始まりは唐突に
「とゆうことで、クーデレが一番だと思わないか? 大護」
「賛成はするけどせめて脈絡を作ってから言え」
朝イチ顔を合わせたと思った途端これだよ。意見には物凄く賛成だけども。
「おっ!話が通じるたぁ流石親友だな!」
「当然だろ?何なら放課後までクーデレの魅力でも語ってやろうか?」
「あー、ごめん。俺のクーデレの引き出しそこまではなかったわ」
ふっ、まだまだコイツも甘いな。とんだ甘ちゃんだよなどと考えてるところでちょっとハゲ散らかし始めた我らが担任が来たので各々が席に戻り、朝のHRが始まった。
一時間目は何だったっけかな?……あぁ、体育だったな。朝からバスケはちょっと辛いけど、頑張っていこうかね。
さってと、今日も一日普通通りに過ごしますか。
学校も終わって放課後、今日は生徒会の仕事もなかったから冬馬と一緒に帰っているところだ。
……にしても、今日はかなりいい天気だなぁ。雲1つない青空ってやつだな。よし、帰ったら洗濯物干そう。
「そういやぁ大護、これから時間あるか?」
「あぁ、洗濯物干したあとならな」
「主婦かお前は。……まぁいいや、んじゃさ、洗濯物干したらゲーセンでも行かね?何でも新しいゲームが入ったらしいし!」
ふぅん。新しいゲームか……。どーせコイツが行きたがるゲームってなると格ゲーとかだろうけど、まぁ家にいても暇だしな。
「おう、いいぞ。時間はどうする?」
「いや、洗濯が済んだらメールいれてくれ。そしたら迎えいくからよ!」
洗濯済んだ後ってなると大体一時間位だから、4時半には家を出れそうだな。
「りょーかい。それじゃまた後でな」
「おう!」
家に着いた俺はすぐに洗濯を始めて、予定通り4時半に迎えに来た冬馬と一緒に馴染みのあるゲーセンに向かう。
そこのゲーセンは徒歩で10分少々かかる所にあって、小学生の時に冬馬とよく一緒に遊びに行っていた場所だ。当時と比べると、ゲームの種類も増えて、遊び堪えのある変貌を遂げている。
「しっかし冬馬、また格ゲーだろ? 飽きないもんだなホントに」
「まぁな。どのコンボを決めてやろうかとか考えるとずっとやってられる!」
「ったく、その能力を他で使え他で」
「お袋と同じこと言うなよぉ」
すでに言われてたのか。じゃあ尚更――とか返そうと思っていたら少し遠くの方に人だかりができていて、何やら上を見ている。
俺もつられてみてみると、マンションの屋上に女の人が立っている。……オイオイ、この状況ヤバイんじゃないか!?
「大護ッ! あのマンションの上!」
「分かってる! でも一般人が向かったところで……」
でもサイレンの音も聞こえない、警察もいないこの状況を見ると、救助が来るのは時間がかかりそうだ。
「……えぇい!」
「お、おい! 冬馬……っの馬鹿!」
状況を頭の中で確認していたら、冬馬がマンション目掛けて全力で走り始めてしまった。状況整理も出来ないままに、俺も冬馬を追いかける形で走り始めた。
人だかりを掻き分けてマンションに入り、エレベーターも使わずに階段で駆け上がる。しっかりとは確認していなかったが、このマンションは12階建てらしい。
流石に辛い。でも俺の中で何となく、“このまま冬馬だけに行かせたら大変なことになる”とゆう予感がしていた。
なぜこんなことを思ったのかは全くわからない。ただ、本当に、本能的にそう感じた、そんな感覚だ。
やっと屋上に出るための扉の前に着いた俺たちは息を整えることもなく、勢いよく扉を開いた。
扉を開き、前を見る。その光景を見て俺たちは唖然とした。
そこには"何も異常がない、ただのマンションの屋上があった"。
どういうことだ? 確かに女性が屋上から飛び降りようとしていたのは目にしていたのに。
俺たちが上っている最中にエレベーターを使って下に?……いや違う。エレベーターは確実に動いていなかった。じゃあ一体何がどうなってる?
「なぁ、大護。さっきの女の人……どこにいった?」
「わからない。ただ、エレベーターは動いていなかったし、下には降りていないのは確かなはず……」
「じゃあもしかしてもう飛び降りたのか!?」
「それも無いはずだ。仮にそうだとしたら下からの悲鳴が聞こえてる」
「それじゃあ一体……」
「とりあえず一回、下の様子を見てみるぞ」
俺たちは、不安と不信感を抱きながらも、一度下の人だかりを確認するために、屋上の柵に身を預けながら覗きこむ。
その瞬間、柵が"消える"。
「えっ?」
「はっ?」
柵に身を預けていた俺たちは、屋上に戻ることも出来ないままに、当然地面へと落ちて行く。
なんで? 何故柵が”消えた“んだ? 確かにそこにあったのに何故?本来ならそんなことを考えていたかもしれない。だが生憎、考えている暇など無い。
ものの数秒で地面に激突する。明らかに助かる高さじゃない。俺にできるのはただ呆然としながら落ちることだけだった。
あと数メートルで地面に落ちる、そんな時だった。
俺たち2人は地面に"吸い込まれた"。
「――――!?」
俺は言葉にならない声をあげて、そのまま意識を失った。




