オメガグッジョブ
「何黄昏てんだよ大護ぉ。折角海に来れたんだ、楽しまないと損だぜ?」
傍から見ると「ぼっちナウ」だった俺を見かねてなのか、そう言いながら近づいて来たのは、ズボンタイプの水着を身に着けた冬馬。水泳選手みたいなピタッとしたやつじゃなくて、見た目ハーフパンツみたいなタイプのやつな。
「そうだよ。ちょっと気が引ける気持ちは分かるけど、修行を頑張った自分たちへのご褒美って事でさ! 今は楽しもうよ!」
その冬馬の後ろからレドも登場。レドの方はショートパンツくらいの丈の水着を着用して、パーカーを羽織っている。二人ともこっちに来てるから、生首状態のノエルは完全放置状態だ。流石に可哀そう過ぎやしないかい?
「ん? ……ああ、あれはいいんだよダイゴ。普段から人の話も聞かないノエルへ、ちょっとした復讐をしてるだけだからさ」
クスリ、という効果音が合いそうな表情をしながら、口に手を当てて微笑を見せるレド。でもよく見ると目は笑ってなかった。ノエル……改心しないと命が危ぶまれてたりしてないかこれ。
「そんなに心配しなくても大丈夫だぁ。しっかり水分補給もできるよう、口元に飲み水も置いてきてるからよ。ストロー付きで」
なら安心か。……安心か?
取り合えず程々にしておきなさいと、念のためにレドに伝えておく。レドの事だし、本当にやばかったら止めるか最初からやらないという、どちらかを選択してるだろうなとは思うけど一応ね。
チラリと視線を移した時に見えた、ノエルの前に置かれた空のコップの存在と、頭を振る動作すら見せなくなったノエルの様子を見兼ねてとかではないからね。断じて違うんだよ。
「ふふっ。今のその胸中を、レド君にそのままお伝えすれば良かったのではないですか?」
後ろから聞こえた声に反応して振り返る。声で分かってはいたが、さっきまで少し離れた位置で本を読んでいたリュウが近付いてきていた。ちなみに格好は学園の制服ver夏服である。
何故水着じゃないのかと聞いてみたところ、海に入るつもりはないからという至ってシンプルな理由を告げられた。
「少し離れた位置にいたリュウにすら読まれてるって事は、レドだって気が付いてると思うから大丈夫だろ」
「なるほど。敢えて、と」
「……その通り」
「ふっ。そうですか」
俺に声を掛けてきた時とは明らかに異なるニュアンスが感じられる微笑みによって、俺の精一杯の強がりが通じなかった事が判明した。そろそろ泣いても良いと思ってます。
「良いと思いますよ? その際にはミーナさんとアリアさんを呼んできますから」
「女子たちに俺の泣き顔を晒すつもりか? 無駄だぜ? 二人が来たとしたら、俺の本気の強がりを見せてどうにか堪えてやる!」
女子の前で泣くってのも恥ずかしいしな。とか思いながら声高らかにリュウへ告げる。俺に視線を向けるや否や目頭を押さえながら「ふぅ」と小さく息を吐く。
「……お二人が不憫に思えてきました」
「急にそんな事言われちゃう俺の方が不憫じゃない?」
「あとトウマ君が色々言うのも頷けますね、これは……はぁ」
「そんなはっきりため息つきながら話すと気になっちゃうから。俺が何かしたのかなってなっちゃうから」
最後に「貴方はそのままの貴方でいてください」と、とてつもなく温かい目を向けられてからその場を去っていくリュウ。すごく腑に落ちないけど、私はこのままの私でいたいと思う。
……それにしてもリュウのヤツ。海に入るつもりはないとは言え、学園指定の夏服なんか着て暑くないのかな。
「リュウなら大丈夫だと思うよー。何なら汗流したところも見たことないくらいだし」
「そ、それはそれで問題なんじゃないかな、レイアちゃん……」
どうやら今度は女子二人組が来てくれたらしい。何故みんな同時に来ないのかと思いつつも、二人の声がした方へと視線を移す。
「そんな事よりさ、みんなで泳ぎ対決しよ! 向こうの岩のところまでって事にしてさ!」
「ええっと……レイアちゃんが指してる場所、ここから見ると、とても岩には見えないくらい小さいんだけど」
「それは安心して! さっき泳いで確認してきたから間違いなくあれは岩だよ!」
「そ、そういう事じゃないんだけどなぁ」
「んもーぅアリアは心配性なんだからー! ……ってダイゴ? ずっと黙っちゃってどうしたの?」
俺の様子を見かねたレイアがずいっと顔を寄せてくる。元々明るいレイアの金髪が、海水で濡れている事と太陽光の反射によって更に煌きを増しており、より一層輝いて見え、更に更に髪色に合わせたと見える明るい黄色のビキニがレイアという存在自体を可憐に見せる一方で、個人的にはショートパンツスタイルの下の水着がオメガグッジョブって感――
「ちょ、ちょっっと待ってダイゴ! それ以上色々考えるの一旦止めて!!」
「――ハッ!? 俺は一体何を……!?」
「こ、こっちのセリフだよッ! 何恥ずかしい事サラサラ考えてるのさー!」
いけないいけない。余りにも現実味が無さ過ぎて、アニメを見ていた時のような素直な感想ばかり考えていたらしい。地球じゃアニメか漫画じゃないと見られなかったからね。金髪美少女のビキニ姿なんて。仕方ないね。
「ううぅ、そういう事は……これを見てから考えなさい!」
「ちょ! ちょっとレイアちゃ――」
恥ずかしそうに身を屈めていたレイアが立ち上がり、後ろではわはわしていたアリアの背後に回って、そのまま前に押しやる。
アリアもレイア同様に髪色に合わせたと見られる桃色の水着。レイアは割とスタイリッシュなビキニだったのに対して、アリアのは上下共にフリフリがあしらわれている。テレビ中継とかで海の映像が流れた時とかに、結構着ている人が多い印象を勝手に受けていたが、こっちにもあったのか。
……いや。そこに逃げるのはやめよう。普段ならいくらでも考えるべきところなんだろうけど……今は、今だけは、そんなデザイン部門を考えるなんて事は愚の骨頂だ。もっと素晴らしい、避けては通れない程の神々しさを感じる部分があるじゃないか。
そう……それは――