おまけ ~冬馬とノエルの特殊任務編~
場所は三階の多目的室。普段利用されるのは主に放課後、自主勉強をしに来る生徒が多数いるだけの教室。
しかし今は二人のスナイパー(バカ)が獲物を狙うために潜んでいた。
「さあて。現在ビックイベントが始まる五分前だ。自慢の視力は準備万端か冬馬?」
「はっ、まぁだまだ甘いなぁノエル。俺が今日使うのは――コイツだっ!」
「そ、双眼鏡……だと?なんて準備がいいんだよお前は」
「コイツなら逃すことなくバッチリいけるだろぉ。今日のためだけに新調してやったよ」
「くそ、俺も買ってくるべきだった……っ!次はしっかりと用意をして――」
「ほぅ。貴様らは次があると思っているのだな」
最近聞き慣れた、今最も聞きたくはないであろう筈の声が二人の会話を遮る。錆び付いたロボットのようにぎこちなく、ゆっくりと首を入り口の方に向ける冬馬とノエル。
「私も是非参加してみたかったものだ、その次とやらに……。しかし残念だ。次どころか今日すら無くなってしまったな」
「リリリリリルセンセーではないですか」
「どうしちゃったんすかそんな怖い目をされてしまって、何かあの、あれ……ありました?」
身体中の水分が無くなってしまうのではないかと思う程の冷や汗を流し始めた二人は、現在どうにかしらを切ろうと考えているが、心の奥底にある想いは同じだった。
――あ、終わった……。と。
「何、私も久し振りに生徒で遊ぶ事になったのだから、どうしてやろうかと考えていてな」
「い、嫌だなーセンセーったら、間違えて生徒"で"って言っちゃってますよー。リルセンセーも可愛らしいところがあるんですね」
ノエルが話を反らそうと試みるも、彼の声はすでに届いてはいなかった。
「よし。これでも使うか」
リルが自身の豊満な胸元からある道具を出した瞬間、窓ガラスを叩き割って外へ逃げようとしたが、時すでに遅し。
「なっ!?」
「マジかよ!」
身体強化を施した冬馬の拳だったが、割るどころか、逆に跳ね返されてしまっていた。
「どんだけ固ぇんだよこの窓ガラス!」
「バカ!リル先生の結界で強度が上がってんだよ!ここはしゃあないから壁ごと魔法でぶち抜くしか――」
「それこそバカ野郎だろ!窓ガラスでこの強度なら壁なんて無理に決まってるだろ!」
「その通りだ。今のお前たちでは破壊できないだろう」
そう言ったリルはゆっくりと、一歩一歩を踏み締めるかのように二人に近付く。その右手にある物を二人に見えるようにちらつかせながら。何を持っているのかは言えない。口に出す事も恐ろしい。
壁際に追い詰められた二人は腰が抜けたかのようにその場に座り込む。
その二人の前に仁王立ちを決めたリルは、そのまま二人に顔を近づけ、一言。
「イイ夢は見れたか? そろそろ目を覚まさせてやろう」
───ぎいやああああああああああああああああああ
その声は校内中に広がったとか。