対抗戦予選 ①
時刻は朝の六時。登校時間の八時三十分より大分早い時間に、俺は学園の訓練場を借りて、冬馬に創ってもらった指輪の性能を試していた。
向こう――地球にいた頃より格段に身体能力は上がっているが、昨日より大分動きづらい。今までが良すぎたのもあるけど。
「ふぅ。一先ずこのくらいで、次は魔法も試しておくか……」
そう独り言をこぼした俺は、魔法を使うために呼吸を整える。
使う魔法は上級魔法の『インパクト・ボルト』雷を一点に集中させて球体を作り、相手に放つ魔法。形状から『ボール』系統の魔法と間違える人もいるが、威力が段違い。さらに遠隔操作も可能になっている魔法。
まぁ特殊属性+上級魔法だから、消費魔力は凄まじいけどな。
意識を集中させて雷を自分の前に集める。五秒程度でサッカーボール程の大きさになったそれを上空に放つ。そのあとは空中で縦横無尽に走らせるようにコントロール。
大体三分ほど動かしたのちに訓練場の壁に"インパクト・ボルト"をぶつけた。
激しい爆発音でも鳴るかと身構えていたが、予想は大きく外れて、俺の放った『インパクト・ボルト』は音を出しながら壁にぶつかり、そのまま消えていった。
「……あ、あれ? 失敗したか?」
そう呟いた矢先、壁全体に亀裂が入り上から崩壊していく。幸い、自動修復の力が働いたお陰で、大事には至らなかったけど……。
「この魔法……人に使っちゃダメじゃね?」
そう言わざるを得ない効果だった。
朝の自主練を終えて部屋に戻った俺はその後、シャワーを浴びて簡単に朝飯を済ませて部屋を出て、冬馬の部屋に行く。
チャイムを鳴らすが返答がない。寝てるなアイツ……よし、置いていこう。
冬馬を置いて一人で通っていると、ミーナが前を歩いているのが見えた。珍しいな、普段はもっと早くから教室にいる筈なのに。
「よっ、おはようミーナ。今日はいつもよりちょっと遅めの登校か?」
「あ、キリュウ君。おはよう。ええ、ちょっと父と連絡を取っていたのよ」
「ミーナのお父さん……って国王様か?」
「そうよ、そろそろ"学年混合対抗戦"も始まるし、その報告も兼ねてね」
「"学年混合対抗戦"?」
俺がそう言いながら頭にハテナを出していると、ミーナが続ける。
「そう。毎年の恒例行事で、クラスごとに代表チームを出して、全学年でトーナメント形式の試合をするのよ。一年生にはかなり不利かもしれないけど、それも勉強の一貫にしてるの」
そうじゃないと一年生には意味のないものになってしまうしねと、ミーナは続けた。確かにそうだよな、入学してから一ヶ月そこいらで急激に強くなれるわけなんてないしな。
とゆうかそんなビックイベントがあったなんて……! くそっ、ちゃんと話を聞いておくんだった!
「って待てよ、その対抗戦っていつやるんだ?」
「本当に何も聞いてなかったのね……対抗戦本選は今から約二週間後。その前のクラス代表枠を決める試合は今週中には行われるわ」
うわー。かなり間近に迫ってたわ。女神様に貰った力をフルに使えばまぁ問題はないと思うけど……それじゃつまんないよな。
「まぁ、今週中って言っても今日明日唐突にやることは無いとは思うけど、いつでも大丈夫なように準備はしておいた方がいいと思うわ」
「だな、今更嘆いてても仕方ないし。因みに、代表はどうやって決めるんだ?」
「それは分からないわ。先生ごとで違うみたいだし。去年はくじ引きなんてクラスもあったくらいだから」
それだけは絶対に嫌だな。つーかいいのかよ、大事なクラス代表をくじ引きなんかで決めちゃって。そんな感じで話をしながら学園に向かっていた俺だった。
因みに冬馬は八時二十九分に登校してギリギリで遅刻を免れていた。
「───と言うことで、唐突で済まないが、午後の戦闘学の授業で、対抗戦のクラスの代表を決めることになった」
リル先生の突然の一言にクラス内はざわつき始める。そんな中俺は隣の席のミーナに、首だけ回して目を向ける。ミーナもこちらを見ていたから目が合ったが、頬を軽く掻いて再び前に向き直る。
こんな時もあるわよと言われた気がしてならないんですけども。
リル先生の話によると、クラス代表を決めるために訓練場を確保しようとしたが、空いている日が今日の朝一か午後のどちらかしかなかった。それで、朝一は流石にマズイと思ったかららしい。
これがよくある展開の、担任が怠慢でグータラ野郎とかだったらみんなで責め立てるところなのだろうけど……
「他のクラスがこんなに早く決めているとは思っていなかった。完全に私のミスだ。みんな本当にすまない」
なんて言われちゃったらそんなこと出来るわけないよな。第一リル先生程、真面目な人なんて早々いないだろうし。
「なぁ大護よ、対抗戦って……なんぞ?」
「ったく、先生の話くらい聞いておけよ冬馬」
「それ貴方が言えるのかしら?」
隣から適切すぎるツッコミが来たが、今回は流させてもらう。
とりあえず冬馬に、今朝ミーナから聞いたばかりの情報を簡単に説明する。要するに代表決めるんだな! 腕がなるぜ! と意気揚々とし始めた冬馬。いや、そこは最初にリル先生言ったじゃん。
「なになにー? トーマは今頃盛り上がってんのー?」
盛り上がる冬馬の後ろからヒョコっと顔を出したのはレイアだった。その後ろにはレドとノエルもいる。
「しゃーねぇだろ? 今初めて聞いたんだしよ。にしてもクラス代表ってどうやって決めんだろうな」
「去年のオレのクラスでは、入学時の成績が良かった奴等が選ばれてたな」
「ボクのクラスは……そうだ、先生の不意打ちに対応できた人で模擬戦をやったんだっけ」
ノエルの方はまぁ一年の最初だし妥当だと思うけど、レドのクラスのは……いやでも団体戦だから危機察知能力もないとダメか。
「へぇ、色々あんだなぁ。んで? 後ろにいる、ピンク髪のちっちゃい可愛子ちゃんの一年時はどんなだったんだ? てかノエルの後ろにいないでこっちに来いよ」
もう一人いたのか、ピンク髪のちっちゃい子って……
「へっ!? わ、私……ですか?」
そう言いながら顔を出したのはやっぱりアリアだった。
「またお前はオレの後ろに隠れて……その癖早く直した方がいいぞ?」
「か、隠れてた訳じゃなくて……その……」
アリアはそう吃りながらチラッと俺に目を向ける。目が合った俺は手を挙げて軽く挨拶をするが、アリアは下を向いてしまった。俺のことそんなに嫌い?
「ああいう輩が一番たち悪いんですわよねレイアさん」
「ホントねえ。所謂鈍感ってやつなんざましょ?」
変な口調で話始めた二人は放って置き、アリアの話を聞くことに。
「私が一年生の時は……く、くじ引き……でした。どうせ誰が出ても一回戦で負けるから同じだろって、先生が言ってしまったので」
そう言ってアリアはまたノエルの後ろに消えた。アリアたちのクラスだったんだな。くじ引き代表決定戦やったの。
「随分シュールな決め方もあるんだな……」
「そうだね……ボクも初めて聞いたよ」
冬馬とレドがそう言うとアリアはますます隠れていってしまう。俺の位置から見えるのは最早ピンクの髪の毛だけになってしまった。
「まぁ去年のことはもういいだろ? 肝心なのは今日の午後のことだ。ミリ先生に限って、変な決め方はないと思うけど」
「そうだなぁ、あーあ。フツーに戦いになればいいんだけどよぉ」
「あ、フラグ」