対抗戦予選 ③
「お疲れ様。見事な試合運びだったな」
少しも疲労の見えないミーナに向かってそう言いながら、俺は用意していたタオルを渡す。
「ありがとう……ふぅ。無事に代表入りも決まったし良かったわ。アナタも頑張って」
「あぁ、任せとけって。とは言っても、次はB組だからまだまだ先になりそうだけどな」
そう言いながらミーナからタオルを返してもらって、柔軟体操を始める。先は長くても準備に越したことはないだろうしな。
ミーナと話終えて、体を一通りほぐしたのち、試合の方を見てみると、既に決勝戦が始まっていた。え? 早くない?
冬馬に聞いてみたところ、殆どの試合がものの一分程度で進んでいたり、ミーナの試合を見た人が代表入りに怖じ気づいてしまったりなどがあったらしい。折角なんだし試合だけでもしておけばいいのに。
そんなこんなで早まった決勝戦は……レド対レイアか。どんな試合になるものか。
「それではB組決勝戦……始め!」
その合図と共に両者共に武器を出す……かと思ったら、レイアは自身の武器であろう刀身の細い剣を出したのだけれど、レドは軽くステップを踏んでいるだけで、武器らしい物は持っていない。
そう思っていたら、レイアの剣の刀身から炎が燃え上がる。火属性強化を施したものだ。
そしてそのままレドに斬りかかるが、レドはまだステップを踏んでいるだけで、その場から動こうとはしない。レイアの剣がレドに触れる、そう思ったところでレドが一気に動き出す。
レイアの剣をサイドステップで避けたかと思ったら、懐からナイフ程度の大きさの小刀を取り出し素早い動きで斬りかかる。
しかしレイアは読んでいたのか、攻撃を避けられてすぐにバックステップで距離を取る。しかしレドは、懐から短いナイフを取り出してそれを投合して追撃する。そのナイフを辛うじて避けたレイアは体制を整えるために更に距離をとった。
「……レドの奴、速いな」
「だなぁ、レイアも他の奴と比べると大分速ぇけど、レドのスピードはその上だ。けどなぁ……」
冬馬が言葉を溜めたかと思ったら、レドがレイアに一気に近づく。そのスピードは先程よりも速い。
「アイツ更にスピードが上がるんだよなぁ。多分クラスの中だと断トツで一番だわ」
レイアはレドのスピードに付いていけず、後ろから首筋に刀を添えられていた。
「そこまで。 勝者レド=アルフォート。二人ともよく頑張った。次はC組の試合を開始する。一回戦の者、ステージに上がれ」
「おっ。やあっと俺の番だぜ。んじゃちょっくら行ってくるわ!」
「おう。しっかりな」
リル先生の言葉を聞いて冬馬がステージに上がり、レイアとレドの二人が入れ違いで降りる。
「うぅー。負けたぁー! レドってば速すぎるよホントにぃ! ウチもスピードには自信あったのにさぁ」
「い、いや。レイアさんも速かったよ。最初の攻撃とかさ……」
「その攻撃を簡単に避けた挙げ句、カウンターまで仕掛けてきたくせに」
「あ、あはは……」
何やらレイアがご立腹のようだが、試合に負けたからとかじゃ無さそうだな。俺に気付いたらしい二人はこちらに向かってくる。
「二人ともお疲れ。すごいスピードバトルだったな」
「ありがと、でもあっという間に終わっちゃったよー。やっぱりスピード勝負はレドの十八番だね」
「こ、こうするしか試合とかに勝てないからさ。僕体も小さいから力もないし」
「でもホントに凄まじい速さだったな。懐にはナイフ以外にも入ってたりするのか?」
何気なく俺が聞いてみたところ、レイアは意味がわからなそうに、レドは驚いたようにこちらを見てくる。あれ? 変なこと聞いた?
「何言ってるのダイゴってば。レドはナイフ投げるときに懐なんて弄くってなかったじゃん」
「え? だって普通に手を入れてナイフを取り出してたんじゃ……」
俺が確認の意味も込めてレドの方を見ると、ちょっと焦ってるように頭を掻き始めて、視線をずらす。
「いや、ね。確かに懐から出してるんだけど……武器を取るときは凄く早く取り出して袖口にあるように見せかけてたんだ。まさか気付かれちゃうなんて……」
「えぇー!? 知らなかったよそんなこと! 何で教えてくれないのさぁ!?」
「だ、だって作戦の一つにしてたんだから、言う必要ないじゃん」
「むぅ、確かにそうかー。ってか何でダイゴには見えたのさー?」
「いやぁ……何ででしょ?」
「もぉー! 二人して何なのさぁー!」
「「あはは……」」
その後俺とレドは何故かレイアの前に正座させられて、ミーナとアリアも含めての緊急会議、もとい公開お説教を食らった。怒られる理由全くないのに……理不尽だ。
ちなみにミーナとアリアはお説教に参加するはずもなく、ただ俺たちを眺めていた。
俺たちが足を痺れさせている間にC組の決勝戦になっていた。まぁお察しの通り冬馬対ノエルなんだけど。
「パワー馬鹿どうしの決勝ってかぁ……腕がなるなぁノエル」
「生憎、オレはお前と違ってパワーだけじゃないんだけどな」
「ンなもん振り回してる奴がよく言うぜぇ」
冬馬の言う通り、ノエルは既に武器を出している。馬鹿に長い棒……確か"棍"とかいう棒術の為の武器だよな。
「こんなもん、だからだよ。お前みたいなパワー"だけ"あったって、扱いきるだけの技量がないとなーんの意味もない」
「ほほぉ、するってェとあれか、お前は俺がパワー馬鹿だって言いたいんだなぁ。ノエルさんよぉ」
「いや、最初に自分で言ってたよな」
「ごもっともっす」
いいから早く戦えよお前ら。何茶番劇見せてくれてんだよ。ほら、先生もため息ついてるから。
「そんじゃあ、まぁ……始めようかねぇ」
「ああ、そうしよう」
そうお互いに言って構える二人。ノエルは棍の先を真っ直ぐ冬馬の方に向け、腰を落として、いつでも攻撃に移れるように。対する冬馬……いや、バカは。
「何だ? その構えは」
ノエルがそういうのも無理ないだろう。あのバカの構えはーークラウチングスタートの構え。それも、両足で踏み切るためのロケットスタートの構え。
「見せてやろう。人類最速の走り出しってやつを! 瞬き厳禁! 最後までよく見てねってヤツだ!」
リル先生も諦めたらしく、冬馬に何も言わない。もう知らない冬馬なんて。
「両者いいな。それでは……試合開始だ!」
その次の光景は凄まじかった。
「が……あっ……」
「だぁから、最後までよく見ろって言ったのによぉ」
前のめりに倒れるノエル。そのノエルの後ろで掌打の構えを直す冬馬。……いや、アイツ速すぎない? 身体能力下げてるんだよね?俺でも辛うじて見えたくらいなんだけど。
「センセー。俺の勝ちっすよね?」
「……あ、ああ、そうだ。おめでとう。それではD組の一回戦の者、ステージへ」
そう言った冬馬はノエルを肩に担いで、ステージを降りてきた。俺はD組の二試合目だから、まだ時間はあるだろう。
多分大丈夫だろうけど、やはり心配だからノエルの元に。他のみんなも同様に集まってくる。
冬馬がノエルを降ろすと、ミーナとアリアがノエルのすぐ近くに。多分無事かどうか見ているんだろう。
「ちょ、ちょっとトーマ! ノエルは無事なの!?」
レイアの一言にレドが激しく首を縦に降る。二人ともよほど心配しているようだ。
「まぁ大丈夫だろうよぉ。今もただ気絶してるだけだろうし」
頭を掻きながらそう言う冬馬。攻撃した本人が言うなら大丈夫かな。多分頭を打たないように前のめりに倒したんだろうし。
「大丈夫よ。アカホシ君が前に倒したから頭も打っていないし、ダメージで倒れたとゆうよりも、突然の攻撃に体がついていけなかっただけみたい」
「そうだね。診た感じ呼吸も整ってるし、安静にしておけばすぐに起きれるんじゃないかな」
ミーナとアリアのその一言にレイアとレドはホッと胸を撫で下ろす。そして、そのまま冬馬に詰め寄っていく二人。二人の様子の変貌にかなり戸惑いを見せている冬馬。
「それでそれで、あれは一体何したのさトーマ!?」
またも激しく首を縦に降るレド。首とれない? 大丈夫?