対抗戦予選 ④
「ん? あぁ、あれか。簡単だぞ? 全力で走っただけだし」
「……へっ?」
「は、走った……"だけ"?」
「そ。おもいっきり全力でな」
そう。コイツがやったのはただ馬鹿みたいなスピードで走って急転回したのち、後ろから掌打を叩き込むとゆうことだけ。
指輪の効果で冬馬の身体能力は三割まで落ちてる筈なんだけど……規格外にも程があるだろうよ。
「……うっ、痛っ」
声のした方を見ると、ノエルが起き上がっていた。良かった、無事気が付いたんだな。
「だ、ダメだよノエル! 急に起き上がったら!」
あわあわしながらそう言うアリア。俺もそちらの方に向かおうとしたけど、一回戦が終了して、俺の番になってしまったので、ステージに向かうことに。
「お、ついに大護の番か! しっかり勝って来いよぉ!」
冬馬に見送られながらステージへ。そういや人相手に魔法を使うのは、今日が初めてになるんだな。試験の時はゴーレムだったし。ギルドの時は左ストレートだけだったし。
「それじゃあいくぞ……試合開始!」
合図と同時に相手の男子生徒は、魔法を構築させていく。人の魔法も始めて見る俺は、その攻撃を待つことに。
「くらえ! "ウィンドランス"!」
相手が出してきたのは風属性中級魔法"ウィンドランス"その名の通り風で槍のような物を作り上げ、それを飛ばして相手を串刺しにする術……。何だけど……。
普通の学生だと、こんなに時間が掛かるものなのか。術を避け、相手に"ファイアボール"を放ちながらそう考え……てかダメじゃね!?
案の定なんの考えもなしに放ってしまった、俺の"ファイアボール"は、通常よりもかなりデカイ。サイズに驚いた相手は避けられず、何とか魔法障壁を張って止めるが、止められたのはほんの一瞬だけ、障壁が割れて直撃してしまい、辺りは煙で覆われた。
煙が晴れた先を見てみると、仰向けになったまま動かない男子生徒。すぐにリル先生が駆け寄って様子を見に行く。
「お前の勝ちだキリュウ。次の生徒、ステージへ上がれ」
本気で修行して、コントロール出来るようにしよう。そう決めたトーナメント一回戦だった。
冷や汗を流しながらステージを降りて、みんなのもとへ向かう。アリアは第四試合で出るために、そちらの準備に行ったからもういなかった。
とりあえず誰も俺に突っ込んでこないとありがたいんだけ――
「ねぇねぇダイゴ。"ファイアボール"ってあんな威力叩き出せるもん……だっけ?」
やっぱり貴女様が来てしまうんですねレイアさん。声を聞いてゆっくり振り向くと、ものすごくジト目で見られてました。
「い、いやぁ。何か俺が使うと、あんな威力になっちまうんだよな! あ、アハハハ……」
結局レイアのジト目が直ることはなく、アリアが勝って帰ってくるまで、俺はレドとノエルからは不思議そうな、レイアからはジト目の視線をずっと当て続けられていた。
D組の試合も進み、決勝戦。もちろん俺対アリアの試合だ。アリアの武器は以前の模擬戦でも見ているし、多少は動きもわかるから何とかなりそうだ。
「決勝戦開始だ!」
俺が予想を立てていた通り、合図と同時に斬りかかりに来るアリア。それを横にずれて避けて魔法を構築させる。
「"ファイアランス"!」
一回戦に戦った男子生徒が使っていた物の火属性版の魔法を一瞬で作り上げ、それをアリアに打ち込む。今度は意識して手加減したから、馬鹿みたいな威力になることはない筈だ。
「"アクアウォール"!」
対するアリアは水の防御魔法で対抗する。本来ならいくら相性の悪い属性だからといって、中級魔法が初級魔法に負けることは殆ど無い。
しかし今回は、俺が気を回しすぎ、極力威力の低い魔法を出すことを考えていたから、結局のところ打ち消されてしまった。
「もう、ダイゴ君! ちゃんと戦ってください! でないと切り裂いちゃいますよ!?」
切り裂いちゃダメです。死んじゃいます。
「それはごめん――だよ!」
そう言いながら俺は素手でアリアに飛びかかる。ちなみに武器がないのは冬馬みたいに拳で戦うとかじゃない。ただ準備してなかっただけだ。
仕方ないじゃん。いろいろ忙しかったんだから。まぁ本選までには用意するから大丈夫だ……と思う。
「……っ! 速っ――」
冬馬ほどではないにしろ俺だってスピードはそこそこある。アリアに一気に近づいて、牽制程度の右ストレートを放つ。それを双剣の腹で止められたから、距離をとることに。
距離を取って今度は魔法。何にしようか一瞬悩んで、結局"ファイアボール"に頼ることに。はい、練習します。
「ぐっ……! "アクアウォール"!」
"ファイアランス"を防いだ水の防御魔法を展開したアリアだったが、防ぐことはできなかった。まぁさっきよりは魔力を込めたからな。
「……うそっ!? さっきより強――」
アリアの防御魔法を破壊してすぐに、俺は自身の魔法を消し、"ライトニングセイバー"を構築。アリアの背後に回り込んで剣先をアリアに向けた。
「降参……してくれるか?」
「……ふぅ。結局、一度も攻撃を当てれずに終わっちゃいましたね。本選でも頑張ってください、ダイゴ君」
両手を上にあげて先生に視線を送るアリア。
「いい試合だった。それでは最後だ。E組の一試合目の者、ステージへ」
なんとか無事に代表入り決定だな。良かった良かった。
そう思いながらアリアと一緒にステージを降りる。すると、物凄いジト目を送るレイアがいた。……今回も何かやらかしたか? 見に覚えがないん───
「ダイゴって"特殊属性"なんてものも持ってたんだね。知らなかったよ」
───静かに正座をする俺だった……理不尽だ。
◆ ◇ ◆
「みんな本当にお疲れさん。無事に本日中に代表五人を決めることができた。それじゃあ最後に、代表者の五人は前に出てそれぞれ抱負を言ってってくれ」
ミリ先生にそう言われて前に出たのは女子生徒一人に男子生徒四人。もちろん俺こと桐生 大護もその中の一人だ。
「A組代表、ミーナ=フィアンマです。皆さんの思いを胸に、精一杯頑張ってきます」
ミーナが挨拶を終えて、パラパラと拍手が起こる。一歩だけ前に出ていたミーナが後ろに下がって、次はレドが前に出る。
「ぁ……えっと、B組代表のレド=アルフォートです。……が、ガンバります」
素早く頭を下げてすぐに後ろに下がる。女子の団体の方で血の噴水が上がる。めげるなよ、レド。
「はいはーい。C組の代表はこの俺ことトウマ=アカホシだぜーぃ! 俺はクラスの女の子達の為に……ちょ、大護痛いから許して。やっぱり全学年の女の子の……ダメだって、腕はそっちには曲がんないから……。えっと、頑張ります」
コイツは普通にできないのか。……っと、次は俺だな。
「D組代表のダイゴ=キリュウです。出るからには優勝目指して行ってきます。そして、見てた人はわかると思うけど、実は特殊属性の"雷属性"持ってました。以上です」
簡単に説明し終わると、少しだけざわめきが。俺とアリアの試合を見てなかった奴等が驚いてるんだろうな。……そしてちゃんとみんなに言ったんだから、ジト目をやめてくださいレイアさん。
俺の挨拶も終わってE組の代表の挨拶になったけど、コイツとは話したことは全くない。
顔つきは整っているけど、ずば抜けてカッコいいとゆう感じでもない。背は俺より少し高いくらいで冬馬ほどは無い。髪の毛は見事なまでに真っ白に染まっていて、肩の少しした辺りまで伸ばして結んでいる。
「E組代表、リュウ=フリューゲル、と申します。誠心誠意やらせていただきますので、よろしくお願いします」
そう言ってソイツはキレイにお辞儀をしてみせた。