対抗戦へむけて
「以上の五人で対抗戦に挑んでもらう。今から約二週間、しっかり作戦を練って、上位に入れるように頑張れよ」
最後に先生から一言をもらって今日の授業は全て終了した。さて、これから何を――
「キリュウ君。これから時間あるかしら?」
「ミーナか。大丈夫だけど……何かやるのか?」
「ちょっと自主練に付き合ってほしくてね。魔法主体の戦い方をする人で、私より強い人、貴方くらいしかいないのよ」
「ミーナより強いって……ちょっと買い被りすぎやしないか? ……ほら、俺は異世界の人間なんだし、戦いには慣れてないと言うか」
「確かに場数としては私の方が多いかもしれないけど、今は純粋に力だけの話よ」
力だけって、そう言われると悔しいな。……その通りなんだろうけど。一先ずミーナと約束を取り付けて、一度教室に荷物を取りに行くことに。
教室に着くと、残っている生徒はあまりおらず、数人の生徒が談笑しているくらいだった。ちなみに冬馬のやつもノエルと肩を組ながら意気揚々と帰っていた。何をやるつもりなんだか。
自分の荷物を回収して、訓練場に戻ろうとしたとき、つい最近見た白頭を発見。
「こんな所で何してんだ? えっと……フリューゲル」
「おや、キリュウ君……でしたよね。いえ、ちょっと学校探索をしていただけですよ」
「探索も何も、もう二年なんだから大体の場所は把握してるんじゃないのか?」
「そんなことはありませんよ。この学園はかなり広いですし、行ったことのない部屋ばかりです。それに、探求心は男子なら誰でも持っているものでしょう?」
「……っ! ああ、そうだったな。大切なことを忘れていたよ。ありがとうフリューゲル!」
「お役に立てたのなら光栄です。そういえば、帰り支度までしてこちらの方に来るとゆうことは、どちらかに向かう予定では?」
フリューゲルに言われてふと時計を見る。……やば、訓練場を出て二十分は経っちまってる。これ以上ミーナを待たせる訳にはいかないな。
「あ、そうだった。じゃあなフリューゲル、また明日!」
「ええ、また明日。それと、私のことは気軽にリュウとお呼びください」
「わかったよリュウ。それじゃあな!」
「はい、さようなら」
リュウと別れてダッシュで訓練場に向かうこと二分弱。遅くなってゴメンと謝罪をいれてから、自主練を開始することに。
俺が頼まれたのは、兎に角魔法を沢山放ってほしいということだけだった。敵に囲まれたときなどに役立てたいそうだ。そういうことならと抑えてある魔力をフルに使って魔法を使う。
使うのは基本属性の初級魔法と中級魔法。先ず始めに軽く十個程度の魔法で周りを固めて、時間差で放つ。殆どをステップで避け、最後のひとつは防御魔法で止めたミーナ。
「流石にこのくらいなら大丈夫か。正直一対多がどれくらいの規模なのか分からなかったから、内心ドキドキだったよ」
「まぁこれくらいならね、とりあえず次はもう少し数を増やしてくれる? あと出来るなら魔法一つ一つの速度も上げてもらえるかしら?」
「合点承知。……よっと」
こんな感じで自主練は進み、結局三十個の魔法を防ぎきった所で終了した。
自主練を終えて部屋に戻った俺は、軽くシャワーを浴びて汗を流す。と言っても、言うほど汗をかいたわけではない。
むしろ自主練終了後に「あれだけの魔法を使ったのに、何でそんなに涼しい顔をしていられるの?」とミーナに詰め寄られたくらいだ。ミーナには説明したはずなのにな。
確かに今日はかなりの魔力を使った筈だけれど、軽い息切れを起こす程度までしかなっていない。運動で言うなら、ジョギングで数キロ走った程度くらいかな。
改めて自分の魔力量の多さを確認。とりあえずこれからどうしようかと、自室のソファーに寝転がっていると、部屋のチャイムが鳴った。
「よっ、我が大親友」
「なんだ冬馬か。どうした?」
「急にお前の顔が見たくなって「帰れ」」
───バタンッ、ガチャリ。
「大護ぉ、ジョーダンだぁ。開けてくれぇい」
本気だったら俺はお前との縁をどうにかしてぶった切る方法を考えてたよ。
でもやっぱり開けるのに戸惑った俺がとった行動は、ドアに寄りかかりながらのドア越しの会話だった。俺は悪くない。
「んで? 本題は何なんだ」
「ドアは結局開けてくれないんだな。いやぁ、対抗戦とやらに向けてちょっと特訓でも。ってお誘いだ」
「あー悪い。ミーナと自主練を終えたあとだから、また明日にしようぜ」
「ならしゃあねぇか。んじゃとりあえず今日はレドに頼むとするわぁ」
「そうしてくれ。それじゃあまた明日な」
「おーぅ」
冬馬と壁越しのやり取りを終えた俺は、ソファーに座り込む。実際のところ魔力的にも体力的にも余裕はある。ちょっとやっておきたいことがあって、冬馬との特訓は明日に回したのだ。
俺はそのまま目を閉じて全身に魔力を集中させ、魔力強化を行う。そこからさらに頭、首、胸、と一ヶ所ずつ魔力量を増やして魔力の壁を厚くする。こうすれば、弱点の部位に攻撃が来たとしても多少は防げる筈だ。
ある程度その動作を行ったのち、魔力強化を通常に戻して右手を前に出す。掌を上に向けて能力"次元"を発動。大きすぎると、尋常じゃなく被害が出るから大きさはビー玉程度。
この大きさでも持続するのはかなり過酷だ。魔力は全く減らないが、体力、精神力が削られていく。故に五分もしないで限界を迎えた。
「――っはぁ、はぁ……」
たったあれだけで根こそぎ体力を持ってかれたようだ。軽く頭痛もする。折角、シャワーも浴びたのに、また汗だくだ。
もう一度シャワーを浴びる為に立ち上がろうとするが、足が言うことをきかなくなっている。……どんだけしんどいんだよホントに……。
そんなことを考えながらソファーに横たわり、そのまま気絶するように俺は眠りについた。