対抗戦予選 ②
午前中の授業、昼休みが終わった。今からいよいよクラス代表を決める。まだ決め方についての説明は何も受けていなく、クラスに待機させられている状態だ。
とか思ってたら、リル先生が帰ってくる。何やら少し小さめの鞄を持ってきている。
「待たせてすまないな。さて、朝も話した通り、今から対抗戦のクラス代表を決める。全員訓練場に移動してくれ」
リル先生にそう言われ、俺たちは訓練場に移動した。朝俺が壁を壊した所だね……うん、しっかり直ってた。
一人で安心しているとリル先生は持ってきた鞄からクリップボードを取り出してペンを持った……って普通に記録用紙かよ。
「よし……。今からクラス代表を決める。尚、決め方はトーナメント形式の模擬戦にする。既にトーナメント表はこっちで用意してあるからそれに従ってくれ
」
そう言いながら模擬戦と聞いて叫び始めた冬馬にシャーペンを投合。今はおとなしく額にシャーペンが刺さったまま、涙と血を流して話を聞いている。いや、抜いてはいいと思うけど。
冬馬は置いてトーナメント表を見に行くことに。えっと、まずA~Eの組に別れていて、そこで勝った五人を代表にするみたいだな。俺は……D組の二試合目が最初か。あ、アリアも同じ組か。当たるとしたら最後になるな。他のみんなは……後から聞けばいいや。
「おっ、大護はDか。んじゃあ戦うことはないんだな。いやぁ安心したぜ」
俺がトーナメント表を眺めている間に復活を遂げた冬馬が、いつの間にか横に並んでいた。血を拭け。
「そうみたいだな、二人で代表入り目指そうか。それで、冬馬はどこの組だ?」
「俺ぁCだったな。確かノエルと決勝で当たるような組み合わせだ。この前の模擬戦の時に戦い方見ておけば良かったわぁ」
そんな会話をしていると、全員表を見終わったことを確認したのか、リル先生から号令が掛かった。
「それではA組の一試合目から始める。他のものはステージから離れて見学しているように。結界を張るから安全だけれど、何があるか分からないから試合中は不用意にステージに近付かないように」
そう言われて離れると、クラスメイト二人を囲むように、ドーム型の薄い膜が張られた。これが結界か。
「相手を気絶、または降参させれば勝利だ。魔法はもちろん武器も使用可能。但し、生死に関わるようなものは禁止だ。試合時間は五分間、この間に勝敗がつかない場合は途中結果で私が決める。いいな?」
その言葉に一試合目の二人は頷いて答える。……武器を使ってる時点で生死に関わってるような気もするけど。
「それでは……一試合目、開始!」
その合図と同時にステージの二人は各々武器を取り出す。俺から見て右側の男子生徒が長剣、左側の女子生徒が弓矢を構えた。
まず仕掛けたのは女子生徒。弓矢を男子生徒に向けて連続で射る。しかし男子生徒は軽くステップを刻んで、全て避けている。矢を全て避けられたことに焦りを感じたのか、女子生徒のコントロールが大きく乱れる。
その瞬間に、男子生徒が一気に距離をつめ、長剣を上から下へ大きく一振り。それをバックステップで避け、初級風属性魔法"ウィンド"で風を吹かせて、その風に乗るようにしてさらに距離をとる。
男子生徒は追跡することはせずに、今度は初級地属性魔法"クエイク"で、女子生徒の足下の地面を隆起させ、バランスを崩し、もう一度距離をつめる。
バランスを取り戻した女子生徒だったが、長剣を避けることは不可能と判断したのか、自分と男子生徒の間に初級火属性魔法"ファイアボール"を発動させて、それを爆発させる。
二人とも結界のすぐ近くまで吹き飛び、全身傷だらけになっている。二人とも気絶してしまったのかと思ったら、女子生徒の方がゆっくりと立ち上がって、不安そうにリル先生の方を見る。
「そんな不安そうな顔をしなくても、お前の勝ちだ。安心しろ」
その言葉を聞いて女子生徒は笑顔でステージを降りていった。 一試合目をずっと見ていた俺だったが、ひとつ気になることが。
「なぁノエル」
「ん、なんだ?」
「今の戦いって二年生の平均レベルくらいか?」
「あ、あぁ。大体そんな感じだな。なんかあったのか?」
「いや……何でもない。ありがとよ」
冬馬につくってもらった指輪を着けながら試合を見ていたが、やはり俺たちの力は頭ひとつ抜き出てるらしいな。まぁここまでやってもダメならしゃあない……よな?
その後も試合は進んで、A組の最終試合であるミーナの番になった。対戦相手はちょっと大柄な男子生徒。大丈夫かな、ミーナ。
「次の試合……始め!」
その掛け声を聞いてミーナが出した武器は杖。某ひのきの棒とかのサイズではなく、ゲームの魔道師とかが持っているような大きなもの。対する男子生徒は巨大な斧だった。
「ハッハァー! 力こそ全てなのです! 俺のパワーに屈していただこうかァ、フィアンマ様!」
そう叫びながら豪快に足音を踏み鳴らして接近する。ミーナも杖を構えているが、それ以外に特に動きはないように見える。
「ハッハァー! こいつでもくらって頂こう!」
男子生徒はそう言いながらミーナに向かって、横凪ぎに斧を降る。斧の風圧で砂埃が舞ってしまい、ステージがよく見えない。
「ちょ……っ! おい! ミーナ!」
俺の声が届く前に、ミーナに斧が届いてしまったのか、ガギンッと鈍い音が訓練場に響く。……って何の音だ?
「こんな単調な攻撃で、私に当たるとでも思っていたの?」
砂埃が晴れると、ミーナが自分の回りに薄い膜を張って、斧を防いでいた。
パッと見ると結界のようにも見えるけど……あの防御魔法はなんだ?
「ごめんなさい。もう終わらせてもらうわね」
ミーナがそう言うと杖が光始める。淡い水色の光だ。色だけ見ているととても癒されるようなそんな優しい色。
「"クリスタロス"」
術名を言うと同時に、杖を地面にトンッと一回鳴らす。そうすると、杖の柄の方から、小さな水の球体がいくつも出現した。でも、あれって攻撃魔法……なのか?
「ハッハァー! そんなちんけな水で何ができるのですかァー!」
そう言って男子生徒が再び突進する。さっきは横凪ぎに振った斧を今回は振り下ろしにかかる。ミーナもまた防御をするのかと思っていたが、違うらしい。
ミーナの方を見てみると、水の球体達がミーナの周りをクルクルと回りながら浮いている。そんな中でミーナは手を前に出して構える。
「『スフェラ』」
ミーナのその掛け声と共に水の球体の幾つかが、男子生徒に向かって発射される。……まるで弾丸のように。
「うぐぉ……っ」
数発の水球を受けた男子生徒は立ち止まる。それを待っていたと言わんばかりに、ミーナが動き出す。
「『ハイレイン』」
そう言って手を突き出す。すると球体だった水が紐のように長くなり、男子生徒の手足を拘束した。
「こんな……水の紐程度……っ!」
紐とはいえ所詮は水。男子生徒はそう思ったのか、ご自慢の筋肉をフル活用して引き千切ろうと試みる。
しかしまぁ……そんな時間を与えられるわけもない。
「私の勝ちね」
男子生徒の後ろに回り込んで、右手に魔法を待機させた状態のミーナがそう言った。男子生徒は悔しそうに歯を食い縛って降参していた。
そのあと一言だけ何やらやり取りが行われてから、ミーナは俺たちの方に戻ってくる。
「お疲れ、ミーナ」
「ミーナちゃん強いなぁ。そこに痺れるぜ!」
憧れはしないんだな。
俺と冬馬の言葉に軽くありがとうと返したミーナは俺の隣に立ち並ぶ。見た感じ疲労とかも殆ど無さそうだ。
「それにしてもさっきの魔法スゴいな。意図的に操れるなんて。あと最初の一撃を防いだ魔法も」
「そうね、でも遠隔操作を行える分、魔力の消費は普通の魔法より多いのよ。それと、魔法障壁は誰でも知ってる初級魔法よ」
勉強してきます。
「へ、へぇ……でも良かったのか? そんな魔法を一回戦から使ったりなんかして」
「"クリスタロス"は、言葉を発するごとに魔力を消費していくの。だから二言程度なら平気よ。長期戦となってくると厳しいけれどね」
ミーナのその言葉は本当で、その後の試合も全て全く相手を寄せ付けることなく、見事にA組の代表となった。