帰宅とその後と
あのあと、ナックさんの部屋にお邪魔した俺たちに、ギルドマスターとしての仕事を説明しながら見せてくれた。基本的には書類に目を通して判子をポンッみたいな。いかにも上の人がやりそうな感じのことをやっていた。
一頻り書類が片付いたところで、訪問は終了した。なんでもナックさんも出掛けなければいけなくなってしまったらしい。残念だ。
まあでも学園に無事入れたことも伝えられたし、話もできたから良かったかな。……ナックさんの戦いを見れなかったのは残念極まりないけども……。
「とりあえずよ、オレたちも帰ろうぜ。……あれ、どうやって来たんだっけか?」
「あー。そう言えばノエルは気絶してたからねー。ま、覚えてなくって当然か!」
「いや、気絶させたのってたしかレイア達じゃ……」
「仕方なかったのよ。あれしかバカ二人に制裁する方法が分からなかったんだから」
バカ二人……。一人は今言われたことに対して肩を落として反省しているよう。勿論こっちはノエルであり、もう片方のバカは腹筋してた。いや、ホントになんでなん?
「いや、なんかまだ帰らなそうだし、暇だったからな。今日の分のトレーニングまだやってないし」
「そうだったのか。とりあえずわかったから腹筋をやめようか。……あと腹筋してるのに平然と喋るのもやめよう。怖いから」
普通あれだよな。腹筋って息吐きながら上半身を起こしてトレーニングするんだよな。少なくとも俺はそうやってた気がするけど。……ってあんなフッキングのことは置いといて。
「帰りも転移を使おうと思うから、みんな近くに集まってくれー」
「とゆうかさーダイゴ。どうやってそんな魔法覚えたか早く教えてよー!」
「よーし。みんな来たなー。それじゃあ転――」
「うわわわ! ちょっとちょっと! ウチまだ離れてるよ!」
しつこいから置いていこうとしたけど、失敗したか。
「冗談だよ。……それじゃあホントに行くぞー"転移"!」
ミーナに言われたあの一言。"焦らなくていいんじゃない"……か。その通りだと思うんだけどな。
なんというか、焦らなすぎてもダメな気がして。みんなに話さないままでいるのが普通みたいな感じになっちまいそうなんだよな。
あー、ダメだな。うん、それはさすがにダメだ。
そんなシリアスにもならない、優柔不断な事ばかり考えていた俺は、見事に転移を失敗。学園から中途半端に遠い所に出てしまい、微妙な空気にしてから解散となった。
◆ ◇ ◆
誰もいないギルド"精霊の涙"のギルドマスター室。そこに突如一人の男が転移で現れる。男はそのまま自身の椅子に腰掛け、不意に目を瞑る。
数秒ほど時間が流れ、目を開けた男は、そのまま一人で話始めた。
「悪いな。急に"念話"なんか掛けちまって」
〈いいさいいさ。んで、本日はどうしたのさナッつん〉
「ナッつんと呼ぶなといつも言っているだろう。これでもギルドマスターなんだぞ」
〈まあまあ、学生時代からの仲なんだからさ、そんな堅っ苦しいことは無しでいいじゃん。それで? 本題は?〉
「……"奴等"が動き出した」
〈――へぇ。てことはあれかな、召集ってやつかな〉
「そうなるな。他の"帝"にも連絡しておいてくれ。俺は他にやることがあるから」
〈やることって……あぁそっか。"久し振り"だもんね。オッケー、わかったよ。任せておいてー!〉
そう言って陽気な声との念話が切れる。自身の椅子の背もたれに体を深く預けた彼は、そのまま天井に視線を運んだ。
「久し振り……か。体、鈍ってなきゃいいけどな」
そんな独り言を漏らした彼。一陣の風が吹いたときには、既に姿を消していた。




