大護対冬馬
「さてっと。そっちはいいか冬馬?」
「おう! バッチリだぜ!」
お互いに距離を取り最終確認。他の皆は、見守ってくれる方向に決めたらしく、今は入り口付近に移動している。リュウだけは審判として俺たちの間に入ってくれる事になった。
「お互いに準備が整ったようなので、始めさせていただきますね」
リュウはそう言うと手を上げる。
「それでは。―――始め!」
リュウの掛け声と共に冬馬も俺も共に掛け出す。
「先ずは手始めに! どぅらぁぁッ!」
勢いをそのまま俺に向けて右ストレートを放つ。
「そう来ると……。思ってたぜッ!」
冬馬が繰り出す右ストレートにぶつけるように俺も右の拳を打つ。一瞬だけ拮抗したように見えたが、やっぱり力は冬馬に軍配が上がる。仰け反るような体勢で、足で地面を削りながら後方へ飛ばされる。あンのパワー馬鹿めっ!
「続けていくぜぇ! おらぁぁッ!」
お次は蹴りの応酬。右のハイキックから左で後方回し蹴り。後方へ下がってから体勢を低くして避けた俺は、冬馬の体体勢を崩す為に軸足への水平蹴り。そのままバック転で避けたと思いきや、そのままの要領で俺の顔に蹴りが迫りあぶねえええ!
お互いに一旦距離を取って目を合わせる。悔しいけど肉弾戦では冬馬には勝てそうにないな。
「避けられたかーっ! さっすが大護だ」
「バカヤロウ。結構ギリギリだったっての」
「はっはー。んじゃあこっからはマジでいくぜっ!」
冬馬が身体強化を使って再度俺へ向かってくる。
「ちょっとは……。遠慮でもしやがれッ!」
俺も負けじと身体強化を使う。そしてそのまま雷魔法"ライ・ガン"をスタンバイ。
「セット! "ライ・ガン"ッ!」
まだ慣れてないとはいえ、通常の弾丸と遜色ないくらいの速さは出てると思うんだけど、それを冬馬はギリギリで躱しきる。
「あ、あっぶねぇ! 身体に穴空いたらどうすんだよ!?」
「穴の一個や二個空いたところで死にはしない筈だから安心して打ち込まれろ」
「今明らかに眉間を狙われたと思うんですけどっ!? そこはダメな場所じゃないですかねぇ!?」
そんなやり取りをしながら再び"ライ・ガン"をチャージ。その数十。
「……なぁ大護。その指先に光ってるヤツって、もしかしちゃう?」
「当たって砕けろだぜっ」
「頭蓋骨粉砕案件なんですがそれは―――ッ!?」
そのままバンバーンとブッ放す。フフフッ。肉弾戦で勝てないのであれば、近付けさせなきゃいいのさー。
十の"ライ・ガン"を打ち終わったらすぐさま次を装填。少しづつ準備もスムーズになって来たな。
「はっはっはー冬馬よ! 踊れ踊れェッ!」
「クソッたれぇぇぇえ! 大護のおたんこなすぅぅぅう!!」
その頃の見学部隊。
「アイツ等スゲー楽しそうだな。特にダイゴ」
「トーマ君は楽しむよりも生き残る方に意識を置かざるを得ない状況というかなんというか……」
「うーーっ。トーマのヤツ、ウチと戦った時はあんな動きしてなかったのにっ。ホントに手加減してたんだなぁ、もう!」
「ほわぁ、二人ともすっごいねー。よく判んない時もあるけど。ねっミーナちゃん」
「え? えぇ、そうね。――全く。他の人への考慮や配慮はどこにいってしまったのかしら。……ところで何故フリューゲル君がここに? アナタ審判じゃなかった?」
「私も危なくなってきたのでこちらから見守る事にしました。さすがにあれだけの衝撃をあんな距離で受けてられないですので」
「それは言えてる。オレにも到底ムリだ。ダイゴも充分におかしいけど、避けられてるトウマもどうかしてる」
「ノエル君に同じくかなぁ。でもまぁ結局のところ――」
「「「「「二人ともおかしいと」」」」」
言われ放題の二人だった。
"ライ・ガン"を打ち始めてからおおよそ五分強。結局冬馬にヒットする事はなく、俺もちょっと疲れてきたから一旦打ち方やめいの状態。お互い、大きな疲労はないらしく、一先ず息を整えているような状態だ。
「ハッ、ハッ――。冬馬お前、どんだけ避けんだよ。実弾と同じくらいの速度は出てる筈なんだぞ?」
「ふぃ~。さっきの言葉、そのまま返してやるぜぇ……。バカヤロウ結構ギリギリだったっての」
「にしてはまだ"身体強化"しか使ってないみたいだけどな」
「ハッ! 大護相手にゃ、このぐらいが丁度いいのかもしれないぜ?」
「――ほほぅ。それはあれか。俺への宣戦布告か?」
「さァな。どう取ってもらっても大丈夫だぜ? 異世界大好きなお痛な生徒会長」
「よし冬馬。テメェは俺を怒らせた」
アイツは絶対にこの場で仕留めてやる。
「ひっさびさのマジの全力勝負かぁ? ……高校の入学式以来だなぁ」
「はっ。あの時とは環境が大分違うけどな」
「へっ。違いねぇや」
言うな否や、自分の身体に雷を纏うように展開させる。ぶっつけ本番だったけど上手くいったみたいで何よりだ。因みにイメージとしては某戦闘民族のver2。髪の毛は立たないように、そして金色にならないようにしている。
冬馬も何か雰囲気が変わった。何かオーラを纏った見たいな雰囲気が出て、アイツの周りの空気が揺らめいているように見える。
「お互い準備が整った感じかぁ。……じゃあ早速、第二ラウンド―――いくぜぇ!」
さっきよりも速度を上げてきた冬馬が、俺目掛けて真っ直ぐに突っ込んでくる。そのまま俺に拳で一撃を入れるつもりみたいだ。でもな冬馬―――。
「――速さなら、今回は俺に軍配が上がったなっ!」
「な――っ」
冬馬の踏み込みに合わせるように懐に入り込む。自らのステップインと共に、相手の勢いを利用する。まさにジョルトカウンター。
「ぶっ飛べッ!」
冬馬の腹部に右拳を叩きこむ。こっちに来て俺の力も上がっているし、何より今の勢いをそのまま利用した一撃だ。これで――。