ダイゴちゃんとトウマちゃん
「――という訳でっ。今からダイゴちゃんとトウマちゃんに戦ってもらいまぁす」
そういう事らしい。
どういう訳なのかと言うと「強い人の動きを見て自分のものにするのも立派な学びなのよん」という事らしい。
なら先生がお手本になればいいじゃないですか。と、目線で訴えてみたところ「アチシがやっちゃうと、やっぱり先生は違う。という心情が溢れちゃって、純粋に学べなくなっちゃうのよ。だから同年代で格上の人の戦いを見せるのが一番効果的なの。この位の歳の子たちはね」と凄く説得力のある言葉で返されては反論のしようもない。
因みに周りのクラスメイトには俺の心情は読まれてなかったようで、シュート先生が一人で次々話してた的な状態が出来上がった。一週間前の教室でからかわれたお返しとでも言いたいが、全く持って効果が見られなかった。メンタル強すぎ。
そんな訳で抜擢されてしまった俺は「なるべく本気で戦える相手を選んで頂戴」とシュート先生から言われたもんだから冬馬をチョイス。
「ま、そうなるわよね」と聞こえたのは良いとします。でも張り切って出てきた冬馬を目にして「やっぱり相思相愛なのかしらねえ……」と聞こえたのは幻聴だと思って無視した。
因みにではあるけど、シュート先生からの指示で、指輪は外さないでやる事になった。あまりにも高次元過ぎても意欲を削いでしまうからだそうな。
「それじゃ、二人とも用意はいいかしらん?」
「おーけーっすー」
「大丈夫です」
正面に立つ冬馬が屈伸しながら、俺は魔力を指先に集めながら答える。冬馬とこっちで戦うのは、これで二回目かな。あの時よりもお互い成長してるからどうなるか楽しみだ。
「はい、模擬戦開始っ」
パチンと、手を叩いた軽い音で模擬戦が開始された。
さて先ずはこちらから牽制を、とか思ってた俺だったが、開始の合図と共に冬馬へ視線を移したら、先程までの場所には既におらず、俺の目の前まで移動しており、右足を振り上げていた。
「やッ――」
「先手ェ必勝ォ!」
咄嗟に両腕に魔力を集め、腕を頭上でクロスする。腕だけでなく全身に衝撃が走り、俺の足場も多少沈んだように感じた。冬馬相手にこの距離感はマズイッ!
両手足に雷属性を付与。左足の追撃が来る前に冬馬の横を駆け抜け、背後へと回る。
背後へ移動しながら右手に"雷刀"を具現化。駆け抜けた勢いを生かしたまま体を回す。
「"紫電一閃!"」
振り抜かれた刀は、咄嗟に身を屈めた冬馬の頭上を通過した。だが、その動きは想定内。そのままの流れで右上からの袈裟切りを放つ。
俺の攻撃はまたも空を切る。身を屈めた状態から両手足を使って後方へ跳んだ冬馬の動きによって。
当たらなかったのは残念だけど、離れてくれるのなら好都合。一度雷刀を消し、雷の弓矢を具現化させる。
「"バリスタ――雷煌"」
地面へと着地する寸前に雷矢を冬馬へと撃つ。その瞬間なら避ける事は出来ず、防御出来ても体制を崩すだろうと踏んでの判断だ。
冬馬へと迫る三本の矢。その着弾と同時に混合魔法をぶち込んでやろうと用意した矢先、
「んぬうりゃん!!」
俺の思惑とは裏腹に、避けるでも防御に回るでもなく、国王様と同じように矢を受け止める事で回避した冬馬。それも三本とも。
「てめッ――そんな事まで出来るようになったのかよ」
「あたぼうよ。パパさんがやってた技なら大概出来るようになってるぜい。大護のこの魔法だって、かなり速度が上がってんじゃねえか。危うく刺さるところだったぜ」
マズいな。遠距離攻撃が通じないとなると、今の状態の俺の攻撃では冬馬にダメージを与えられないかもしれない。
幸い、最高速度は俺の方が上だから、一定の距離を保ててれば、冬馬の攻撃を避けることは難しくない。ジリ貧の戦いになるかもしれないけど、そうやって防ぎつつ、何とか隙を作り出すしかないか。
「はっは~ん。攻撃が俺に通じないと考えているとみたぜぃ」
「……さて、どうだろうな」
「しらばっくれて……でもま、俺も同じような事考えてると思うぜ? 一旦距離を取られたら、最高速度で上をいかれる大護に攻撃を当てるのはムズイ。近付いても逃げられるのが落ちだからな」
あれ、俺の心読まれてるのかな。いや、戦闘となった場合には大丈夫だったから気のせいだろう。
「じゃあどうすっかなーって思ったけど、今の俺ならその打開策がある」
よかった、読まれてるわけじゃないっぽい。にしても……打開策?
その場で腰を沈めて拳を固める冬馬。そのまま腕を引いたところを見て、国王様との戦いで見せていた技を思い出す。
「"ライ・ガン!"」
冬馬の動きを止めるために、俺の中で最速を誇る雷弾で対抗するが、少し遅かった。
「ロケットォォ――ッパンチィ!」
冬馬に当たる寸前のところで俺の魔法がかき消され、冬馬の魔力の塊――ロケットパンチは、勢いを緩めることなく俺の元へと迫る。
だが、このくらいの速度なら問題ない。そう思いながらしゃがんで回避し、お返しのために再び雷弾を撃つ為に顔を上げる。
俺の目の前に、避けた筈のロケットパンチが迫っていた。
「うおっ!?」
咄嗟に頭を振って回避するも避け切れず、頬に弱い痛みが走る。一瞬だけ何が起こったのかと思ったが、冬馬の体勢をみて把握した。
「その技、連発出来るなんて知らなかったぞ」
「だろうなぁ、言ってねえし」
突き出した拳が左右逆になっていた。一発目は避けられると判断して、すぐに二発目を撃ってきたんだろう。
掠った頬を指で撫でる。出血はしてないか。頬からツーっと血が流れるってちょっとカッコいいかもとか思ってたから少し残念。
そんな事を考えていた矢先。冬馬が再度拳を後ろへ引く。
「いつぞやのお返しだ! まァだまだいくぜ!」
掛け声と共に連続で繰り出される、"ロケットパンチ"という名の魔力の塊の雨を、訓練場を駆け回りながら避け続ける。
勿論ただ避けているだけではない。隙をみて反撃に出るために、魔力を練りながら避け続ける。流石に無限に打ち続けることは不可能だと思うから、少しでも隙間が出来たら、一気に大技を叩き込むつもりだ。
流れるように避けながらその期を伺う。今のところ疲れは感じられないし、手が止まる様子もない。……このままじゃ無駄に長引くかもしれないし、ちょっと危険だけど隙を作るしかないか。
脚への雷属性付与を強化した上で、移動速度は変えずに再度避ける。
「うおっ!?」
タイミングを見て、"わざと"冬馬のロケットパンチの一つを体に掠らせ、体勢を崩したように見せかける。オマケで焦っているような声もサービスだ。
「ここッだァ!」
そのタイミングで冬馬は、一気に俺へと距離を詰めてくる。どうにか理想の状況を作り出すことが出来た。
崩したと見せかけた状態から足を戻し、冬馬を待ち受けるように腰を落として斜に構え、鞘に納まった状態の雷刀を具現化。全身へと雷属性を張り巡らせた上で、部分強化も施す。
誘導されていたことに気が付いた様子を見せる冬馬だったが、もう止まれないとでも言いたそうな表情で俺へ向かってくる。――今!
国王様の時と同様、重力に身を任せて身体を倒し、顔面が地面に当たる直前で一気に踏み込み、そのまま居合を放つ。
あの時と同様に、やけに景色がスローに見え、驚愕と焦りを足して二で割ったような、複雑な表情を見せていた冬馬の事もばっちり確認出来た。悪いな冬馬、この試合は俺が勝たせてもらうよ。そう思いながら勢いよく刀を振り抜いた。