だし。
上空に雷を宿した球が出来上がる。自分の魔力で作ってるとはいえ、随分と禍々しいモノが出来上がったな。雨雲を一箇所に纏めるとこんな感じになるのかな。そういえばとある漫画のヤハハな耳たぶ神が、こんな技使ってたなぁ。あ、ちょっと、勝手に雷落とさないで。
「――さてっと。こっちの準備はオールオーケーだ。待たせて悪かったな、冬馬」
「いや、いいさぁ。大護の全力が見れるなら、いくらでも待つぜ」
「ハッ! 後悔させてやるよ」
「やってみやがれ」
俺が構えた瞬間、冬馬から魔力が溢れ出す。……あンの野郎。まだ身体強化のレベルが上がるのかよ。あといくつ変身を残してんだよ。
「安心しろぃ。今はこれが俺の限界だからよぉ」
「そうかよ。……ナチュラルに思考を読まれてる事以外は安心だ。――いくぞっ! "ライトニング・スフィア"ッ!」
放った魔法は、一直線に冬馬の元へ進んでいく。対する冬馬は、動くことなくその場で腰を落として構える。……ってアイツもしかして受け止めるつもり?流石にうそだろ?ここ魔法の世界なんだよ?そんなに肉体派にならなくてもとか思ってる間に、俺の魔法と冬馬が激突する。
激突と同時に発生した衝撃と爆音が訓練場を包み込む。見学していたみんなは魔力障壁を張って耐えているようだけど、それでも辛そうにしている。俺は何とかその場に踏みとどまっているけど、少しでも気を抜いたら危ない状態だ。
「オォォォオラァァァアアアッ!」
"ライトニング・スフィア"に抱きつくような状態になり、身体全体で止めに掛かる冬馬。えっ、えっ?何そのとある妖怪の弟的な止め方。
情熱的な止め方を見せていた冬馬だったが、魔法の威力に押されているようで、徐々に後方へ下げられていく。相当な力で踏ん張っているのか、地面を削りながら。
「スゲーなアイツ……」
そんな言葉が、思わず俺の口から漏れる。見学組も多分同じような事を考えているのだろう、全員冬馬に目が釘付けになっているようだ。
そんな俺も冬馬の姿から目が離せない。
俺が魔法を撃ち出してからどのぐらいの時間が経過したのか。体感的にはほんの一分程度経過したその時――拮抗が、破れる。
「く――っそヤロウがァァァッ!」
雄叫びと共に再びの衝撃と爆音が訓練場に響く。俺の魔法が掻き消され――いや、抱き消されて、所々破けた制服に身を包んだ冬馬のみがその場にいる。
「相変わらず無茶苦茶するんだな。お前ってやつは」
「へっ。このぐらいならまぁだまだ余裕だってんだよぉ。……って言いたかったけどなぁ、流石に疲れちまったぜぇ」
「そりゃ良かったよ。……実は俺もだ」
お互いに「ふあぁぁ」とか情けない声を出しながら、床に倒れ込む。あーつっかれたわマジで。
俺は体力には多少余裕があるけど、魔力はほぼ使い切った。
冬馬は魔力は多少余裕があるけど、体力はほぼ使い切った。
「――お互いに腑に落ちないかもしれないけどさ、今回は引き分けって事でいいだろ?」
「そうだなぁ。今度やる時は、もっとギアを上げられるようにしておくかぁ」
「俺だって他の魔法も使いこなせるようにしてやるよ」
お互いに言い合うけど言葉に力がない。これはちょっとやりすぎたみたいだなぁ。訓練場の修復とかできるのか?……あーダメだ。もう意識がぁぁぁ。
遠くなる意識の中、最後に俺の視界に入ったのは、不安そうな顔で冬馬の顔を覗き込むレイアの姿と、レイアと同じような表情をしながら俺に近寄る、ミーナの姿だった。




