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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
戻ってきた学園生活
137/148

思い出される記憶

「こっちが下手に出てりゃ舐めた口利きやがって! ぶっ殺してやるよ!」

「あーららー、コイツを怒らせちまって。死んだな坊主ゥ! ぎゃはははは!」



 オニイサンの温度が急上昇してしまった! 何故だ! あんなに言葉を選んで、真実だけを優しく伝えたのにっ! つーかそれよりアンタの態度はどこが下手だったんだ!?

 どうやら下手から出てくれていたオニイサン、恐らく身体強化を使って殴りかかってきてるのだろうけど、動きが非常に隙だらけ且つ遅い。



 多分当たっても問題無いだろうし、試しに一撃貰ってあげようかとも思ったけど、後ろでミーナたちも黙って見てくれてるしやめておこう。

 男が繰り出す拳を右に左に時には上に。身体強化は使わずに、顔と体を捻りながら全て避ける。恐らく数分間続いたであろう怒涛の攻撃は、男の体力切れで幕を閉じた。勿論俺の体力は余裕で有り余ってる。



「はぁ、はぁ……クソがぁ」

「気が済んだ? ささ、お帰りはあちらになりますので」



 男の背後を指差し、帰り道へと誘導する。我ながらナイスエスコート。そんな俺の姿を見て男の口からは舌打ちが響く。温度は未だ上昇中の模様。



「仕方ねえ! 下がれグリッド!」



 もう一人の男がそう叫び、グリッドと呼ばれた男が俺から離れる。叫んだ男の手には、恐らく火属性初級魔法(ファイアボール)と思われる魔法を構えている。街中でそれはよろしくないな。



「もう容赦しねえ! "ファイア――」

「それはダメだわなぁ」



 男の手に集まっていた魔法が音を立てて消える。急な出来事に目を丸くしていた男だったが、次の瞬間、正面から衝撃を受けたように後方へと倒れる。

 声がした方へ目を向けると、デコピンをした後のような恰好で、肉が刺さってた串を咥える冬馬の姿が。



「使いどころあったぜ。この技もよ」

「みたいだな」



 さてこれからどうしたもんかと思いながら、男たちの方へ向き直ると、お互いに支え合いながら退散しようとしているところだった。別に追撃する理由はないし、男たちはそのまま見送ろう。

 男たちの姿も見えなくなり、イベントが完全終了したであろうというところでミーナたちの方を振り返る。ゴミを見るような視線はすでになく、二人ともいつも通りの表情だ。



「一応確認だけど、二人とも怪我とかはしてないよな?」

「モチロン! ダイゴが颯爽と助けてくれたからねー、カッコよかったよ!」



 レイアが俺に向けてサムズアップ。対する俺も、勿論サムズアップ。



「ありがとな。……まあ正直俺が介入しなくても、二人だったら何の問題もなく撃退してただろうけどな」

「んー、確かにね。でも怪我とかはしてたかもしれないから、やっぱり来てくれてよかったと思うー」

「おいおい、夏休み期間の修行を乗り越えたってのに随分と弱気……」

「相手が、ね。あーいうの見るとどうも力加減が出来なくなっちゃってさー。ついついやり過ぎちゃうんだよー」



 「てへへ」と頭を掻く姿を見る限り、これはやりすぎちゃった経験がある人の反応だとわかる。何となく聞くのは止めておくことにした。



「ミーナも大丈夫か?」



 レイアから元気な返事を貰えたところでミーナにも確認。



「え、ええ。大丈夫……ありがとう」

「……そっか」



 ミーナの顔色が何となく優れないようなと考えたところで、ひとつ思い付く。

 そして、レイアにこそっと耳打ちした俺は、席を外すために、冬馬を連れて先程の屋台へと向かう事に。さっき買った肉、冬馬が全部食いやがったって事もあるが。






  ◆  ◇  ◆






 大護と冬馬を見送ったミーナは未だ暴れる胸中を鎮めようとするのに必死だった。

 顔には出さないように努めていたが、先の男たちが自分たちの元へ来た際、数か月前の"あの事件"が頭を過ったのだ。



 無論、あのようなチンピラ風情に後れを取るわけがないという事は分かっていた。それでも体が言う事を聞かなかった。

 思い出される当時の出来事。見知らぬ男二人に囲まれ、一人がいなくなった矢先の肉体と精神への圧倒的なまでの暴力。



 視界も塞がりかけた状態。反撃も、逃げる事もさえも許されず、無抵抗にされるがままの状態。

 暴力が過ぎ去り、そのまま恥辱を受け――



「よいしょ……っと」

「……へっ?」



 不意に自分の体が横に倒され、頭に柔らかい感触が当たる。何が起きたのかと狼狽えそうになったが、答えは直ぐに分かった。



「ミーナの髪の毛、さらっさらだねー。触ってるだけで凄く気持ちいい」

「……レイア、一体どうしたの? その、恥ずかしいのだけれど」



 レイアによって体を倒され、彼女に膝枕されているのだと。



「んー、ミーナの気持ちを少しでも落ち着かせられるかなって思ってさー」

「……気付かれてたのね」



 帽子をずらし、彼女の頭を優しく、愛おしそうに撫でるレイア。羞恥心を隠すためか、ずらされた帽子を自身の顔へと移動させ、完全に表情を隠すミーナ。

 実際、彼女の胸中に気が付いたのは大護であったが、伝えるのは無粋と考え、真実は黙っておくことにした。



 穏やかな空気が流れる。時折、二人の間に優しい風が滑り込むように吹き、衣服が、髪が揺れる。

 その様子はまるで一枚の絵画のようにも見え、道行く人々は一瞬足を止めて見入るほどだった。



「もう……大丈夫よ。ありがとう」



 やがて、ミーナがそう言いながらレイアの足から離れる。時間にしたら数分程度の事ではあったが、彼女の様子を見ても、落ち着いたのは間違いないだろうとレイアも確信できた。



「ん、そっか。良かった良かった」



 笑いながらそう言うものの、レイアはミーナの髪から自身の手を退けようとはせず、最早手触りを楽しんでいる様な状態になっていた。



 ……まあ、それでもいいか、と。その手を拒むことなく、微笑みながら受け入れるミーナ。

 そんな彼女たちの元へ大護と冬馬が戻ったのは、それからさらに数分後の事だった。

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