勃発の街中イベント
例の現場から離れて、ちょっとした広場の噴水で休憩する事になった。それにしても……
「なぁんであんな場所であんなに熱くなっちまったかなぁ。……うへあ、周りの視線を思い出すだけでむず痒くなるうう」
「なーに落ち込んでんだよぉ大護ぉ。やっちまったもんは仕方ねえって! それに目立ったところで悪い事なんてないだろうよぉ?」
「純粋に恥ずかしいだろうよ、無意識のうちに自分をさらけ出してて、それも見ず知らずの人に見られたんだぞ? 地球に居た時に、お前に相手に口を滑らせた時より羞恥心が込み上げてる……」
穴があったら入りたいとはまさにこの事だ。一旦自室に籠ってベッドでごろごろしてたい。さぼりの口実みたいになってるけど、そうじゃないんだ信じてくれ。誰に弁明してるんだ俺はあああ。
「何か……ダイゴがすごく珍しい状態になってるね」
「え、えぇ。……ちょっとかわ……」
「え? 何か言った?」
「――っ。いえっ、何でもないわ」
「俺には、ばあああッちり聞こえちゃったぜミーナちゃーん。後で本人にも伝――」
「"クリスタロス"。『アリスィダ・ハイレイン』」
「あ、あれ? なんかその魔法対抗戦の時と違くない? すんごく肉に食い込みいいいだだだだッ!」
「当り前じゃない。ちゃんと特訓してたんだから。それより……何か言ったかしら?」
「み、ミーナちゃんの背後に般若が見える……ッ!?」
「私の質問の答えは、どうしたのかしら?」
「いいいい言ってない言ってない! 言ってないし言わないいいいいだだだだ!? 嘘だろ!? そこそこ強めに身体強化してるのに!?」
「……何か"言ったかしら"としか聞いていないの。"言わない"って答えが聞こえるのはおかしいんじゃないかしら?」
「ひっ、ひいいいいいいいいいいいいっ!!」
「……ミーナ、なんか楽しそうだね」
◆ ◇ ◆
「えっとさ、ミーナ……どういう状況?」
「……」
「……えっとさ、レイア。どういう状況?」
「なんか、ウチの口からは説明しきれないや。……強いて言えばミーナはなんか楽しそうで、トーマはなんか、今朝ミリ先生に怒られた時と同じ顔してた」
「おっけ。八割くらい把握できた」
「えぇー。それもなんかなー」
俺が羞恥心から解放された時、冬馬は真っ白に燃え尽き、ミーナは俺と目を合わせてくれない状況になっていた。今回は俺は何もしてないぞ。絶対に。……多分。
……間が持たない。こうなったらお決まりのセリフで場の空気感を変えるしかない!
「そ、そろそろ飯でも食べないか? 流石にずっと歩き続けて、みんなも疲れただろうしさ!」
「あぁ、そういや俺も腹ペコだわぁ。ガッツリ肉でも食べてえ」
「ならあそこの屋台なんかどうだ? さっきから結構いい匂いが来てるしさ」
「おお! 俺も気になってたぜあの店! どうする? 二人は待ってるか?」
「ちょっと待って。違和感無しに会話に加わったトーマに対して、ダイゴは何も言わないの? さっきまであんなんだったんだよ?」
「……まあ、今更いいかなって」
「よく分からないけど……そのくらいの気持ちでいないと、トーマと過ごしていけないって事は感じたよ」
大きなため息を見せるレイアと俺に対し、何のこっちゃと思ってるであろう、今の今まで燃え尽きて真っ白になっていた冬馬。張本人には伝わらないのは今更なのだ。
でも、レイアに俺の言いたい事は十二分に伝わったらしいから……おまけにこそッと一言囁いておこう。
「そんな気持ちが無くてもレイアなら"一緒に"過ごしていけるって」
「――ッ! ダイゴーッ!」
叫ぶレイアから逃げるように距離を取り、その勢いのまま冬馬の肩を掴んでお目当ての屋台を目指す。さーて、お肉が俺たちを読んでいるー。
「大護……レイアに何吹き込んだんだあ? アイツのあんな顔初めて見たぞ」
「乙女の秘密だ」
「……成程」
「いやツッコメや」
「あながちあり得るな、と」
「そんな馬鹿な」
冗談は程々にしておいた方がいいのかもしれない。
屋台の近くまで行くと、そのいい匂いがより一層際立ってきていた。焼かれていたのは肉の塊というシンプルイズベストな料理だったが、意外とお客さんも多く、購入するのに少し時間が掛かってしまった。
あと少しつまみ食いしたら予想外に美味しくて、追加で購入していたって事もあったから思ったよりも時間が掛かった。
まあ時間が掛かったと言っても、ほんの数分ってところだったし、ミーナたちから何か言われたって訳ではないんだけど……想定外な事件が発生した。というよりも発生中だ。
「いいだろぉ~ちょっとくらい付き合えよぉ~? 君たちみたいなカワイコちゃんを置いてった男たちなんざほっといてさぁ」
「そうそう、俺たちの方が目一杯楽しませて上げられるぜ? 最後は楽しませてもらう事になるかもしれねえけどよぉ」
戻ってきたらミーナとレイアが大柄な変なの二人に絡まれてた。こういうイベントは定番っちゃ定番だと思うけどさ、ホントに遭遇しなくてもよかったんだよ?
つーか見た目だけだとだいぶ厳つい奴らにも関わらず、あの二人全く持って動揺してないし。ゴミを見るような目で無言で男二人に視線を送り続けてるし。……アイツ等には視線の意図は通じてないみたいだけど。
「ほぅら、そぉんな寂し気な目をさせちゃってさぁ~。お兄さんたちがたっぷり癒してやるからよぉ」
と、呑気に傍観してたら、一人の男の手がミーナへと伸び始める。
「冬馬」
「ん」
買った肉を冬馬へと投げ渡し、ミーナと男の間へ割り込み、そのまま男の手を右手で掴む。
冬馬がしっかりキャッチしてくれはしたが、食べ物を雑に扱ってしまった事に関しては後で屋台のおっちゃんに謝りに行こう。
でも俺の分を口でキャッチしたのは冬馬に文句を言っていいと思うんだ。
「おあっ! な、なんだぁテメェはぁ!?」
俺に掴まれた手を勢いよく振り解き、後退るように距離を取る男。まあミーナたちに触れさせないようにしただけだったから、強く掴んでた訳じゃないから当然か。
「こんな美少女なもんだから、声を掛けるだけなら許してやるけど……お触りはいただけませんな」
それにあれ以上近付かれたら、ここにいるのが皇女だって事が周りにもバレる。平穏の為にもそれは避けたいという思いが一割、国王様……この場合はミーナパパ、かな。まああの人の嫉妬の末、何言われるか分からない。娘の事になると色々……ね、あれな人だから。良くも悪くも。
「うわダッセー! ガキ相手に何ビビってんだよお前!」
「うるせぇ黙っとけ! ……カッコよく登場出来てよかったなあ坊主。テメェと話してる時間はねえからさっさとそこをどきな」
そう言って右手をひらひらと振ってくる。勿論ハイそうですかなんて言う筈がないので、なるべく穏便に引き下がってもらえるように、優しく声を掛けていこう。
「お前等には勿体ない子たちだからここは退けないなあ。もう少しいい男になってから出直しておいで!」
俺が出来る最高の笑顔でオニイサンたちにそう告げる。やれやれ、これで穏便に引き下がってくれると良いんだけど。