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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
語られる過去と今
131/148

ありえない

「"ダークネス・ウェイブ"」



 突き出した左腕から、衝撃波が放たれる。先ほどまでと同様に魔法を消し去ろうとしたレイトだったが、突如その身を翻す。しかし僅かに反応が遅れ、ナックの魔法がレイトの足を掠めた。



「――ッ」



 初めてレイトの表情が歪む。最上級魔法でさえも砕き割ったその身に、痛みが生じたからだ。

 だが、そんな痛みなどお構いなしとでも言うのか、体勢を整えたレイトは、開いていたナックとの距離を一気に詰める。

 一瞬の内にナックの目前へと迫ったレイト。そのまま頭蓋を叩き割るように拳を振るうが、その拳は空を切る。



「あら?」

「――"インフェルノ"」



 真紅の業火が、レイトの体を包み込む。

 闇属性と火属性の混合魔法"インフェルノ"。その業火は、対象の姿が完全に焼けきるまで燃え、相手の命を確実に奪ってきた魔法。

 あと数十秒もしない内にレイトの姿は灰となり消え去る筈の魔法だったが、



「ガ――ッアアアアアッ!?」



 火中からの咆哮、魔法の消滅。

 文字通り必殺の魔法として使っていた魔法は、レイトの力業によって打ち消された。



 服が焼け、素肌の露出が増え、息も絶え絶えの状態となる事は想定内。しかし、体に大きな損傷が見られない事と、ナックにとって想定外の出来事だった。

 それでもナックに、焦りの表情は見られない。



「"ヘル・テンペスト"」



 ――暴風、業風。吹き荒れる、風、風、風。



 ウィードが使用した風属性上級魔法テンペストに闇属性を混合させた、広範囲殲滅魔法。それをたった一人の人間に向けて撃ち放つ。



「うお――ッ!?」



 ウィードの風属性上級魔法テンペストでは微動だにしなかったレイトの体が宙に舞う。入り乱れる風と闇の刃にその体を引き裂かれながら。

 業風ヘル・テンペストにレイトの血が混ざり始めた時、その中心からレイトが上空へと飛び出し、業風ヘル・テンペストの射程範囲外へと降り立つ。

 レイトの姿を見て怪訝な表情を浮かべたナックは、魔法の発動を止める。



「テメエ……何で"無傷"なんだ」



 服は裂け、呼吸も乱れている。なによりも、業風ヘル・テンペストが赤く染まり始めた事もナック自身確認している。しかし、出てきた敵からは出血が見られない。



「さぁ、ね。自分で、考えてみなよ」

「そうするぜ。さっきまでみてえなふざけた態度は、もう取れねえみたいだしよ」

「それは……どうかにゃァ!」



 低い姿勢のまま、弾丸のようにナックへ迫るレイト。そのまま下から突き上げるように左拳を振るい、ナックの目前へと拳が迫る。

 しかし、ナックの顎を捉えたと思われた拳は、またも豪快な音をたてながら空を切る。



「そこッ!」

「――ッ!?」



 拳を振り上げた状態から無理やり体を捻り、自身の体の左側へと回し蹴りを放つレイト。その蹴りが、咄嗟に上体を反らしたナックの鼻先を掠める。

 しかし、無理な体勢での攻撃だった事により、レイトの大きな隙が生まれる。反らした上体を直ぐに起こし、そのままレイトの懐へと入り込み、右手をレイトの腹部に押し当て、ゼロ距離で魔法を撃ち放つ。



「"シャイニング・ノヴァ"!」



 極光が弾け、レイトの体を包み込む。光り輝くその魔法は、一見すると温もりを分け与えているようにも見えるが、勿論そんな魔法ではない。

 レイトの体全身に広がっていた光はそのまま一気に収縮。そして――



「――――ッ!?」



 レイトの胸元で爆発。その勢いによってレイトの体も宙を舞う。成す術なく打ち上げられるレイトの様子を見るナックだったが、その表情から警戒が解かれる事はない。



 やがて全ての爆発が収まり、レイトの体から光が消え、地面へと落下していく。

 地面へと激突する事はなく、空中で体勢を整えたレイトは、何とか両足で地面へと降りた。しかし肉体への負担は相当なようで、落下の衝撃に耐え切れず、両膝を地面に付ける。



「はぁ、はぁ……がはッ!」



 呼吸を乱し、脂汗を流す。地面へと吐血し、先ほどよりも目に見えて疲弊しているのが分かる。分かるのだが、やはりその肉体には傷がない。吐血したという事を含めると、外傷が、と言った方が正確かもしれない。

 手加減などしていない。全ての攻撃を、殺すつもりで仕掛けている。それなのに、何故……。その考えが、ナックの脳内を埋めていた。



「そんなに、眉間に皺寄せちゃって……老けても知らないぞぉ?」

「……」

「遂に無視ッスか。傷付くなぁ全くもう。俺っちはこんなに満身創痍の状態で話しかけてるってのにさあ」



 無視……というよりは、反応する余裕がなかった、というのが正しいのかもしれない。

 戦況は明らかにナックへと傾いている。にも拘らず、ナックの心中からはレイトに対しての不安が抹消されない。



 明らかにダメージを与えているにも関わらず、その体に傷は刻まれない。

 ……あり得ない、あり得ない事だが、ナックの脳内には一つの可能性が浮かび上がっていた。



「テメエ……まさかとは思うが、常時回復魔法でも使ってやがんのか?」



 暴風ヘル・テンペストを撃った時、明らかに魔法自体が血で染まっていた。しかし、暴風ヘル・テンペストから抜け出したレイトからは、傷口の一つも見当たらなかった。

 そして今。吐血したという事は、明らかにダメージは入っている。しかしそれ以外の外傷が見られない。となると……そう考えたナックに思い浮かんだのが、そんな突拍子もなく、あまりにも現実離れした答えだった。

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