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飛ばされまして……  作者: コケセセセ
語られる過去と今
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邂逅

 崩落した岩を蹴り進み、ナックたちの元へと急接近してくる、フードを深く被った男。

 地面へと降り立つ前に一瞬だけシュートの体に触れたその者は、悠々と彼らの前に降り立つ。その様子から危機感を覚えたシュートは、転移を発動させようと試みる。――しかし。



「ッ!? 転移が……いいえ、魔力が……使えないわ」



 シュートの発言に他の三人も驚愕に包まれる。

 魔力を使用不可にさせる方法など、この世には裏で取引させるような違法な薬しかない。あの男が一瞬だけシュートに触れていった事は全員が分かっていたが、その一瞬で薬を投与する事など不可能だと、そう思っているのだ。



「ん? ダンディなおじさんだと思ってたけど、おかまさんだったの? こっちにもおかまさんっているんだなぁ~何だか知らないけどオラわくわくすっぞ! ……ってぇ、この発想はヤバいでしょーよ!」



 「たっはー」と言いながら、己の額をペシリと叩く。実際に鳴ったのが、ポフっとでも言いそうな何とも響かない音だった事が悔しかったのか、ナックたちから目を離し、フードの中に手を突っ込み何度も自分の額を叩く男。



 ようやっと満足する音が出たようで、満足そうに再びナックたちへと視線を向ける。



「それにしてもさーあ。ここ深すぎだよマジで。どんだけ俺っちが死に物狂いで掘り進めたと思ってんだよ全くよぅ! スコップでも何でも持ってくるべきだったなー。お陰で手先がガサガサのボロボロになっちゃったじゃないの! やべ、おかまさんの口調が移っちった」



 一人で話し、一人で盛り上がる。こんな場所で、あんな登場の仕方をしていなければ、間違いなく関りを持たないようなその男に、四人とも視線を外さない、外せない。



「おやおや? あっつい眼差しが飛んできてるねぇ、おいちゃん嬉しいぜ。もう濡れ濡れだよ」



 男は被っていたフードを外し、素顔を晒す。

 赤い髪に薄い目。それだけで、彼が何者なのか……いや。こんな場所に、あんな方法で侵入をしてきた時点で、察しは付いていた。



「ご存知かと思いますが、俺っちの名はレイト=イサキ。闇夜の閃光さん、以後お見知りおきを」



 深々と頭を下げた男は、先ほどの口調とは打って変わっての態度を見せる。一瞬その変化に呆けそうになったが、男が頭を上げ、薄い目が開かれた瞬間、四人に戦慄が走る。



「それでは殺しますので、皆様、さようなら」



 陽気な笑顔を捨て、冷酷な笑みを浮かべた男――レイトは、ナックたちとの距離を一気に詰める。



「――ッ!? 嵐帝ェ!」

「"トルネード"ッ!」



 ナックからの指示とほぼ同時に風属性中級魔法トルネードを、自分たちとレイトの間へと発動させたウィード。

 【嵐帝】の名の通り、彼は風属性魔法に絶対の自信を持っている。それこそ、風属性中級魔法トルネードでも、彼に扱わせれば、上級魔法にも匹敵するほどの強さを見せる程だ。それ故【嵐帝】という二つ名が付いている。



 そんな彼が撃ち放った風属性中級魔法トルネードは、咄嗟の判断の中では、最善の手であったと言えただろう。本来であれば、敵の視界を塞ぎつつも、自軍への侵入も防げる。――しかし、今回は相手が悪すぎた。



「邪魔」



 腕を一振り。たったそれだけの動作でウィードの風属性中級魔法トルネードを打ち消す。



「嘘――っ!?」

「しゃがめ!!」



 驚きにより硬直しかけた体を無理やり動かし、後方から聞こえた声に従う。ウィードを飛び越えるように前衛へと出たナック。右手に漆黒の剣を具現化、迫るレイトの動きを止める。



 ――激しい"金属音"が場に響き渡る。



 鍔迫り合いのような形で、ナックの剣とレイトの腕が力をぶつけ合う。拮抗状態をお互いに離れる事で解除し、レイトは再びナックへ接近を試み、ナックは魔法を展開し始める。



「"シャイニング・ジャベリン"ッ!」



 光属性上級魔法シャイニング・ジャベリン中級魔法ランスに改良を加え、速度、威力共に遥かに向上させた、言わば上位互換の魔法であり、ナックのオリジナル魔法である。



 魔法だけの威力に加えて、光属性という特殊魔法であるからか、その威力は並の上級魔法の比ではない。

 そんな魔法を前にレイトは足を止め、徐に右手を前に突き出す。そして――



「ざ~んねん。届かないよ~」



 レイトに当たると思われた光属性上級魔法シャイニング・ジャベリンは、跡形もなく"姿を消した"。



「な――っ!?」



 目の前の事実に驚きを隠せない帝たち。そんな反応に悦に浸りながら、再度距離を詰めようとしたレイトだったが、自身の視界に影が差した事で、後方へと下がる。



 直後、先ほどまでレイトが居た場所に、ナックによる剣の一閃が走る。



「その程度なら、やってくるだろうと思ってたぜ」

「成程。流石こっちの最強ってところかな」



 お互いが再び前へ飛び出し、激しい接近戦が開始された。

 ナックは漆黒の剣による攻撃が主体であるのに対し、レイトは己の四肢を活かした肉弾戦。僅かではあるが長物を扱っているナックには分が悪いように見えたが、剣で対応しきれない場合には素早く魔法を展開し、互角の戦いを繰り広げていた。



 そんなナックに対し、レイトは魔法は使わずに、打撃のみで応戦する。剣を自らの腕で受け流し、魔法に対しては避けるか、光属性上級魔法シャイニング・ジャベリンの時に見せたように打ち消しながら。

 激しい攻防が続いたが、レイトの僅かな隙を見つけたナックが動く。



「"フラッシュ"」



 光属性初級魔法フラッシュ。効果自体は周辺を明るくするだけのものであり、閃光手榴弾のような強い光も出ない為、本来戦闘時には不要な魔法である。しかしナックの場合には事情が違った。



「"シャドウ・ナイフ"」



 立て続けに、闇属性中級魔法シャドウ・ナイフを発動。その効果は、標的の陰に突き刺す事で相手の動きを数秒間封じる事が出来るというもの。それを光属性初級魔法フラッシュによって発生させたレイトの陰に突き刺す。



「おっ?」



 止められるのはたったの数秒。しかしこの戦いでは、そのたった数秒が命取りとなる。



「喰らいな――ッ!!」



 短く告げたナックは一切の容赦なく、漆黒の剣をレイトへと振り下ろし、レイトの体にはその太刀筋が刻まれ――

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