予期せぬ幕切れ
「んな! マジかよ!?」
驚きながらも急いで手を振り払って、バックステップで距離を取る冬馬。
「驚きたいのはこっちさ。まさか身体強化のみでこれほどまでの動きをしてくるなんてさ」
そう言いながら生徒会長はイテテとか言いながら手に息を吹き掛ける。状況的に見れば、俺たちが優勢の位置にいるはずなのに、冷や汗が止まらない。冬馬の拳を完全に見切ってたぞ。
ゆっくりと手を降ろした生徒会長は、俺たち二人に順番に目を合わせて微笑む。その微笑みで観客席から黄色い声援が聞こえてきたが、それすらも恐怖を感じるくらいだ。
「さて、それじゃあ次は――こっちの番だ」
「――っ! 冬馬ッ!」
「分かってる!」
「遅いよ。"エクスプロード"」
俺が魔法を精製、冬馬が再び距離を詰めて反撃に出ようとするが、間に合わない。生徒会長の周りに起きた中規模な爆発に俺と冬馬は巻き込まれる。
「う……ぉおおおッ!」
幸い俺はまだ距離があったから大事には至らなかったが、冬馬の奴はかなり距離を詰めていたからかなり心配だ。
爆発による煙で前はしっかり確認することができないし……クソッ!
「冬馬ぁ! 無事か!?」
「あっぶねぇ! 火傷するとこだったわぁ」
「んのぉおおお!?」
いつの間にか俺の横にいやがったよコイツ。見たところ、服が若干焦げているが、傷を負っているような様子はない。
――ってそれよりも。
「よく無事だったなお前」
「あぁ。本気で走って逃げてきた」
……そうっすか。
「これまた驚いたなぁ。まさか初手のあれが最高速じゃなかったなんて。しかも爆発から足だけで逃げ切るなんて、中々出来たことじゃないよ?」
「へっ、いつもテストやら勉強から逃げてきてんだ。このくらい屁でもないぜ」
「冬馬、それスゴくカッコ悪い」
「マジで?」
なんとも締まらないヤツだ。こっちは本気で心配したってのに。
「いいね、その余裕。君たちと戦えてよかったよ。――これなら安心だ」
最後の方は聞き取れなかったが、クルリと背を向ける生徒会長。そして実況の方に目を向ける。
「実況さーん。3-Aは降参します」
「「は?」」
『お、おおっと! ここでまさかの3-Aが降参です! よって、この試合は2-Aの勝利です!』
まさかの事態に沸き起こる歓声と、どよめきの声。俺たちだって何がなんだかさっぱりだ。
降参を宣言したのち生徒会長は俺たちの方に歩いてくる。さっきまでの威圧感とかは全くなく、ホントにただ歩み寄ってくるだけ。
「……どういうことッスか、生徒会長さん。まだ十分に余力はあるってのに、全力も出してないッスよね?」
「やっぱり分かっちゃうか。でもいいんだよ、僕は君たちの力が知れればそれで。理由はあとから説明するよ」
「……ウッス」
冬馬は、不完全燃焼にも程があるようで、かなりふて腐れている。気持ちはかなりわかるけどな。
「でもわざわざ降参なんてしなくてもいいじゃないですか生徒会長。優勝だってあったのに」
「"カゲツ"でいいよ二人とも。確かに優勝はしたかったけど……」
そこで台詞を止めて、チョイチョイっと手招きをする。何かと思って近付くと、小声でさらに続ける。
「"本当の全力"になった君たちに勝たないと、優勝するのもダメな気がして……ね」
「「なっ!?」」
「詳しくは聞かないよ。ただ僕はそう思ったから今回、降参をしたってだけだよ」
もう話すことはないのか、それじゃあ。と一言残して控え室に戻る生徒会長ーー改めカゲツさん。
「そうだ、もう一つ。今日の放課後、生徒会室に来てもらえるかな? "三人"で」
ん? 三人?
チラッと左を見ると、ミーナがいた。ミーナを含めた三人ってことか。俺らだけなら分かるけどなんでミーナまで……。
「理由は来てくれてから話すよ」
そう言い残してカゲツさんは行ってしまった。何なんだろう、話って。
その後の対抗戦は、三年生相手でも、苦戦をすることは殆ど無く、俺たち2-Aが初の二年生優勝クラスとなって幕を閉じた。