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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
戻ってきた学園生活
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悪戯心と揺れる煩悩とダイナマイト

 しかしそんな"アイツ達"の中でも難色を示すものがいた。勿論、友であり恋敵ライバルであるミーナだ。

 ミーナもまた、彼の見舞いへと向かおうと考えていたところで起きた、大正論による暴挙。(ミーナ談)

 彼女は頭をフル回転させた。如何に不審に思われずに彼女へと意義を申し立てるか。そうして辿り着いた答えは、彼と同じ世界からやってきた茶髪の筋肉男子に出された。



「ミーナちゃんも行きたそうにうずうずしてっからよお、二人でじゃんけんでもしたらどうだぁ?」



 答えは出されたが、顔から火が出るかと思った。

 他者から見ても分かるほど自分の感情が表に出ていたなんて。これではまるで――



「ヨシャ! 珍しくミーナちゃんの感情がしっかり読み取れたぜぃ! なんか今だけは大護みたいに分かりやすかったなぁ! ナハハハハハ!」



 茶髪の筋肉男子はその日、阿修羅を見たと後に語った。



 ちなみに後日、他生徒へ確認してみたところ「別にいつも通りのミーナだった。トウマが急にあんな事を言い出して驚いた」と言われ、複雑な気持ちになった。

 まあしかし、多少不本意とは言え状況は打破できた。あとは見舞いに行こうとしているアリアとどう話を付けるか、それだけだ。



 ミーナがそう思いアリアへと進言しようとした時、逆に彼女から提案が出た。



「ミーナちゃん! 正々堂々じゃんけんで決めよ!」



 握られた両の手を軽く上下に振りながらふんふんと唸る姿は、普段のはわはわした彼女とはまた違った愛らしさで溢れていた。



 それと同時に、本当に彼の事が好きなんだなと感じた。



 夏の催し物の時、ミーナの本当の気持ちを引き出してくれた彼女。本来ならそんな事はしなくてもよかった筈なのだ。ただただ競争相手を増やすだけの行為なのだから。

 それでも彼女はあの日、あの時間を作ってくれた。感謝も尊敬も信頼もしている。



 ……でも、



「ええ、そうしましょう。アリア。負けないわよ?」



 彼を巡っての勝負には負けられないし、負けたくない。どんな小さい勝負であっても。

 結果としてはこの勝負。七連続あいこの末にアリアに軍配が上がり、アリアが大護の部屋にやってきたという訳なのだ。



(そんな事をしてきたなんて……ダイゴくんは到底思ってないんだろうなぁ)



 静かに眠る大護の姿を見ながらそう考えるアリア。

 ふと悪戯心が働き、大護の頬へ指を向ける。そして勿論そのまま、



 ――むにぃ。



(わ。意外と柔らかい……)



 予想外にもち肌だった大護の頬の感触を暫く堪能するアリア。そして、一度悪戯を開始してしまったら、他にも試してみたくなるのが人間の本能というもので。



 ――ツン。



(こうやって見てみると、ダイゴくんってまつ毛長いなぁ)



 片手をベッドに置いて前のめりになり、覗き込むようにして大護の顔を観察し始めるアリア。小柄な身体のダイナマイトが、大護の顔に当たりそうで当たらない絶妙な位置にあるが、それすらも気にしない。というより気付いていない。ちなみに途中でツンとしたのは、大護のまつ毛へのタッチである。



 普段の彼女なら、例え大護が寝ているからとはいえ、ここまで大胆な行動は出来ないが、一度働いた悪戯心によって、アリアの心は弾けていた。

 しかしそういった心情から始まった行動は、たった一つの想定外が発生するだけで崩れ去るもので、



「……んむぅ」



 やっと顔に違和感を感じたのか、アリアの方へと寝返りをした大護。アリアが少し体を避けてしまった事で、ダイナマイトへの接触は叶わなかったが、変わりに別の場所が触れ合う事に。



 ――ぽふっ。



「へ……?」



 右手に感じた軽い衝撃に目を向けると、そこには大護の左手が重なっていた。



「――ッ!?」



 声にならない声を上げかけるが、騒いだら彼の迷惑になると思ったアリアは、どうにかそれすらも飲み込んだ。悪戯心が崩れた瞬間である。

 幸いにも軽く上に乗っているだけの状態。軽く右手を引けば容易に抜け出すことが出来、彼を起こす事も無いだろう。そう思ったアリアがすぐに行動を開始しようとしたが、運が良いのか悪いのか、右手を動かした瞬間に、大護がその手を軽く握り始めた。



「――――ッ!?」



 またも上げかけた声なき声を必死でこらえる。いつもならすでにはわはわしているところだが、アリアの脳内には「彼を起こして迷惑を掛けちゃいけない」という思いでいっぱいだったために、そのはわはわですら抑え、目を強く閉じて、高鳴る心臓、そして小さな煩悩と戦っていた。



(だだだダイゴくんの手が私の手の上にぃ!? ふえぇぇ! でもちょっと嬉し……でもでもこのままじゃもしかすると寝苦しさを感じちゃうかもしれないから、早く手を回収しないと……でもそんな今も起きないで心地良さそうに眠ってるし、私お邪魔にはなってないならこのまま……いやいやダメだって! ダメだよぉ私! 少しでも早くダイゴくんの風邪が治るようにと思って来たのにこのままなんて! ……で、でもぉ――)



 それはそれは、すごく、戦っていた。



「――ん」

「――ッ!? ……ふぅ。……あれ?」



 一瞬聞こえた大護の声に、肩を跳ね上げるアリア。まさか起こしてしまったのかと思いながらゆっくり目を開けて安心したと同時に疑問を感じた。大護はしっかり眠っていたが、その表情は先程とは変わっており、少しだけ苦痛を感じているように――いや違う。そう思えたのは、次の彼の寝言を聞いたからだった。



「とう、さん……」



 今彼の心にあるのは、寂しさだろう。



 夢の中でチキュウという場所の光景でも見ているのだろうか。



 その場所で暮らしていた、昔の風景を見ているのだろうか。



 父親に手を引かれていた、昔の記憶でも見ているのだろうか。



(ダイゴくん……)



 彼は強い。自分が知りえる人物の中では、誰よりも強いとアリアは思っている。そんな彼が見せたほんの少しの弱い面を、彼女は見過ごせなかった。



 右手の掌を上に向けて、軽く握られた手を少しだけ強めに握り返す。勿論彼に苦痛を与えない程に。

 そして彼の頭に空いた左手を乗せ、ゆっくり、優しく撫で始める。



 ――お父さん、っていうのは私にはどうしようもないけど……せめて少しでも、彼の心が落ち着くなら。



 そう願いを込めて。



「今はゆっくり休んで、また一緒に学園に行こうね。ダイゴくん」



 耳元で囁かれた声が切っ掛けになったのかは定かではないが、アリアのその一言の後から、心なしか、大護の表情も柔らかくなってきたように感じられた。

 そしてそれと同時に、彼女に包み込まれた大護の左手が、彼女の右手を握り返していた。

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